第19話 兄は弟のために、弟は兄のために
樹
発作に苦しむ照は虚ろな目で陸に仕事に行って欲しいと言い、その言葉を聞いて陸は少し悲しそうな表情になった。自分の事で周りが犠牲になることが極端に嫌いな照。多分陸が今日休めば悪循環な気がして俺は照の意見を呑むように説得した。
陸は抱きかかえてソファに寝かし、照はすぐに眠った。その後すぐに陸も仕事に行ってシーンとした家。
「はる、ご飯食べよっか、」
「照が…っ」
「多分夜寝れてないから少しの間起きないと思うよ。少しそのままにしてあげよ?ほら、残りのごはん食べよ?」
頭をトントンと撫でるとまた目に涙を溜めて立ち上がった。
机に座っても止まらない涙。震える手で箸を持って、白米を口に入れた。鼻をすすりながら食べ、まだ口に残ってるのに沢山ご飯を入れていく。
俺ははるの右手を押え、
「はる、ゆっくり食べな。また吐いちゃうよ。」
そう言うとまた下を向いて泣いた。俺ははるの横に移動して背中を摩る。
「ぼくのせい…っ、ぼくの、」
「ちがう。」
「僕が、兄弟が欲しいって、そう言ったから…っ、ママは……っ、」
「はーる。」
「ママは苦しんで苦しんで……っ、酸素が、照にいかなかったから…っ、だから……こうやって……っ、」
そんな姿を見てまたあの日を思い出す。
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中2のあの日に、朝起きてこなくて部屋に行くと陽翔は過呼吸を起こしてて陸がどうしたんだと焦っていた。そんな声がリビングまで聞こえてきて、俺は照と目が合った。
「ちょっと行ってくる、ここにいてよ。」
なんか嫌な予感がした俺は照に聞こえないようにリビングを出てからドアを閉め陽翔の部屋に入ったら、目を真っ赤にして陸の肩を持って
「ねっ、、ぼくが、ママを殺したんだよね……っ!?」
「な、何言ってんの?はる、どうした、ちょっと落ち着こ?」
僕がママに兄弟が欲しいとわがままを言って、結果的にママは死を覚悟して照を身ごもった。十月十日ずっと苦しんで、結果的に照までそのせいで心臓に病気を産まれたんじゃないか、だからこうやってずっと病院に縛り付けられてるんじゃないか。美味しいものも食べれなくて、喉が渇いても水が飲めなくて、楽しいことなんて全くない生活にしてしまった。と、泣きながらはるはそう陸に伝えた。
「そんなことない、」
「だって……っ、びでおで……そう言ってた、」
ビデオ……?俺はすぐにあの日のことを思い出す。あれは絶対2人に見せないと陸が隠していたはずだった。なのにどこかから陽翔は見つけてしまって事実を知ってしまった。あれは"たまたま"起こった出来事じゃなかった。"なるべくして"起きてしまった出来事だと。
その日を境に陽翔は、俺らが小さい時から恐れていた心の崩壊が起きてしまった。フラッシュバックを起こしたり、もう居ないママを探したり、精神安定剤と化した勉強にのめり込みどんどんと塞ぎ込んだ。
照がしんどくても辛くても寂しくても何も言わないのは、こんなに弱い自分を心配かけないため。照に我慢させないように頑張っても、抑えきれない不安や恐怖がまた心をかき乱し結果的に照を苦しめていく。
ある日、過労と照や陽翔のお世話によって、俺らの前で陸は倒れた。幸いにも休養ですぐに良くなったけど、はるはそれすら自分を責めた。パパが大好きだったママを奪い、寂しい思いをさせて泣かせた。そして1人で僕たちを見るようになって照と一緒にいることの方が大切なのに僕に時間をかけさせたから休める時間がなかった。だからパパが倒れたんだ。
全部全部僕が悪いんだ。ママが死んだのも照が病気で苦しんでることも。全部。全部。
未だ乗り越えるどころか「自分のせい」が増えていく毎日。でもみんなを安心させたくて頑張って、マインドコントロールをしても抑えきれない衝動に揶揄されながらこうやって苦しめられている。
ごめんなさいが止まらない陽翔に薬を飲ませて、床に布団をひいて寝かせる。そして照を抱いてその横に寝かせた。さっきよりは顔色が良くなった弟をみて安心したのか手を握って目を瞑った。
「……どうしたら良かったんだろうな。」
眠ったふたり見て漏れた言葉。……そんなこと俺が言ってちゃダメだな。洗い物を終わらせて、部屋から仕事道具を持ってきてふたりが見える位置で仕事を始めた。
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そして先に起きたのは照。起き上がって俺の名前を呼んだ。
「おーおはよ。少し楽になったか?」
「うん。」
すると横の陽翔をじーっと見た。
「……照、また隠してたな、発作。」
「……」
「夜、結構しんどい発作起こしたんじゃない?」
「べつに……そんなに強いやつじゃないし……」
「先生との約束だろ、発作起こしたらちゃんと俺か陸を呼ぶって。」
「でもあれくらい耐えれるもん……」
「急に耐えれなくなった時どうすんの?耐えれる時に呼ばなきゃ。」
もう反論することが無くなったのか何も言わなかった。
「もっと俺らに教えてよ。照の色んなこと。もっと素直に生きろ。」
お説教はこの辺にして、もうお昼が近づいたからご飯を作る。何も言わずにご飯をたべておえて手を合わせた。
「……泣いてたよね。」
「ん?」
「はる君。」
「まぁな。でも照が頑張ってる姿をちゃんと見てたよ。」
俺の言葉を聞くと照は食器を持ち立ち上がってキッチンに戻してからまたはるの横に行った。
そして横向きに寝ているはるの前に座り、身体に手を置いてトントンと撫でる。
「薬、飲んだんだね」
「あぁ、うん。なんで分かったの?」
「はる君は神経質だから近づくだけで起きるもん。触っても起きないから薬で寝てるのかなって。」
「確かにね、」
それだけ言うとまた横に寝転んで照は携帯を触った。そして俺はまた仕事を始めて、時間が経ってから見ると眠ってて、またあの頃のように軽く抱きしめていた。懐かしい景色を長方形になった携帯電話に収め、陸に元気そうって送って仕事を再開した。
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