第18話 行って欲しい

陸人


朝起きていつものように照の部屋に入り、照を見る。身体を丸めクッションを抱えたまま横たわっている姿に若干の違和感を覚えた。肩が動いてるから息はしてる。

起こそうと近づくと独特の呼吸音が聞こえる。今日…寒いもんな。低い音と笛を吹いたような音が時々聞こえる。俺は横に置いている血中の酸素濃度を測る機械、パルスオキシメーターを人差し指につける。ピッ…ピッ…という音の後に表示されたのは、いつもより低い数字。だよな、顔色悪いもん。

「…ん…」

流石に気付いたのか自分で目を開けた照は状況を察すると直ぐにパルスオキシメーターを外した。

「勝手にすんなよ、」

「夜中発作起こした?」

「起こしてない、」

「顔色悪いし酸素も低いよ」

「大丈夫だから、」

そう言うと起き上がった照。

「……学校休みな、」

「大丈夫って言ってんじゃん。着替えるから出てって。」

「照、」

「もうウザイってば、」

立ち上がって制服を手にかけた照を見てとりあえずリビングに戻る。

「……照、体調わるいかも」

「ん?発作起こしてたの?」

「俺が行った時は寝てたんだけど、顔色悪くてさ酸素も低かったんだよね。喘息も出てきてるし」

「休ませるの?」

「聞かないんだよね…」

悩んでると照がいつものように出てきて何も言わずに席に座った。樹も照の顔色を見て少し苦笑い。幸いにもはるには聞こえてなかったみたいだから知らぬふりをしていつもの席に座った。ニュースを見ながら食べ進めると、照の箸が止まり若干身体を丸め下を向いていることに気付く。

「照?」

「……な、に……」

「痛いの?」

「べつに…、」

別にってことないだろ、そうと言い出そうとした時、照は一瞬、顔を顰めビクッと身体を震わせた。発作だ、すぐに察した俺はすぐに横に行き身体を支えた。

「樹、そこの薬取って、」

すると、痛みが強くなってきたのか左の胸ポケットの当たりを握った。

とりあえず危ないから床に降ろし、後ろに回って支える。その間に樹は酸素やらなんやらを俺の横に用意し、

「はる、向こう行こうか」

「ひかる…っ、ひかる…っ、」

少し唇の色が悪くなってきた照の手を握って呼びかけた。

「はる、」

「ひかる…っ!!」

過呼吸を起こしかけてる陽翔の肩を持ち向こうの部屋へと連れていく。

「やだっ、、っ、ここにいる、」

見えるところに居たいって泣くはるにわかったと樹ははるを抱きしめこちらを見る。2人の荒い呼吸が聞こえる。

その間に薬を使った俺は、意識を飛ばさないように呼び掛け続けた。さっきよりも色んな音が混じった呼吸音。

「照、わかる?苦しいな、酸素マスクつけるからな。」

大丈夫、頑張れしか言えない俺。いつもこの時は自分の不甲斐なさに心が犯される。何とか落ち着いたみたいで左胸にあった手はだらんと垂れた。

「落ち着いたか?」

「ん…、はぁっ……はぁっ……」

「よく頑張ったな、」

「ねぇ……」

「ん?」

「はぁっ……はぁっ……しごと……いって……」

「何言ってんの。今日は横にいるよ?」

「いい、…って……、」

座ってられないくらい体力を消費しても尚強がる照に無性に腹が立った俺。どうせやっぱり夜発作起こしてただろ?俺の中でちょいちょい船を漕ぐ姿に寝れなかったんだと気付かされる。汗を近くにあったタオルで拭くと、残りの力でなんとか阻止しようと反撃するけどその手の色も悪く冷たい。

「……陸、俺見とくから仕事行ってこい。まだ時間間に合うだろ?」

「でも、」

「そうする方が照がちゃんと休めると思うから。」

やだよ、そんな気持ちを込めて樹をを見たけど、行ってこいという目をしていた。

「……わかった。出来るだけ早く帰ってくるから。ちゃんと樹に苦しいとか痛いとか言うんだよ?約束してくれる?」

ちゃんと照の目を見て言うとコクッとうなづいてくれたので抱えてソファに運んだ。

「寝れるなら少し寝な?学校には連絡しとくから。」

そう言うとすぐに照は重い瞼を閉じた。さっきより色が良くなった唇を見て安心する。

「はる、おいで。」

涙を沢山流したお兄ちゃんを抱きしめる。

「もう大丈夫だからね。でも、今日一日はしんどいと思うから横にいてあげて?照、はるといる時が1番落ち着くと思うから。」

そう言うと涙をふいて、だらんと垂れた照の手を握った。

「なんかあったらすぐ連絡するから。」

「うん……お願いね。」


俺は急いで身支度をして、もう一度照の頭を撫でてから仕事へと向かった。

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