第12話 パパが怒るのは俺のせいでもあるんだよ?

陽翔


「ひかる……はいっていい…?」

部屋の前で少し小さい声で聞くと

照は、うん、と答えてくれた。

入るね、もう一度断って僕は部屋に入る。


電気もつけず僕らを照らすのは月明かりだけ。

照は壁付けにしてるベッドの上に座り、

俺を見ると壁から背中を離し、あぐらをかいた。


心配が顔に出ている僕の顔を見て


「……俺は、大丈夫だよ?」


何も聞いてないけど目を細めてそう答えた。


沈黙の時間が続き、パパが食器を洗う音だけが聞こえてくる。

「……ごめんね。」

俺からは目線を外し下を向いて、そう呟いた。


そう、俺も嘘をつかれた身。


……でも、わかるよ、沢山悩んだんだよね、体育大会。


行かないという選択肢は、一般常識的にはなくって。


でも、一般常識的には参加できなくって……さ。


「……皆と同じことできないって、……凄くさ、辛いよね。」


僕がそう言うと、照は座り直し膝を抱えた。

その横へと腰かける。


「……パパが怒ったのは照のせいだけじゃない、僕のせいでもあるんだよ。」


「え…?」


「……中1の時、いつものように高熱出しちゃってさ、うんうんと魘されて…出れなかったの。」


「あれ……そうだったっけ。」


「あの時照入院してた。このことは言わないでってパパに言ってたから、ちゃんと約束守ってくれてたんだね、笑」


「……言ってよ…。」


「ごめん。……それから、……僕が…ママのことを知って、学校に行かなくなった。久々に行っても、すぐ体調が悪くなったり熱が続いたり。どんどんと……クラスの子との距離ができてきてさ…」


益々学校に行きたくなくなってきたんだ。


元気張ろうと思っても体が言うことを聞かなくて、そんな自分が嫌になる。


「……結局、中2でも参加出来なかったんだよね。

パパ来る気満々だったのに。

どうしても体が言うことを聞いてくれなかった。」


「そっか。」


「……照は中3の時だけは皆で行ったよね。」


「うん、中1と中2の時はそれまでずっと体調が優れなくて参加出来なかった。」


「そうだったね、中3の時、見てるの辛かった……?」


「……つらい、…っていうか……」


照は首を傾げながら考え、その後に言葉は続かなかった。


「それとも、今日までの話し合いで何か言われた?」


すると照は思い当たる節のあるような顔をしてまた下を向いた。


「……体育大会に出たことがない時は、出てみたいっていう気持ちだった。みんな楽しそうだったから。」


「うん」


「……でも、中3の時初めて参加した時に、これって

参加するから楽しいんじゃない?

参加するからお腹がすいて弁当が美味しいんじゃない?

参加するから練習する時間が楽しいんじゃない?

……そう思っちゃった。」


「うん…。」


「高校だと、中学の頃よりやりたいことを叶えれるから、皆すごい盛り上がっててさ。

ダンスとか…クラスの出し物とかさ。

なんか…1人だけ取り残されてるな、って思うし、努力でどうすることも出来ないし、……また今年も丸一日何もせず皆が参加して楽しそうにしてるのを指をくわえてみる時間を過ごすのか。って思うと億劫だったんだ。」


「……」


「……話し合いしててもさ、絶対俺には意見を求めてこない。……それはそうだよね、だって参加出来ないんだし。気を使うよね。

……あー、ごめん。性格悪いな俺。もう忘れて?笑」


……またその笑い方。

無理に目を細め、声の高さをあげる。

悲しいことを隠す時の照の技だ。


「忘れないよ。教えてくれてありがとう。

それに今日参加しなかったこと、僕は怒ってない。

気持ちがわかるから。

……でも、もしどこか怒っている場所を探すとしたら……その気持ちを体育大会の前に聞きたかったな。

パパへの説得とか手伝ったのに、」


「……共犯になってくれるの?笑」


「いいよ?可愛い弟のためだもん。笑」


ふは、そうわらって照は顔をくちゅっとさせて笑った。


……そう、そうだよ、そうやって笑っててよ。照。



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