第8話 嘘つき


 学校終了のチャイムが鳴り、みんなは大きな荷物を持って部活に行く。


 俺はと言うと、一直線に玄関に向かい、今から憂鬱な場所へ向かわないといけない。


 みんなみたいにニコニコしながら行けたらなぁ。


「はぁー……」


玄関を出て、目の前の運動場にはもう野球部の部員たちが走っているし、サッカー部の面々は、めんどくさそうな顔をして、部室へ向かっていた。


「あぁ、練習、だるいなぁ……」


すれ違いざまに、そんな声が聞こえ、聞き流していたらいいのに、虫の居所が悪かったのか引っかかってしまった。

部活出来るだけいいだろ。

当たり前にできるお前らにはわかんねぇか。……って。

あぁ、またこんなこと考えてる。もうやめよ。


俺は、耳にイヤホンをつけて、外の音を遮断した。

本当はゆっくりした曲が好きだけど、こんな心理下で今から行く場所が病院だなんて、気が滅入る他ない。

いつもは聞かないアップテンポの曲を流し、いつもは行かない駅から大学病院前駅へと向かう。


――――――――――

 

何階建てかわからないような大きな病院。

昔からの常連で、もう目をつむってでも歩ける位ここに通っている。


いつも通り、入り口入ってすぐの機械に診察券を通し、受付をする。

それまでに採血をしに行き、終わったら何十個もある診察室を通り過ぎて、1番端の席に座る。


さぁ、今日は何分待たされるかな。


そろそろお尻が痛くなってきた頃、俺の名前が呼ばれた。

扉の中を入ればよく知った顔が見える。


「こんにちはぁ。小児科の田中です。」


「知ってるよ。笑」


生まれた時からのお付き合いなのにまたこうやってからかってくる

俺に突っ込まれた先生は少し笑って、椅子を回して、俺と向かい合った。


「採血お疲れ様。よく頑張ったね」


「別に頑張ったうちに入らないけど……まぁでも今日新人?だったのか、めっちゃ痛かった、」


「それは申し訳ない笑……体調はどうかな?」


「……別に。いつも通りだよ」


「発作はどれぐらいで起きてる?」


「たまに」


「頻度は?どれくらいの発作?」


「2、 3日に1回……くらいかるーいやつだよ」


「……そっかぁ。」


「……」


田中先生は何も言わず、パソコンに視線を戻して、ずっと何かをスクロールしていた。


その時間がとても長く感じた。

そんな重々しい雰囲気の中、やっと田中先生が口を開いた。

 

「……採血データと合わないね。」


 ……あ、やべぇ。


「……何か大きな病気が隠れてるかもしれないから、にゅう、」


「いや、、!……もー…ちょっとあるかも……」


「…………発作って隠していいんだっけ。」


「……だめです…。」


「そうだよね?……もう一回聞くよ?発作の頻度は?」


「大きさにはあるけど……毎日あるかなぁ……。」


「……うん。小さい発作が毎日ある?」


「まぁ、小さい発作といっても、薬使うか迷う位のやつだけどね。」


「……ねぇ。」


「はい…………」


「発作が出たら大きさ関係なく薬はどうするんだっけ。」


「……つ、使います……。」


「……そんなに自己管理ができないなら、いろんなことを制限しなくちゃいけないね。」


「……す、すみません…。もうしません……。」


「そうしてください。……大きいのはどれくらいある?」


「んー…… 2.3日に1回かな……。」


「そっかぁ。やっぱり夜が多いかな?」


「……うん。」


「そうだよね。これが採血データーなんだけど、この数字が心臓の数値で、」



採血データーに赤マルをつけながら話してくれる。

俺はいつも高いっていうHと低いっていうLマークばっかで、正常値を探す方が難しいんじゃないかな。




「次、心電図検査とか色々しようか。平日の午後からでもいいかな?」


「いつでも。」


「お父さんいつ休み?次一緒に来て欲しいんだ。」


「……ぜったい……?」


「樹でもいいよ」


田中先生といっくんは高校の時の同級生らしい。


「……」


「照……?発作の時ちゃんとお父さんかはるくんか樹の助け呼んでる?」


「……呼んでるから。」


「1人で我慢してない?」


「してないって、」


見透かされそうな目を凝視することが出来ず俺は予約の予定調整を催促して診察室を出た。



――――――――――


会計を終えて家へ向かう、



帰りながらもう一度採血データーに目を通し、



「……わるくなってんなぁ……」



まぁ……そらそうか……


――――――――――


「……zzz……」


「……zz…………いっ……」


「いっ……はぁっ……はぁっ……」



突然襲ってくる胸の痛みはどれだけすやすや寝ていようが、空気を読まずにやってくる。



身体を丸めて必死におさまるように抑え込むけど、良くなる兆しゼロで俺は近くに置いている薬に手を伸ばし、口の中に噴射する、


それで治まればいいけど、治らないことなんて多々あって追加で薬を投与して治まるのを待ってたら、お日様がおはようって言ってくるんだ。


「……まだ…あと1時間だけ……ねれるか……」


気を失うように俺は倒れ込んで、また寝入る。



――――――――



 そんなこと繰り返してんだもんな。


 俺は採血データーをぐちゃぐちゃに丸め、公園のゴミ箱に捨ててから家に帰った。



 


 

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