第6話 照が辿ってきた道


俺は生まれた時から、心臓が悪くて何度も死にかけた。


何度か大きい手術を受けて、何とか生きている。


その上喘息持ちだ。


お腹いっぱいになるほどたくさん薬を飲んで、月に1回は受診をしに行かなければいけない。


状態によっては、そのまま入院になることもあるし、薬が増えることだってある。


最悪の場合、また手術をしようなんて話もされることもある。


生まれ持った心臓の病気で、この年まで生きている事は、珍しく奇跡的なことだといろんな人から言われるけど、


俺は、生きてるだけでハッピーだと思えるほど、人間はできてないし、器も大きくない。


確か1歳を迎えるまで、ずっと病院での生活だったと聞いた。


退院しても、その数週間後には、また病院に戻ったと親がそう言ってた。


この16年間、半分は入院してたと言っても過言では無いのじゃないかと思っている。


当たり前のように、病院にいて、当たり前のように学校に行けなくて。


そんな生活が当たり前になってて、みんなと同じことができたときに、幼稚園児を褒めるかのように大げさにみんなが喜んで。


生きてることが奇跡なんだよって、そうちやほやされるのが嫌いだった。


俺は生きるために、相当な塩分制限をしてるし、飲水も制限している。


何もすることがなくって、ぼーっとテレビを見てるときに流れてくる期間限定のスイーツも食べた事は無い。


今、話題になってるファーストフードも食べたことがないんだ。


そしてこの先も食べれる見込みは無い。


検査や治療を頑張ろう!

頑張ってる照君にはきっと良い未来が待ってるよ!


みんな呪文のように俺にそう唱えてくるけど、誰1人として、頑張れば病気が治るよ!と言ってくれた人はいなかった。


そんな状況が嫌になったこともある。


もうこんな生活は、クソくらえだと思ったこともある。


でも、そんなこと思う方がエネルギーがいるんじゃないかと冷めてしまったあの日から、俺はただ無心に検査や治療を受けている。


急にドクドクと踊る心臓が、呼吸をすることを許してくれなくて、どんどん身体の中の酸素がなくなっていく。


そんな不整脈によって、俺のポンコツな心臓は動き方を忘れて痙攣のようなものを起こす。


すると、まるで身体の中に誰かがいるんじゃないかと思うほど、俺の心臓を握りつぶされるような痛みが襲うんだ。


その握りつぶしてくる手を解きたくて、左胸に自分の手をやるけど、1度も触れた事は無い。


まあ、そらそうか。心臓なんて触れるはずないんだから。何いってんだ俺。


そして、ただその痛みに身をまかせ、俺は意識を飛ばす。


そんなことを繰り返して、俺はまた今日も生きている。


握り潰す行為は、昼夜問わず襲ってくる。


せめて寝てる時ぐらい休ませろよ、って、夜間の発作の時は毎回そう思う。


まぁ、俺の場合、夜間の発作の方が多いんだけど。


夜間に大きな発作を起こして、やっと朝方寝れて、そんな状態では学校に行かせられないと休まされる。


その繰り返し。


もちろん体育や音楽も見学だ。学校行事も参加した事は無い。


最初は見に行くだけ見に行ってたけど、なんか虚しくなってきて、その日だけは仮病を使うようにしている。




「ひか!おかえり!」


「ただいま」


「おーおかえり、」


はるくんといっくんが家にいた。


「…………ねえ、今日帰ってくるの遅い?」


「あ、陸?」


「うん」


「多分な、今月末までは遅いと思うよ、なんかあった?」


「……いや、、なんも。」



俺は弁当箱をキッチンに出しに行った。


「あーいいよ!僕が洗っとくから大丈夫だよ」


俺らの3食のご飯とすべての家事をやっている兄のはるくんは、世界で1番優しいんじゃないかと俺は思っている。


この人は、人を憎んだことがあるのだろうかと思うほどに心が透き通るように綺麗なんだ。


数日前の受診の日は、俺が帰っても寝ちゃってたから、また病院でしんどい目にあったのかなあと思った。


はるくんは、心が壊れる前は、少しだけふくよかだったけど、壊れてしまってから、見る影もない位痩せてしまった。


また、痩せて俺らに心配をかけないようにと、部屋でたくさん間食をしているのも知ってる。


沢山沢山部屋にお菓子やパン、自分でおにぎりを持ち込んで必死に口に入れている姿を何度も見た。


とにかく、自己犠牲が過ぎる人だ。


「あ!今日は完食だね!食べれたんだね!」


「……うん。美味しかった、ありがとう」


ごめんね、いつも食べきれなくて。そして、こんな嘘をついてごめんね。


発作も隠してごめんね。


心の中で謝って、俺は部屋へ向かった。

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