第3話 ひなのこと



陸人





今日はギリギリ日を跨いでない!!


そんな低レベルの事に嬉しさを感じる。


本当のことを言えば家族とご飯を食べる時間には帰ってきたいところだけど。


でも2人のためにも働いて稼がなきゃ。


皆を起こさないようにゆっくりはいっていくとリビングには灯りがついていた。


また、はるが夜更かししているな…怒ってやろうと顔を作ってドアを開けた。


「あ、おかえり、陸」


「なんだ、樹か。はるかと思ったよ。笑」


「はる、疲れて夜ご飯も食べずに寝ているよ。」


「…過呼吸起こしちゃった……?」


「うん。頑張ってカウンセリング受けてたんだけどね。

やっぱり思い出しちゃったみたい。」


「そっか。」



本当は俺が付き添ってあげたいんだけど、



「パパ、俺は大丈夫!!」



ずっとそんなお兄ちゃんの言葉に甘えてるんだよね。



「……やっぱり、カウンセリングしない方がいいのかな…」


苦しんだと聞けばいつも俺は悪い癖がでる。



「お前が弱気じゃダメだろ、陸。」


そういう時はいつも年上の樹に怒られる。


「……ごめん。」


「あいつら2人にはたった1人の父親なんだから。

不安な所は見せるなよ。」


「うん…」


「明日、今日頑張ったことは褒めてやれよ?」



そう釘を刺されて樹は部屋へ行った。






俺は樹が買ってくれていた弁当を温めて食べた。



やっぱり陽翔が作ってくれる料理の方がうまいよな。味濃いし。




文句を言ってはいけないけど……。




食べ終わって、俺は妻の元へ行く。




妻の名前はひな。



とても明るい女性だった。

天真爛漫でおてんばだった。

俺もどれだけ振り回されたかわかんないよ。


「ひな、ただいま。」


……仏壇の前に座る。


ひなは照を産んだ時に亡くなった。


生まれた時から心臓の悪かったひな。


結婚するときに、2人で生きていこうね、って話していたんだ。


でも結婚から少しした時、


「もし私が死んだら陸、寂しくなっちゃうね。」


2人で遊園地に行った時に不意にそういわれた。


「俺はひなが横にいてくれたらいいの。」


ひなと引き換えに、なんてそんなの望んでいなかったから。


「えーでも私、子供欲しいな。」



そう言って前ではしゃぐ子供を微笑ましく見ている両親を眺めていた。


笑っていたけど笑っていなかったと思う。


みんなには普通に望める未来が自分には『生か死』なのだから。


そんな顔を見て俺は揺らいでしまったんだ。


ひなに限ってそんな出産で命を落とすことはないだろうって。


そんなの一般論。俺らに当てはまるはずがない。


そう思って、子宝を祈り願った。



案外、早く叶えてくれた。



そこで授かったのが陽翔。


『太陽のように明るく、世界へ翔ぶ人間になるように』


そう期待を込めてそう名付けた。



でも妊娠後期にひなの心臓の状態が悪くなり、発作も出て危なかったんだ。


なんとか母子ともに危なくて、怖くて怖くて泣いたよ。


ずっと樹が横にいてくれたんだ。


「……ひなちゃんの前では強くあれよ。」


いつもそう言って背中を押してくれた。



結局、陽翔の方が先に退院して、少し遅れてひなも退院してきたんだ。


陽飛は少し身体が弱いところもあったけど、大病もなく暮らしてきたんだよね。




そして、陽翔が4歳になったタイミングで



「……弟を作ってあげたいの。」



そう言われた。


「だからダメだって。陽翔を産む時だって死にかけたんだよ!?

あの時だって奇跡的に無事だったで先生が言ってたでしょ?」



「陽翔は心が弱いから…。お兄ちゃんになればまた強くなれると思うの。」



……あの時はいつもに増してひなは強く意思を曲げなかったね。



あの時、俺が強く止めていたら……ひなは今ここで笑ってくれていたかな。


妊娠が発覚してから心臓の状態が悪くなってきて、赤ちゃんは諦めようと先生からも言われた。



俺からも説得したんだ。


「絶対諦めない!!陽翔が楽しみにしているから!!」


「それはひなの身体があってのことなんだって!!なんでわかんないの!!」


「お腹の子だってこの家に来たくてここにいるの!

その子の命を立つなんて考えられない!!」



あれが初めての大きな喧嘩だったね。


何日も何日も喧嘩して最終俺が根負けしたんだよ。


………でも、陽翔の時のような奇跡は見られず、



「はあ…はあ…っ」


「ひな……苦しいね……頭あげよっか……」


心臓が悪くなり、心不全を起こしてしまい身体に充分な酸素が行き渡らなくなってしまったんだ。


ずっと鼻に酸素チューブをつけてくるしそうに息をしていたんだ。


最後の最後には寝転ぶと息ができないって言って座って寝ていたんだよね。


お腹の圧迫と身体の浮腫、そんな最悪な状況でもひなの気持ちが折れることはなかった。


ほんと強いって思ったよ。尊敬した。


「…ごめんね……くるしい思いさせちゃって……」


何度も何度もお腹の赤ちゃんに謝る姿を見た。


何があっても普通の妊婦さんよりももっと薬が飲めない。


耐えるしかなかった。


帝王切開は無理だった、全身麻酔は持たないって…手術ができなかった。


……早産位しか方法がなかったんだ。



でも、まだその時期にも達していない時、


最悪の事態が起こってしまった。


「ん゛っっ………」


「ひな?大丈夫……?」


「い…たい……っ」


どこが痛いかなんて、もう聞きたくなかった。


だって、左胸を押さえてうずくまっているのだから。


両足はパンパンにむくんで、何もしてなくても、息切れが強くて、


そして、この状況。


もう覚悟するしかないと言われているようなものだった。



そして、急に痛みの波が来たみたいで、大きな声を出し、倒れ込んだ。


俺は気が動転しながらも、救急車呼んだ。


「り…く……」


救急車のサイレンが聞こえた頃に、俺の名前を呼んだひな。俺は抱き寄せてその消えかる声に耳を傾けた。


「……わたし……じゃなくて、ぁかちゃ、んを……たすけて、、っはあ、、」


「何言ってんだよ!!ひなも生きるんだよ!!諦めんな!!」



それだけ言うと意識を飛ばした。




…………これが最後の会話だったね。


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