第43話 ヤバい奴と名家、吉乃家の鬼才③

「———ほう……私の想定通り良く似合ってるじゃないか」

「そ、そうですか? 俺的には違和感しかないんですが……」


 俺は燕尾服に身を包み、メイクや髪をセットされた自分の姿を鏡越しに眺める。

 椿さんはああ言っているが……正直似合っているのかさっぱり分からん。


 と言うことで、透月さんにも意見を求めてみる。


「透月さんはどう思う?」

「大変お似合いですよ。顔立ちも特別整っているわけではありませんが、それなりに整っていますし……身長も175と低くないので別段浮くこともないでしょうし、誰から見られても恥ずかしくないと思います」

「まぁ透月さんが言うなら……」

「……何だ、お前は私より透月の言葉を信じるのか?」


 俺が準備をしている間に化粧直しなどをしていたらしく、先程よりも更に大人っぽい印象になった椿さんが少し不服そうに、ジト目で俺を見てくる。


「そんなことないですよ。それより言い忘れてましたけど……椿さんも物凄く似合ってると思いますよ」

「…………まぁいい」


 俺が褒めると、照れているのかフイッと後ろを向いてしまう椿さん。

 俺が少し意外だな、と思いながら椿さんを見ていると、背中越しに『ついて来い』と声を掛けられた。


「もう直ぐで私の入場だ。お前にはエスコートして貰うからな」

「はい? そんなこと聞いてませんよ? と言うか高校生が初めて参加するパーティーでエスコートなんか出来るわけないじゃないですか」


 間違いなく大恥かくぞ?


「教えてやるから心配するな」

「そういう問題じゃないんですよ」

「はぁ……お前は文句が多いな」

「うわっ、当日呼んだ人が何か言ってるんですけど」

「……」

「無言で睨むのやめません? 普通に怖いんですよ」


 そんな言い合いをしていると……ふと透月さんが何か言ったように聞こえた。


「透月さん、どうかした?」

「いえ、何でもありませんよ」

「あ、そう?」

「おい、早く行くぞ」


 おかしいな……確かに聞こえた気が……。


 俺は首を傾げながら、急かしてくる椿さんについて行った。



「貴方といる時の椿様は……とても楽しそうに見える、と言ったんですよ」


 







「「「「「「———椿様、当主就任誠におめでとう御座います!」」」」」」

「ああ、ありがとう」


 椿さんが俺のエスコートで用意された壇上の席に座るとほぼ同時に、沢山の如何にも金持ちそうな人達がやって来て口々に祝いの言葉を述べた。


 因みに俺は護衛の仕事のため、椿さんの斜め後ろに立っている。

 沢山の人に囲まれた椿さんに、1人のダンディーな渋顔の男と超イケメンな青年が現れた、男が口を開く。


「当主就任おめでとう御座います。ところで……椿さんはまだ誰とも御結婚や婚約などなされてないとお聞きいたしましたが……」

「ん? あぁ、確かにいないな」


 椿さんは威圧感のある男の言葉に顔色1つ変えず答えた。

 すると、男がキランッと目を光らせる。


「それでしたら———我ら東城財閥が誇る神童である我が息子の秋人あきひとなどは如何でしょうか? 外見器量どこを取っても椿さんに申し分ないと思います」

「…………」


 東城財閥!?

 めちゃくちゃ有名な財閥じゃんか。


 東城財閥は日本で吉乃家の次に有名な財閥と言える。

 事業も多岐に渡り、生活していれば必ず東城財閥の傘下の何かしらに関わっていると言っても過言ではない。

 

 てか息子めちゃくちゃイケメンだな。


 しかしそんな東城財閥の当主と息子を押し除けるようにして着物姿の老人と青年が現れて言った。


「それならば我が西条の跡取り息子の怜太は如何でしょうか? 東大の医学部を主席で卒業し、現在では私共の子会社の製薬会社で社長をさせております」

「…………」


 おいおい今度は西条家かよ……吉乃家ってマジで凄い家系なんだな……。


 西条家とは、日本のNo.2の東城財閥に規模で僅かに劣るものの、その知名度は東城財閥と肩を並べる名家だ。

 

 そんな吉乃家を除いた日本のトップ達が椿さんと(正確には吉乃家と)親族になろうと躍起になっている。

 俺とは次元の違う世界の話に、正直全くついていけない。

 ま、俺には関係ないし、『すごー』程度に聞き流しとけばいいか。

 

「お初にお目にかかります椿様、私は東城秋人と申します。大変お美しい椿様にお会いすることができて嬉しく思っております。現在は父の仕事の補佐をしており……椿様の夫として肩を並べられるよう研鑽しております」

「そうか」

「椿さん、久し振りだね。貴方の次期夫の怜太だよ! 今日は一段と綺麗だね。ただ……椿さんに1つ疑問があるんだけど……」


 二大名家を前に殆どの人が諦めて他の人と話し始めると、二大名家の青年2人が椿さんと接触する。

 秋人は真面目、怜太は若干ナルシスト入ってそう。 

 てか椿さんに疑問って何だ?


 俺が内心首を傾げていると、真顔の椿さんが眉を潜めて言った。


「……疑問とは何だ? 言ってみろ」

「この会は吉乃家主催なので他の兄弟姉妹の方が来られても何らおかしくないんですけど……1人この場に相応しくないのが混じっていますよ?」

「……ほう」


 ……何か雲行きが怪しくなって来たな。

 ほら、椿さんの顔がちょっと暗くなって来たって!


 焦る俺を他所に、2人のお坊ちゃんが能天気に口々に言う。

 

「それは私も思っていました。あの吉乃家最大の汚点であり、前当主に見捨てられて追放された落ちこぼれである———愚者、吉乃彰がこの場にいるのですか?」

「…………」


 秋人の言葉に椿さんは黙り込んでいるが、会場の来賓達は彰を見て冷笑を浮かべる。

 彰はそんな中、黙っていた。


 …………。


「流石に相応しくないよねー。僕達みたいな選ばれた者達の集まりにはさ。顔だけは良いみたいだけど立ち振る舞いがもうダメだよねー。自分で辞退とかしないのかな? 椿さんもあんな弟が居て可哀想———」

「ぶっ殺すぞナルシスト」



 ———会場が静まり返る。



 俺の言葉は広い会場全体に響き渡り、誰もが俺達の方へと注目を向ける。

 彰も、俺を見て驚いている。


 そして怜太とか言うナルシスト君は、少しキョロキョロと周りを見た後、俺の方を首を傾げながら見た。


「…………は? ぼ、僕のこと?」

「そうだよ馬鹿野郎。あと秋人とかいうボンクラな」

「き、君は誰かな……? 椿さんをエスコートしたり今もずっと椿さんと1番近くにいたり……」


 笑みを浮かべてはいるが……怒りからか口角をヒクつかせて尋ねてくる。

 その横で真面目(屑)はひたすらに冷酷な視線を俺に向けて来た。

 

 俺はそんな2人の視線を受けながら、2人の目の前に立ち———。




「ずっと我慢して来たけど……限界だ。彰を侮辱するな愚図共。これ以上彰を貶して言うなら———一生消えないトラウマを植え付けてやる」




 怒気の篭った言葉と一緒に会場全体へと殺気を浴びせた。

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