第42話 ヤバい奴と名家、吉乃家の鬼才②

 ———半年前。


「———おい彰」

「分かってる。お前の言いたいことは十分に分かってるから言わないでくれ」


 高2となった俺と彰は、下校となった我が学校でただ2人———真顔で校門に停まる1台の黒塗りのリムジンに頭を抱える。

 そのあまりにもアニメや漫画のような光景に、誰もが下校せずに校舎やグラウンドから物珍しそうに車を眺めていた。

 

 間違いなく超注目の的となっているリムジンを見て、彰が暗いオーラを纏いながら言った。


「やばい。今物凄く裏門から帰りたくなって来た」

「いやお前は家族なんだから行けよ。俺が裏門で帰るから」

「お前裏切るのか!? 確かにあの車は絶対吉乃家の物だけどさ! お前だって俺の家族に会ったことあるだろ!」


 確かに2、3ヶ月に1度くらいの頻度で椿さんには会っているので、そう言われると何も言えない。

 ただ……。


「それとこれとは話が別なんだよ。あくまで俺は他人、だろ?」

「こ、コイツ……!」


 怒り狂う彰を他所に俺がさっさと帰ろうとすると……彰のスマホに通知が来る。

 彰が怒りを引っ込めて超速でスマホを取り出して眺め……ニンマリと笑みを浮かべた。


「ゆ・い・と・くーん。姉貴が今日はお前に用があるんだってよー?」

「はぁ? 嘘付け。どうせ俺の足を止めるための嘘だろ」

「なら電話掛けてみればぁ?」


 イラッとする話し方で言ってくる彰の頭を取り敢えず叩いた後、仕方ないので椿さんに電話を掛ける。

 すると……ワンコールで繋がった。


「あー……もしもし、椿さん?」

『まだか? もう下校時間だろう?』

「彰なら俺の隣に居ますよ?」

『愛弟に会うのはまた今度だ。今日はお前に話があって来た』

「……マジですか?」

『ああ。じゃあ待ってるからな』


 そう言って電話を切られる。

 少しの間呆然としていた俺だったが……彰のほら見たことかと言わんばかりのドヤ顔で正気を取り戻し、射殺さんばかりに睨む。


「お、お? どうでしたか? 俺の言った言葉嘘じゃなかったろ? ほら行ってこい。今日の注目の的はお前に譲ってやるぜ☆」

「……今度俺が居ない時に来るように言っといてやる」

「え、ちょっ、それだけは———」


 俺は焦り始めた彰を無視して外に出る。

 しかし誰もが帰ろうとしない中でただ1人校門に向かう俺は明らかに異質であり……当たり前だが注目されてしまった。

 

 うわっ……人生でこんなに注目されたことないんだけど……はっず。


 俺は羞恥に身を縮こませ、周りの視線にソワソワしながらリムジンの前で立ち止まる。

 するとリムジンの扉が開き……中から脚を組み、社交用のドレス姿の椿さんが現れる。

 

 ただ……このドレス姿は如何せん椿さんの蠱惑的な身体の輪郭が強調されていて、目のやり場に困る。


 胸は大きく、手足は程よくすらっとしていて、腰はキュッとくびれ、太ももは決して太く感じない程度にムチッとしている。

 まさに男が1番好きそうな身体をドレスによって存分に曝け出していた。


 椿さんは目を逸らす俺に、フッと笑みを浮かべた。


「久し振りだな、維斗。会いたかったぞ」

「久し振りって……この前あった時からまだ2週間じゃないですか」

「そうだったか? まぁそんなことはどうでもいいから取り敢えず入れ。今日は少し付き合って貰いたいことがあるんだ」


 少し嬉しそうに口角を上げて俺を車の中へ導く椿さんに俺は警戒しながら問い掛ける。

 周りの視線や俺を見て何かを言い合っている声が聞こえて来て恥ずかしいが……目的だけは聞いておかないと流石に拙い。


「……何に付き合って欲しいんですか?」

「そんなに警戒するな。ただ……今日の夜8時からある私の当主就任パーティーにお前を招待しようと思ってな」

「遠慮しておきます」

「正確には私の付き添い兼護衛だ。私はこれでも吉乃家の当主だからな。敵は多いんだ。それに……今回のパーティーは彰も参加しなくてはならない。だから私の依頼は———私と彰の護衛だ」


 ……彰も参加するのか?

 いやまぁ吉乃家主催のパーティーなら確かに彰も参加しても何らおかしくない、か。


「……はぁ、分かりました。行きます」

「ありがとう。あ、勿論報酬は弾むぞ?」

「それがないなら絶対行ってませんよ」


 俺は諦めて車に乗り込む。

 リムジンなだけあり、中がめちゃくちゃ広い。

 

 俺は走り出した車の中で家族に連絡を取るが……どうやらもう既に聞いていたらしい。

 まぁ護衛だとは知らないようだが。


 相変わらず手が早いことで……と思っていると、運転手に話しかけられる。


「本日はありがとうございます、維斗様」

「全然大丈夫。というか毎日椿さんの護衛してる貴方も大変だよな、透月さん」


 俺がそういうと、かつて俺と手合わせをした透月はルームミラーから俺を見て首を横に振る。


「滅相もございません。基本的に椿様の護衛がどの御子より楽ですよ」

「へぇ……意外だなぁ」

「おい、何が意外なんだ?」

「何でもないですよ。ところで……俺はスーツとか持ってないですけど……」

「ああ、それに関しては私から手配済みだ」


 そうワイン片手に言う椿さん。

 本当に準備周到だな。


「あ、もしかしてこの車……」

「そうだ。お前のドレスコードやマイクを行う場所に向かっている。まぁ……そこが会場でもあるのだがな」


 こうして俺は……全く関係ない身でありながら世界に誇る吉乃家主催のパーティーに参加することとなった。


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