第39話 ヤバい奴、助けが来る

「———私達は無実ですわ!!」

「そうだそうだー」

「ずっとそればっかりだな……」

「「だって無実だし」」

「はぁ……」


 俺達は現在、アメリカの警察署みたいな所で職務質問を受けていた。

 まぁずっと俺達が『無実だ!』って叫んでいるだけだが……そのせいで職質してる男の人の方が頭を抱えている。


 因みに俺達の言葉が通じているのは、世界のダンジョン化に伴って、頭の中で別言語を自動で自国の言語に翻訳するかららしい。

 ならもう英語の授業一切要らないよな。


 俺がそんなことを考えていると、警察官の男の人がげっそりとした顔で尋ねてくる。


「もう一度聞くが……君達は一体何処から来た?」

「「日本」」

「なら不法入国じゃないか……」

「だからそれが無実ですのよ! それとあのダンジョンを攻略したのは私達ではありませんわ!」


 レインが手振り身振りも加えて熱弁する。

 純度100%の真実なので、此方も強気に出て

いるのだが……それが返って話が噛み合わない原因になっているらしい。


「はぁ……もう君達とは話が通じないから保護者の電話番号を教えてくれ……」

「断固拒否、ですわ!」

「右に同じく」

「ぁぁぁぁああああああああ!! 何なんだ君達は!! こんなこと初めてだ! 警察署に来て個室で職質しているのに何故これほどリラックスしていられる!?」


 遂に警察官が発狂して、俺達を指差す。

 パイプ椅子に座る俺と、俺の頭の上で寛ぐクロと膝の上に綺麗な姿勢で座るレインを。


「維斗、私の頭の上に顎を乗せれるとは貴方だけですわ! 感謝しなさい!」

「いや乗せたくて乗せてるわけじゃ……ただ話す度に頭が動くから物凄く痛いんだよね」

「きゅっ」

「まずこの生き物は何なんだ!」

「「兎」」

「角が生えているじゃないかッッ!!」


 髪がボサボサになるのも気にせず頭を掻きむしって『ぐぅぅぅ……』と呻き声を上げる警察官。

 何か物凄く可哀想になってきたな……でもここで認めたら捕まっちゃうしごめんな。


「もういい! 君達はプレイヤーらしいから政府に連絡する! ちょっと待ってろ!」


 それだけ言い残すと、警察官は立ち上がってズカズカと部屋から出ていった。

 扉がバタンと閉まり、一気に部屋が静かになる。

 俺達は顔を見合わせ———。



「———き、緊張しましたわ……」

「マジでそれな……ヤバい、冷や汗が止まらん」


 

 緊張をほぐすように大きなため息を吐いた。

 

 さっきリラックスしていると警察官は言ったが……そんなわけない。

 俺達は歴とした不法入国者であり、少しでも同意したらアウトだから、必死に焦りを隠していただけであった。

 

「さて……次は政府の人達との戦いだ。流石に逃げたらマジで国際指名手配になりそうだし、何とか今回みたいにしらばっくれるぞ」

「え、えぇ、分かりましたわ……」

「きゅう?」

「お前は本当にリラックスしてんな」


 先程の言葉を少し訂正しよう。

 クロは本当にリラックスしているようだ。


「はぁ……取り敢えずスマホ返してくれねぇかなぁ……」


 そうすれば彰に電話して何とかしてもらうのに。


 俺は本格的に力ずくで帰ろうかな……と考えながら小さな窓から見える青空を眺めた。









「———初めまして。私は政府より派遣されました、秋原雄二です。アメリカなのに日本人が来て驚きましたか?」

「いや、ちょっとガッカ———むぐっ」

「何でもありませんわ! それで柚月、私達は日本に戻れるんですの!?」

 

 男が部屋から出て行って1時間程度経った頃、1人の男性が来た。

 しかも日本人が。


「えぇ、勿論帰れますよ。お2人があのダンジョンを攻略したと素直に認めて頂けるのであれば、の話ですが」


 アメリカの政府から派遣されたらしい男がニコリと笑顔を浮かべる。

 俺達からすれば鬼のような笑みを。


「……因みに、仮に俺達が攻略したとなればどうなるんです……?」

「報酬金が渡されます。日本円で10億ほど」

「俺が攻略しました」

「そうですか。では、報酬金10億円はダンジョンへの不正入場、不法入国の刑罰が終わった後に支払うとしましょうか」

「…………」


 やっば……完全に墓穴を掘ったわ。


 俺は悪魔みたいな笑みを浮かべる秋原とか言う男を無言で睨む。

 

「そんなに睨まないでください。私達と致しましても心苦しいのです」

「うわっ、白々し過ぎるだろ」

「———ですが、アメリカ政府直属のプレイヤーとなるなら……罪を帳消しに出来ます」


 結局それが狙いか。

 

 俺は胡散臭い笑みを絶えず浮かべる秋原を眺めながら思う。


 まぁ確かに今の世界は如何に強力なプレイヤーを獲得するかで国の立場が変わる。

 例えば……今の俺とクロなら、恐らく世界を敵に回しても1日あれば勝てるし。

 今の俺だけだと厳しいかもだが……クロだけなら間違いなく勝てる。


 …………あれ、アメリカ手中に収めればこっちの勝ちじゃね?

 寧ろそれが1番楽なんじゃ……。


 何て俺が本気で力ずくで帰る方法を考えていると、突然扉が開く。

 これには秋原も驚いているので、彼の仲間ではないようだ———って、何で貴方がいるんですか。


 

「ふぅん……ふっ、珍しく愛弟から電話があったかと思えば……随分と面白い状況になってるじゃないか。なぁ維斗?」



 1人の超絶美人な茶髪の女性が俺を見ながら言った。

 その女性は艶やかな笑みを浮かべ、170センチの長身で、パイプ椅子に座る俺を見下ろす。

 俺はそんな女性の出現にホッと安堵のため息を吐く。


「いやまぁ自分でも驚きですよ。良くここが分かりましたね……椿つばきさん」


 俺がそう言うと、美女———彰の1番上の姉である吉乃椿が『当たり前だ』と言わんばかりに腕を組んで鼻を鳴らした。

 そして何か言おうとするが……横から秋原が焦った様子で声を上げた。


「勝手に入って来て犯罪者と話すとはどう言うことですか、吉乃椿!? こんなこと許されませんよ!!」

「ふっ……犯罪者、か……。吉乃家の当主である私に政府の犬の分際で随分と吠えるようになったな。普段なら褒めてやるが———」


 椿さんが突然、俺の対面に座る秋原の頭を鷲掴みにして持ち上げる。

 更に笑みを消し、裏社会のドンみたいに眉を釣り上げて怒りの表情を浮かべ———。




「———おい、よくも私の婚約者維斗を犯罪者と呼んでくれたな? 潰すぞ?」




 聞いた相手を無条件で怯ませるようなドスの効いた声でキレた。


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 新作投稿しました。

 今回は掲示板でスレを立てた主人公が転生先を生き抜く異世界ファンタジーです。

 面白そうと思われた方は、是非見てみてくれると嬉しいです!


知らない乙女ゲー世界に転生してスレッドを立てた結果、美少女達の修羅場に挟まれた

https://kakuyomu.jp/works/16818093074041249356

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