第38話 ヤバい奴、出たらアメリカな件

「———維斗、ヤバいですわ! 直ぐ後ろがぶっ壊れてますわ!」

「そうだなぁ……」


 俺におんぶされたレインが、後ろを指差しながら叫ぶ。

 そんな俺達の背後では……天井が落ち、壁が半ばから折れて崩れ、床がひび割れると同時に陥没していっていた。


「いやぁ……流石に古代の建造物でも耐えられんかったかぁ」

「きゅっ……」

「いや、1発で倒すつもりだったんだよ。ただあいつが意外としぶとくてさ」


 クロが俺の隣を走りながらジト目で見て来たので慌てて言い訳をする。

 いや、実際マジで倒すつもりで蹴り飛ばしたので言い訳ではない……はず。


「てか、クロがあんな強い魔法使うからキングがビビって吸血したんやぞ」

「きゅっ?」

「そう、貴方や。あの魔法は普通に俺のパンチより威力高かったわ」

「きゅ、きゅぅ……」


 マジかよ……的な感じで周りにどんよりオーラを纏うクロ。

 くくっ、そうだ、普段は俺を責めてばっかだからたまには自分で自分を責めるがいい。


 俺が内心ゲラゲラ笑っていると、クロからの飛び蹴りが俺の脇腹に直撃する。

 

「ぐほっ!?」

「維斗!? 貴方、私をおぶっている維斗に何してるんですの!? 私が落ちたらどうしてくれますの!」

「おい? レインさん? 少しは俺の身体を心配しようぜ?」

「維斗はこの世の誰よりも頑丈ですわ! なら私の心配をして当然ですわ!!」


 バンッと効果音が付きそうな感じで俺の上で胸を張るレインには悪いが……。


「ヤバい、追いつかれそう」

「維斗!? あ、私の真上に壁が……」

「キュッ!!」


 クロが俺の頭を踏み台にして飛び上がると全身に漆黒のオーラを纏い、壁を粉砕した。

 更に空中を蹴って漆黒の光の尾を放つ彗星の如く他の瓦礫も次々に破壊していく。


「おぉ……さっきの俺より早くて草」

「クロは維斗より強いのかしら?」

「……ま、まぁ俺の方がまだ強いし。ステータス低下が元に戻って全力出したら多分勝てるし」

「つまりどっこいどっこいというわけですわね」


 レインさん、貴方少し俺の扱いが雑になってないか?

 いや……俺の扱いが雑なのは元からだったな。

 

 ただ少し仲良くなれてノリが軽くなったのかもしれない。

 そう思っておこう……主に俺のメンタルのために。


「お、あそこが出口らしいしそのまま突っ切るぞー!」

「早く行くのですわーー!!」

「きゅう!」


 俺達は前方に見える空間の裂け目に向かって駆け———飛び込んだ。










「い、痛ぇ……何で出た場所の下に岩があるんだよ……」

「私は維斗の上に居ましたので無傷ですわ」

「きゅっ!」

「いやまぁ俺も今更岩程度で怪我はせんけどさ……」


 俺は地上5メートル程度の高さから落ちて岩に激突した後、レインを降ろして上空の異次元の穴を見る。

 すると少しずつ小さくなっていき……最後には完全に消え去った。


「お、ダンジョンをクリアしたらしいぜ」

「別のダンジョンだったんですの?」

「うーん……まぁ出た場所的に別のダンジョンに転移させられたのかも?」

「何でそんな曖昧なんですの……」

「いや俺は神ではないので……」


 さてさて……出れたし取り敢えず彰に電話を掛けるとするかね。


 スマホを取り出して彰に電話を掛ける。


「あ、もしもし?」

『遅いわバカタレ! お前一体どれだけ時間が経ったと思ってんだアホ!』

「あ、彰!?」

「う、五月蝿いですわ!」

『あ、レインさんも居るのか? なら早く戻ってこい! お前のせいで俺達軟禁されてんだぞ!』

「ちょ、ちょっと待て! また掛け直す!」

『あ、おい———』


 俺は慌てて一先ず彰との電話を切る。

 電話が切れると、俺達の間に無言の時間が流れる。


「ふぅ……とりま現状把握しようか」

「そうですわね」

「今は……」


 俺はスマホで日付けを確認して……思わず二度見三度見してワナワナと震え出す。

 そんな俺の姿を訝しげに見ていたレインだったが……自分のスマホを見て目を見開いて口をぱくぱくし始める。


「ど、どうなってんのよこれ……!」

「し、知りませんわ……な、何で1ヶ月経っているかなんて考えたくもないですわ!」


 そう、俺達はダンジョンに入ってから1ヶ月もの間ダンジョンに入っていたことになっていた。


 あ、あれぇ……?

 た、体感的には1時間程度だと思ったんだけど……。


「それで……此処はどこだ? なんかここが日本じゃなさそうで怖くなって来たわ……」

「さ、流石にそんなことは……」


 俺達は互いに顔を見合わせ、流石に日本だよなぁ? と引き攣った笑みを浮かべ、互いに真顔と無言でスマホの地図を開く。

 そして———。



「あぁ、クソッタレだなこの野郎……何でこういう時だけ俺の勘が当んだよ……!!」



 俺は自分のスマホを真上にぶん投げる。

 そして数十秒後に落ちて来たスマホを掴んで再び開くも……変わってない。


 しっかり———アメリカを指していた。


「ま、拙い……拙いですわ……」

「な、何が拙いんだよ?」


 スマホを見ながら顔を真っ青にして震えるレインに俺は半ば絶叫のように問い掛ける。

 するとレインも同じようなテンションで返して来た。



「———不法入国で捕まりますわよ!!」



 ……不法入国……?

 まぁ俺達は日本のダンジョンに入ってアメリカのダンジョンから出て来た……めちゃくちゃ不法入国で草。


「ああやっぱり現実はくそったれだ。もし捕まったって親にバレたらどうすりゃいいんだよ!?」

「私もお母様とお父様にバレたら説教では終わりそうにありませんわ!」


 俺達がそう頭を抱えていると……カランッと金属の何かが落ちた音が聞こえた。

 その音で叫ぶのをやめた俺達は、ゆっくりと音のした方に向き……。



「———え、S級ダンジョンが……ない……こ、攻略された……?」



 剣を取りこぼした金髪の男が、俺達の上空を見ながら信じられないといった風に指を差して震えていた。


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