第37話 フェーズ・2
———【身体強化】。
肉体を強化するスキルの中で1番ポピュラーで使い手の多いスキル。
ただ肉体強化系スキルの1番の弱点は、自分で倍率を調節しないといけないことだ。
しかし戦闘中にそんな器用な真似が出来るはずもない。
そこで俺は……呼び名を付けることにした。
まず始めは———【身体強化】。
これを俺が言葉に発したり思ったりすると5倍で発動する。
次は———先程までキングとクイーンとの戦いで使っていた【フェーズ・1】。
これは10倍の設定だ。
基本大体のモンスターはこの段階で勝てるので、ここまでは長く使っていることも相まってまだ肉体への負担も少ない。
しかし———【フェーズ・2】になると一気に体への負担が顕著に現れた始める。
倍率は先程の2倍の20倍で、【自己治癒】のスキルがないと一瞬で全身の筋肉が千切れてしまう。
まぁ上にまだ幾つかあるが……これはマジで1、2回しか使ったことないので省かせてもらおう。
「毎回治るか心配だな……」
俺は先程よりも強く濃くなった白銀オーラを纏い、白銀に瞳だけでなく髪まで染まったことに少し心配になる。
何となくこれを使った後は白髪が増える気がするのだ。
「それはそうと……いつやっても痛みには慣れないな。お前もそう思わん?」
「ギィッ!?!?」
俺が壁から一瞬にも満たない時間の間にキングの上に立って言うと……キングが驚愕に目を見開く時には、既にキングの身体を地面に叩き付けていた。
クイーンはキングが地面に叩き付けられた音でやっと俺の攻撃に気付き、怒号を上げながら接近してくる。
「キュィァァァァァァァァァァ!!」
「まぁ縄張りに入ったの俺だけど……あくまで戦いを始めたのそっちだからね?」
「キュゴ!?」
肺から空気が抜けるような声と共に、クイーンが俺のパンチで天井に突き刺さる。
「おー、ステータスが低下してるお陰で大分使いやすいな。普段は……大分はちゃめちゃだしな……」
「きゅっ!」
「毎度合わせてもらってて感謝してるよ、相棒」
クロの抗議に俺はぺこぺこ頭を下げる。
普段の【フェーズ・2】の状態だと、クロの認識できる速度ギリギリなので、大変迷惑をかけているのは自覚してる。
「キュッ!」
「おー、しぶといなぁ」
クロの警告と同時に俺の背後からキングが強襲してくるのに合わせて、クイーンも音波を発してきた。
しかし———。
「キュッ!!」
クロの角が一瞬強く発光すると同時に、クロを中心にとんでもない暴風が吹き荒れる。
それにより、キングもクイーンも、ついでに俺まで吹き飛ばされた。
「く、クローー!? 少しは俺のことも考えて撃って!?」
「きゅっ、きゅっ」
「いや、これでもステータス大分下がってるんだけど……」
普段の俺ならまだしも、今の俺は大分貧弱なんだぞ……。
相変わらず少し荒い相棒に苦笑して、俺を睨み付けたキングとクイーンに相対する。
2体共今のクロの魔法で相当ダメージを受けたらしく、若干フラフラしていた。
「ギィッギィッギィッギィッ……」
「……ん? 何をする気……!?」
俺はクイーンの後ろに隠れたキングの姿に首を傾げる。
しかし突然全身に悪寒が走り、咄嗟に足に力を込め、掌を広げて前に突き出すと……。
「———ギィィィガィィィィッッ!!」
瞳を真っ赤に光らせ、全身を鮮血の如く真紅に染め上げたキングの突進を受け止めた。
しかし、先程より遥かに力が増している。
そんなキングに俺は舌打ちをしながら吐き捨てるように言った。
「お、お前、【吸血】しやがったな……」
【吸血】。
血液を吸って自身を強化するスキル。
厄介なのは、吸った相手が強ければ強いほど強くなることだ。
今回はクイーンの血を吸ったので、恐らくステータスが1.5割増しくらいか。
「ま、それでも俺には勝てんけどな」
「ギィッ———!?!?」
俺はキングから手を離してブリッチのように地面に手を付くと、脚でキングを上空に蹴り飛ばす。
更に赤い光の尾のように吹き飛んだキングに接近して、間髪入れず連続で拳を叩き付ける。
天井に埋まったキングに、俺は告げた。
「吸血でクイーンが死んだんだから———お前も同じところに送ってやるよ」
俺が放った手刀は———易々とキングの身体を心臓諸共貫いた。
同時に白銀のオーラが辺り全体を包み込んで跡形もなく消滅させる。
更に超絶久し振りにレベルアップをシステムが告げた。
「あぁぁぁ……マジで疲れたわ……身体が怠すぎる……。今後1週間は動きたくねぇな」
俺はそんなことを思って数百メートルの高さから落下。
重力に従って落ちる俺は、勝ったことを伝えるべくクロとレインに親指を立てた。
「———崩壊するから早く逃げるぞー」
「キュッ!?」
「何ですって!?」
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