第34話 ヤバい奴、転移する

「———おーい、早く起きろ……ったく、よりにもよって俺とクロとこの子だけとはな」

「きゅー?」

「ああ、ここは相当深そうだぜ」


 転移してから数分。

 俺とクロは一向に起きないレインの担いで辺りを探索していた。

 

 今俺達がいるのが何か巨大な建造物の中だからなのか太陽の光はない。

 しかし壁の筋から光が発せられているので暗くないどころか明るいまである。


「なんか500階層辺りのフィールドに似てる気がするな……」


 俺は壁に触れて上を見上げる……と同時に思わず顔を顰めた。


「いやまぁ……いるよなそりゃあ」


 遥か上にある天井には……何百何千もの、コウモリ型モンスター———オリジンバッド(レベル3500程度)がぶら下がっていた。

 俺の感知範囲内に天井が入らないので気付いていなかったが……クロでも気付かなかった辺り、コイツらの気配隠密能力が如何に優れているかが窺える。

 ほんとだるいな……クソッタレ。


 ただアイツらは声に敏感であり、その声というのもよっぽど大きな声でなければ敵意は向けられない。

 人間がコオロギの声を聞いて『よっしゃ全部捕まえようぜ』と思わないのと一緒だ。


 ……てか、コイツ邪魔やな。

 弱いし特に関わりもないんだし置いて行こうかな?


「……いや、それだと何のために一緒に飛び込んだんだって話になるからやめとくか」


 俺は小さなため息を吐き、ペシペシと額を物凄く軽い力で叩く。

 すると唸るように声を上げてゆっくりと目を開いた。


「おはようさん」

「……こ、ここは……というか維斗! 私にタメ口とはどういうことですの!?」 

「しーっ。黙ってないと殺されるぞ。これ使って上見てみろ」


 俺は百均で買ったただの双眼鏡をレインに渡して上を指差す。

 レインは訝しげに此方を見ていたが、仕方ないと言った様子で双眼鏡を覗き込み———息を呑む。


「な、何なの……あの気持ちの悪いモンスターは……! 私、はしたなくも吐いてしまいそうですわ……」

「まぁキモいよな、アレ。コウモリって小さいから『あ、少し可愛いかも』って思うけどデカかったらマジで化け物に見えるもんな」

「本当にそれ、ですわ。ところで……あのモンスターは何なのですの? 私見たことありませんことよ」

「あれは……」


 俺は途中で言葉を止める。

 このモンスターはまだこの世界に現れていない。

 それを俺が知っていると分かれば……間違いなく俺は疑われるだろう。


 ほんと……何で逃げなかったかな、俺。

 ただ彰の家と関係あるからってだけで少し首を突っ込み過ぎたか……。

 ま、首を突っ込んだのなら最後までやり切らないとな。


「あれはオリジンバッドって言ってな? 遥か昔に生息していたバッド系モンスターの始祖モンスターだ」

「始祖モンスター……とはなんですの?」


 聞き慣れない言葉に歩きながら首を傾げるレイン。


 まぁこのモンスターの情報は俺とクロ、システム達しか知らないので仕方ない。

 現在クロは俺の服の中で再び隠れている。

 流石にモンスターを連れているとバレると本格的に面倒なことになりそうだからな。


 因みに、始祖モンスターとは単純にバッド系モンスターの始祖、と言うわけではない。

 現代に生きるバッド系モンスターの全ての力を持ち……レベルも比べ物にならない程高い。

 更には、始祖モンスターの中にも一般モンスターのような階級まで存在する。

 今俺達の上にいるのは始祖モンスターの中の一般階級のオリジンバッド。

 ただこれ程の群れなら……オリジンバッドジェネラルやオリジンバッドキングも存在しているだろう。


「そ、そんなの勝てないですわ……」

「…………」


 恐らくジェネラルまでなら……今の俺でも多分何とかなるはず。

 ただ……キングのレベルは5000、クイーンは4500……偶にいるキングの変異種であるエンペラーは6000。


 ステータスの下がった今の俺だと……一斉に飛び掛かってこられたらヤバいかもしれない。

 その時は……レインにクロを見せる覚悟を決めないとな。


「レイン、実はな。俺はお前に少し嘘ついていたんだ」

「何ですって? この私に嘘を付いていたと言うのですの? 許されないことですわ!」

「あぁ、だから教えるよ。ただ———これだけは守ってくれ。俺の力について、絶対に誰にも言うな。黒服にも、家族にも」


 子供の口は軽い。

 だから記憶を消すことも勿論手段の1つとして考えてはいる。

 だが……約束とは、より完全なる記憶の消去において重要な要因となるのだ。


「……分かりましたわ。この私、レイン・エノテーカの名において誰にも話さないと誓いますわ!」

「よし、流石エノテーカ家の御令嬢様だな」


 俺はレインを妹と同じように頭を撫でようとして……好きな人以外に頭を撫でられて嬉しく思う奴はいないと言う話を思い出して手を引っ込める。

 虚空に手を伸ばした俺を不思議そうに見つめていたレインだったが———。



「———バァァァァァァァァァァァァ!!」



 突然部屋中に広がる超巨大な爆音に耳を塞いだ。


「な、何ですの!?」

「バレた。遂に……俺の気配に勘づく奴が現れたってことかな」


 俺は上を見上げる。

 赤く光る瞳が、俺とクロを睨んでいる。


 今この瞬間、彼らは狩りではなく、自分達の縄張りに侵入してきた邪魔者を排除する殺戮マシンと化した。

 全力で俺を殺そうとするはずだ。


「レイン、絶対に俺から離れるな。死ぬぞ」

「は、はいっ!」


 レインは殺気に呑まれ、普段の調子を失っていた。

 まぁ気絶してないだけ、彼女が強靭なメンタルの持ち主と言える。


 俺は背中にレインの気配を感じながら。



「さぁ———気張るとするかッ!!」



 俺は【身体強化】を発動させる。

 全身に白銀のオーラが立ち昇り、瞳がオーラと同じ白銀に変化する。

 

「そ、その姿は……」

「レイン、これが俺の力だ。絶対に秘密だぞ」


 俺が目線を送って言うと、レインはコクコク何度も頷く。

 同時に視界を埋め尽くす程のオリジンバッドが襲い掛かって来た。

 

 俺は固く拳を握り———全力で振り抜く。


 瞬間———白銀のオーラを纏った拳圧がオリジンバッドの群れの真ん中から引き裂くように放たれた。


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