第33話 ヤバい奴、分断される

「———……これ、何で俺達ついて行ってんだよ……」

「さぁな。俺にあの子の考えていることなんか分かるわけないだろ」


 俺と彰は、目の前で迫り来るゴブリンや角兎を魔法で倒すレインや黒服の後ろを歩きながら言い合う。

 この状態からも分かる通り……俺達は現在何もしていない。

 

「維斗……どっかのタイミングでとんずらしない?」

「やめておいた方がいいと思うわ。多分……あの2人が逃してくれない」


 そう言う草薙の視線の先には、此方を監視する様に睨め付けるもう1人の黒服がいた。

 彼は先程から一切戦いに参加せずトランシーバーか何かで俺達の動向を終始もう1人の黒服に伝えている。


「ま、少し鬱陶しいけど……もしもの時は俺が相手するから安心しろ」

「頼むわね。今の私じゃ勝てるか分からないから」


 そう言っていながらも柄を握りしめて顔を顰めている辺り、悔しいのかもしれない。


 だがまぁ安心して欲しい。

 直ぐにあの黒服程度の雑魚なら瞬殺出来るようにしてやるから。

 

「維斗、よく見ていなさい! これが私の力ですわ! ———【ファイア・アロー】!」


 レベルアップによって強化された魔力を存分に使った炎魔法の火の矢でゴブリンにトドメを刺し、レインがドヤ顔で振り返る。


 ふむ……言うだけあってそこそこ勇敢で筋がいいらしい。

 これならまぁ……死地に自ら赴かない限りは死なないんじゃないか?


 俺はレインにそんな評価を下す。

 対してレインの弟であるユミルは魔法ではなく短剣で角兎を殺していた。

 此方も姉同様筋は悪くない。


 ただ何より目を見張るのは———。



「……」

「「「「「グギャッ!?」」」」」



 2人を護る黒服の男の戦闘技術が凄まじいことだ。

 現に今も、スキルも武器も使わずにゴブリンを一瞬で5体殺した後で更に角兎を数匹仕留めている。


 そんな黒服の強さを目の当たりにした彰がドン引きした様子で呟いた。


「あの人強すぎん? 俺、勝てる気しないんだけど」

「あの人はちょっと異常だな。レベルに比べてスキルのレベルが高いんだろ」


 まぁ異常と言っても見た感じ【武術☆7】あるかないかくらいかな。

 強いと言えば強いけど……この程度なら俺も8歳くらいで到達したし、彰達ならあと数ヶ月で追い越すんじゃないか?


「そんな簡単なもんかね?」

「俺が鍛えるからな。簡単ではないけど直ぐに到達する」

「やっぱお前鬼畜だよ」

「黙れヘタレ」

「「あ?」」


 俺達はお互いにガンを飛ばし合う。

 そんな光景を見た草薙とアリサは……。


「はぁ……恥ずかしいわ。そう思わないかしら、アリサ?」

「えっ、あっ、いやっ……ど、どうでしょう? はしゃぐ維斗様も可愛いなぁ……と思って見てましたので特には……」

「…………」


 此方も此方で仲良くしていた。









「———此方がボス部屋だと思われます」


 モンスターを倒しながら歩くこと小1時間程度。

 遂に1階層のボス部屋に到着した。


 目の前には小高い丘があり、その中間部分に巨大な扉が建てられている。

 ただ、何処か無理矢理じみているように見えるのは俺だけでない。


 実際、黒服の言葉にレインは顔を顰めてゴミのように扉を見つめる。


「ふーん……野蛮で下品なゴブリンのボスには相応しい場所ですわね。ただ……高貴で気高い私には合いませんわ!」


 全くその通りだ。

 厳密に言えば人間には合わない、と言った方が妥当だろう。


 ダンジョンのボス部屋は、階層が低い程作りも見た目も汚くなる。

 特に俺のダンジョンの最上階なんかは、もはや下界の者達では絶対に作り出せないと言う意味で『神の建造物』と呼ばれていたし。


 それに比べたらほんとゴミみたいだな、と俺が目の前の扉を見て思っていると、彰が少し圧倒された様子で言った。


「アレがボス部屋ってやつなんだな……。デッケェ……」

「……は? いや……そう言えば、彰と草薙は普通のダンジョンに入ったことないんだったな」


 俺の言葉に草薙が小さく頷く。


「そうね……私も少し驚いたわ。ダンジョンにこれ程大きな扉があるなんて思わなかったもの」


 ま、確かにダンジョンにこれと言って文明を感じさせるものは何一つないからな。

 言っても300階層くらいからは現代以上の文明の跡が残っているので何とも言えない。


 俺がダンジョンの特徴を思い出しているとユミルが少し興奮した様子で言った。



「姉様、いよいよだね……。アレを倒せば僕達もに入れるんだよね?」


 

 その言葉に、俺達の動きが止まる。

 まさかこんな所でもあの頭のおかしい組織の話を聞くとは……。

 

 これは少し……真剣に考えないといけないかもしれな———ッ!?


 刹那———俺の全細胞が粟立つ。

 俺は背筋が凍るような感覚に、考えるより先に声と身体が動いていた。



「その扉を開けるなッッ!!」

「えっ……?」



 しかし、遅かった。


 警告虚しく、扉は開かれる。

 扉を開けて此方を見るレインを呑み込むように、扉の中から転移の光が漏れた。


 あぁ、くそッ……よりにもよって転移トラップかよッ!

 これに嵌ったらレインの実力じゃ絶対生きて帰れんぞ……!


 同時に俺は、他の全員が間に合わないことを瞬時に理解すると———一瞬でレインの下まで走って彼女を抱きしめ……そのまま転移の光に呑み込まれた。


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