第28話 ヤバい奴、殴り込む

「———別に良いんだけどさ。別にラーメン奢って貰ったし秋葉で好きな漫画も買ったからさ。でもさ———」


 黒塗りの仮面を被った彰が、月の浮かぶ真夜中に叫んだ。

 

「———何で夜なんだよッ! あのテンションは直ぐに行くテンションだったじゃん!」

「いや、だって昼は目立つし」

「正論! 超ド正論だけど!」


 呆れた様に俺が指摘すると、彰が悔しそうに地団駄を踏む。

 やめろやめろ、お前の力で地面が揺れる。


「おい、馬鹿」

「おい、遂に俺のことを馬鹿呼ばわ———むぐっ!?」


 俺は目的地に着いたと言うのにまだ五月蝿い彰の口を手で塞いで黙らせる。

 そして彰にも分かる様に、口パクで状況を伝えた。


「(もう着いたから黙れ。バレたら全員お前に相手させるぞ)」

「(絶対嫌です。え、もう着いたの? 何も無いじゃん)」


 嘘だぁ、と彰が辺りを見回して肩竦める。

 確かに今俺たちが居る場所の周りにはただのアパートのみなので、彰が訝しむのも仕方がないのかもしれないが……。


「……俺、地下にあるって言ったよな?」

「……あ」

「誰がわざわざ隠すために地下を作ってんのに、地下室があるって教える様に目に付くものを地上に建てるんだ?」


 俺がそう言うと、彰はまるで今気付いたと言わんばかりにポンッと手を叩いて納得げに頷いた。


「確かに。それもそうだな」

「はぁ……分かったなら黙れよ」

「あーい」


 俺達は無言でアパートの前に立つ。

 俺の気配感知では、外見こそ普通のアパートだが、中は1つの部屋となっており、そこに数十人の人間がいることを感知していた。

 

「彰、流石に分かったよな?」

「おうよ。中にクソ人がいるな」

「とりあえず殺さずに全員拘束するぞ。彰は出て来た奴の足を遠くから狙って撃て」

「なら維斗は何すんだよ?」


 ま、当然の疑問か。


「俺は速く走って全員に猿轡を噛ませる。中は防音設備が充実してるらしいから多少声を出されてもバレ無いはず」

「わぁお、俺よりエグいことしてて草」

「じゃあ良いか?」

「おけ、いつでも」


 俺はアパートのインターホンを鳴らす。

 扉を閉めて貰わないと声が漏れるかもしれんからな。


 そんな俺の考えなど知らず、インターホンから声が聞こえて来た。

 低く粗暴さを隠そうとしない荒々しい声。


「何だ?」

「すいません。道に迷ったんですけど、道案内お願いしても良いですか? どうにも都会は広くて……」

「スマホで調べろ」

「スマホは踏まれてぶっ壊れました。東京って物落としたら終わりなんですね」

「……少し待ってろ」


 その言葉を最後に、インターホンからの声は聞こえなくなる。

 取り敢えず成功したか……と安堵のため息を漏らす俺に、無線越しに彰が驚いた様に言った。


『お前さ……相変わらず良くペラペラと嘘を言えるよな……しかも不自然無くさ……』

「俺、俳優の才能あるかもしれん」

『はっ、何か調子に乗ってるわ』


 そんな軽口を叩いていると、アパートの扉が開き、1人の大柄な男が現れる。

 服装は身体に合わないぴちぴちのスーツと目元を隠したサングラス姿。

 マト◯ックスみたいだな。


 俺はそんなことを思いながらもチラッと男の後ろを覗く。

 そこにはもう一重の扉が設置されていて、中から此処は見えない。


「小僧、教えてやるから早くどっかい———ッ!?」

「ごめんね、おじさん」

 

 サイレンサ付きリボルバーによって音もなく足を撃ち抜かれた大柄な男は悲鳴を上げようとするが、その前に俺がお得意の首トンで気絶させた。


「……なぁ、俺要らなくね?」


 仮面を付けた彰が男を見ながらぼやく。

 俺はそんな彰の肩に手を置いた。


「彰……俺が動いたらどうなると思う?」

「……どうなるんだ?」

「恐らく声も上げさせずに気絶させるとなると移動の衝撃波でアパートが揺れる。それだとバレるだろ?」

「……だから俺が意識を逸らすことで極力ゆっくり動けたってこと?」

「そゆこと」


 俺は彰と同じ仮面を付ける前に、ニヤリと嗤う。



「———さぁ、俺達主演で愉快な強盗ショーを始めようぜ」



 俺の言葉に、彰は一瞬虚をつかれた様に驚いた彰だったが……直ぐに俺と同じく笑みを浮かべた。


「……しゃーないな。親友だからしょうがなく手伝ってやるよ。ただ……利子は高く付くからな!」

「わかってるよ」


 俺達は同時にアパートに足を踏み入れる。

 まずは俺が鍵の掛かった鉄の扉のドアノブを力任せに回して開ける。

 そして驚愕に目を見開いた男達が扉の中から現れると同時に俺達は動き始めた。


「アーク、防犯カメラ」

「了解」


 彰が部屋に設置されていた4つの防犯カメラ目掛けて素早くリボルバーの引き金を引いた。

 俺は、防犯カメラに銃弾が届いたと同時に近くのスーツの男達から連続首トンをお見舞いする。

 音速をギリ超えない速度で計32人を気絶させるのに掛かった時間は、ぴったり1秒。


「よし、これでここはおしまい」

「うわっ……皆んなガチで気絶してるし……気絶したら白目になるのってマジなんだな」

「そんなことより早く行くぞ。バレるのも時間の問題だからな」


 俺達は直ぐ様スーツに着替え、下へと続くであろうエレベーターに乗り込んだ。


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