第23話 ヤバい奴、スキルを使う

 ———コイツ、中々死なないな……。


 俺は、迫り来る無数の棘付きの槍を周りに被害が及ばぬ様に全て破壊しながら、内心毒付いていた。


「ヴォォォォォォォォ!!」

「だから、それは効かねぇよ。少しは学習しろ馬鹿」


 ボスから放たれたエネルギー波を受け流して上空へと飛ばしながら、即座に懐に入り込んで拳を撃ち込む。

 同時にボスが弾き飛ばされるが……まだ倒れない。

 巫山戯んな、とっとと死ねよ。


 こんな感じで、近くにいた少女を離れた場所に避難させてボスと対峙したのはいいものの……有効打を決めれていなかった。


 勿論このまま殴りまくれば殺せる。

 だがそれだと、倒した頃には周りの被害がとんでもないことになってしまう。


 これで万が一壊した物全てを罰金しろとか言われたらたまったもんじゃない。

 だから何としても早急に倒さなければならないのだ。


 というかそもそも———。



「———何で『呪いのピアス』なんか付けただよ俺……」



 俺は、吹き飛んだボスを追い掛けて追撃の蹴りを食らわせながら呻く。


 そう、俺が未だにこの程度の相手に手こずっているのはこのアイテムのせいなのだ。

 

 ———呪いのピアス。

 装着者のステータスを1ヶ月の間3分の1にする代わりに、1ヶ月間着け続けたら1度死んでも蘇られる『蘇生のピアス』に生まれ変わるアイテムなのだ。

 1ヶ月が過ぎれば誰にでも装着可能になるのだが、それまでは1度付けたら死なない限り外れない。

 

 そんな性質を持つこのピアスのせいで、俺の力は著しく制限されている。

 多分普段の俺なら、コイツ程度1発殴れば消し飛ばせるはずだ。


 ただ……もしもの時に蘇生出来たらどれだけ気持ち的に楽かを考えるとな……。

 まだまだ沢山あるし、せめて家族と彰と草薙の分くらいは用意しておきたいんだよ。


「……仕方ない、か……」


 俺はやむを得ないと判断し、自分の中で課していた掟を破る決断をする。


 掟は全部で3つ。

 1つ、スキルを使わない(【気配感知】と【魔力眼】を除く)。

 2つ、自分が救えるモノの境界を引く。

 3つ、力を悪用しない。


 この3つが俺が課した掟だが……今回は例外的に『スキルを使わない』という掟を破ってスキルを使うことにした。

 

「ふぅ、久し振りに使うけど大丈夫かな?」


 俺は身体をほぐしながら呟く。

 久しぶり過ぎて制御出来るか心配だが……まぁやるしかない。


「見とけよ、偽物の王様」

「ヴォォォォォォォォ!!」


 本能か、俺がこれからすることが自分に不利になると気付いたらしいボスが、地面から巨大な花を生えさせてエネルギー波を放つ。

 そのエネルギー波は俺に到達するが……。



「———【身体強化】———」



 全身に白銀のオーラを纏い、瞳を銀色に変化させた俺が腕を動かした風圧であっさりと消滅する。


「!?」


 自身の攻撃が一瞬で消されたことに驚く素振りを見せるボスは、スキルを使った俺を見て、恐れる様に後ずさる。


「ヴォォ……」

「どうした? そんなに俺が怖いのか?」


 俺は首を傾げ、一歩前に出る。

 瞬間———俺の身体は数十メートル先のボスの眼前に移動していた。


 やっぱり制御が甘いな……こんなに出力高くなくていいのに。

 てか世界が止まって見えるんだが。


 俺はスローモーションで此方の方に顔を向けるボスの姿を見ながら、拳を握る。

 そして———。



「これで、終わり」

 


 ボスが此方に顔を向き終わる前に拳を振り抜いた途端———ボスの身体が一瞬で跡形も無く消し飛ばされる。

 続いて遅れて拳を振り抜く風切り音と拳がボスに当たる轟音が鳴り響き、爆風が地面諸共周りの物全てを吹き飛ばす。


「うおっ……や、やり過ぎた……」


 俺は半径数十メートルにも及ぶクレーターの中央に立ち、思わず苦笑いを浮かべる。

 案の定と言うべきか、久し振り過ぎて少し力んでしまった。

 ボスを空中に上げてから殴れば良かったかもしんない。

 

「ま、起きたことはしょうがないか。とにかく早くその場から逃げるが勝ちだろ」


 俺はスキルを解除して、ネックレスによって爆風や瓦礫から身を守られていた少女に近付く。

 少女は呆然と俺を映している。


「大丈夫か? もう終わったから避難所に連れて行ってやるよ」

「あ、あの———」


 少女が何か言おうとしたその時———。



「そこの君達、手を挙げろ!」



 5人程のバトルスーツを着た男がマシンガンを俺達に向けていた。

 あのお姉さんと同じ黒いバトルスーツを着ている……組織の奴か。


「……異能連合……」

「ん? 君も知ってんの? 異能連合」

「え、あ、貴方も……?」


 お互いに驚いたように目を合わせる。

 よく見ると少女は日本人ではない様だ。

 ただ物凄く日本語が上手いけど。

 てか、随分『異能連合』ってヤツは規模の大きな組織なんだな。


「ま、俺はどっちかと言うと追われる側だけどな」

「ど、どうして……?」

「異能連合の奴を派手に投げ飛ばした」

「あ、あぁ……」


 俺の回答に少女は苦笑している。

 

「君達、ここで何が起こったかは分かっている! 直ぐに私達と一緒に来るんだ!」

「だってよ。俺は逃げるけどどうする?」


 俺は少女に問い掛ける。

 彼女も異能連合の名前を口に出した時に少し顔を歪めていたので、少なくとも良い感情は持っていない様に思えるが……。


 少女は少し迷う素振りを見せると……。


「わ、私も逃げます……!」


 未だに震える足で立ち上がる。

 俺はその姿にまだ走れそうにないな、と判断する。


「じゃあ、少し我慢してくれ」

「えっ……っ!?」


 俺は少女を再びお姫様抱っこし、男達のいる方向とは反対に駆け出した。

 

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