第22話 ヤバい奴VS深緑の鹿王
《———プレイヤー赤崎維斗様、ダンジョンボスは西に3.5キロ前方です》
「……なぁ、システム。その『プレイヤー赤崎維斗』はやめないか?」
俺は、ダンジョンボスの居場所への案内をシステムに受けながら、今までずっと思っていたことを口に出した。
《……質問。では、何とお呼びすれば?》
お前、実は自我持ってない?
普通システムなのに質問するか?
ただ何となくだが……それを聞くのはまだ早いような気がした。
「何でも良いけど、それは長いだろ」
目まぐるしく過ぎ往く崩壊した街の景色を眺めながら俺はシステムとの会話を続ける。
すると……数秒の間を置いてシステムが言った。
《提案。プレイヤー赤崎維斗の呼称を『マスター』に変更しますか?》
「何でいきなりマスターになったのかは知らんけどさ、別にそれで良いよ。そっちの方が短くてアンタも言いやすいだろ?」
《疑問。マスターの仰る意味が理解出来ません》
「まぁ分かんないなら良いか。これからもよろしく、システム」
《……前方にダンジョンボスを捕捉。マスターに情報をインプットします》
そんなシステムの言葉と同時に、突然、俺の頭の中にダンジョンボスの情報が入って来た。
何々……あぁ、なるほどね。
『深緑の鹿王』とかいう大層な名前だから何かと思えば、あの
本物の王に変わって王語ってる痛い奴ね。
俺は、少し先で1人の少女に植物で出来た槍を飛ばしている、体長3メートル程の全身にツルを絡ませた鹿の目の前に躍り出た。
そして宙に無数に浮かぶ槍を片手で捌く。
「———君、大丈夫か?」
「あ、は、はひっ! だ、大丈夫でしゅ!」
余程怖い思いをしたのか、少女は涙で頬を濡らしており、全身ガクガクと生まれたての子鹿の様に震えている。
ふむ……顔も真っ赤で呂律も回ってない様だし、結構な重症だな。
俺は断りを入れて少女をお姫様抱っこすると、少し離れた場所に移動して降ろす。
「少しここで待ってな。直ぐに安全な場所に連れてってやるから。あと、これは上げる。俺が来るまで頑張ってたご褒美? そんな感じ」
「え……?」
俺は、俺より少し下くらいの金髪の少女に結界のネックレスを渡してから、ダンジョンボスへと向き直った。
「———よっ、偽物の王様。お前をぶっ倒しに来たぜ」
「ヴォォ……ッッ!!」
怒りの篭った咆哮を上げるボスが、俺の視界を埋め尽くすほどの槍や木の根、エネルギー波を撃ち出す花などを
———一体何を見てるんだろう……?
私———アリサ・エル・オルダーは、目の前で繰り広げられる目を疑う様な光景に、ただただ言葉を失って眺めていた。
「ヴォォォォォォ!!」
「おいおいどこに攻撃してんだよ」
鹿型モンスターが身体の3分の1ほどの角を雄叫びを上げながら少年に振るう。
だが、既に少年は角の軌道上に存在せず、気付けばモンスターの真後ろに立っていた。
そして———地面が割れると同時にモンスターが派手に吹き飛ぶ。
「ォォォォォォォォ……!?!?」
数十メートル吹き飛ばされて呻くモンスターの横っ腹には、何かをぶつけられた様な後がクッキリと残っている。
しかし私の目には少年が動いた様には見えなかった。
恐らく……私が知覚出来ない速度で拳を振り抜いたのだ。
残像すら見えない神技。
そんな神技を、少年は息を吐く様に繰り出していた。
お陰でモンスターに巻き付く植物は弾け飛び、身体には殴打痕が幾つも残っている。
勿論モンスターとやられっぱなしのままでなく、縦横無尽に動いて必死に少年を攻撃しているが……効くどころか掠りもしない。
エネルギー波、木の根の束縛や刺突、植物の槍、モンスター自身の物理攻撃、自立して動く食虫植物の様なモンスターの27ミリ口径機関銃の威力を凌ぐ種のマシンガンも全て。
その全てが少年に通用しない。
そんな光景に。
異次元の強さを誇るモンスターを手玉に取る少年に。
私は———目を奪われていた。
そもそも私は、アメリカの政府から秘密裏に、日本のダンジョンブレイクを引き起こしたダンジョンを調査するために派遣されたプレイヤーだ。
だから、自分の力にもそれなりの自信がある。
レベルはアメリカの中でもトップ10に入るくらいで、現在のレベルは311。
このくらいのレベルになれば、相手の強さが朧げに分かってくる様になる。
そして今まで、モンスターで私が勝てないと思ったのは1体のみ。
アメリカの最強のプレイヤーすらも退けたダンジョンブレイクを起こしたダンジョンのダンジョンボスだけだ。
恐らく私の2、3倍強い。
しかし———目の前の鹿に多様な植物が絡み合った様なモンスターは、そんな程度ではなかった。
私は相対した瞬間———そのあまりの隔絶した強さに動くことが出来なかった。
短剣すら手が震えて握れない。
足は立っていられない程に力が込もらなかった。
モンスターが小さく鳴けば、私は情けなく悲鳴を上げるしかない。
涙も流した。
そして私に植物で出来た槍が放たれた瞬間……死を覚悟した。
『あ、死んだ』
『随分とあっさり死ぬなぁ』
そんなことしか思わない程あっさりと受け入れていた。
まるで災害に巻き込まれた時の様に。
しかしそんな攻撃を———今戦っている少年があっさりと跳ね返した。
それも、攻撃も見ずに片手で。
そんな圧倒的な力を見せた黒髪黒目の少年は心配そうに私へと声を掛けてくれた。
それだけでなく……。
『少しここで待ってな。直ぐに安全な場所に連れてってやるから。あと、これはあげる。俺が来るまで頑張ってたご褒美? まぁそんな感じだ』
そう言って膨大な魔力が篭ったネックレスまでくれた。
間違いなく国が動く程に貴重なアイテムをご褒美、と言ってだ。
私はネックレスに目を落とす。
青く光るヒモの先には、彼の左耳についたピアスと同じ色である紺青の小さな宝石が付いている。
形は涙のようだった。
———彼を知りたい。
助けてもらい、優しい笑顔を向けたれた私の心はその1つで埋め尽くされた。
正直任務なんて即座に放棄したいほどだ。
強さは勿論だが、それよりも彼の名前や彼の様々な好みも知りたい。
逆に彼には私を知って欲しい。
だが、私には任務がある。
強い者が居たら引き抜いてこいとも言われていて、最低1週間以内に2つの任務の内の何方かの成果がないと連れ戻される。
だから———それを私は逆手に取ることにした。
私は素早く上司に『強力なプレイヤーを発見。交流を深めてから引き入れます』とだけ付けて送信。
一応彼の顔を隠した動画も送った。
これで私がアメリカに戻されることは無くなるはず。
そして彼を他のアメリカのプレイヤーからも一時的に守れるだろう。
私はホッと一息付き……彼から貰ったネックレスをぎゅっと握って再び彼の勇姿をこの目に収めることにした。
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