第20話 ヤバい奴、異変に直面する

「———やっと終わったか。全く……遅いよお前ら」

「いやいやいやいやめちゃくちゃ早く倒したが!? 10分も掛からなかったが!?」

「え、マジか」


 彰の言葉に思わず耳を疑う。

 チラッとクロに確認を取るが、まさかの彰の言っていることが正しかった。

 俺的には30分くらいに感じたんだが……何事かね?


「取り敢えずその話は後にしてアイツ倒したら?」


 同じくアイアンゴーレムを倒し切った草薙が剣を鞘に納めて上を見上げる。

 そう言えばまだいたんだったな、すっかり忘れてたわ。

 

「悪い、そっこー倒してくる」

「えぇ……あれを速攻で倒すとか……つくづくバケモンだなお前」

「その内お前も草薙も此方側になるよ」


 俺はそれだけ言い残し、跳躍。

 一気に100メートル程上空に浮いた俺は、暇潰しに付き合ってくれていたスクールゴーレムにお辞儀する。


「お前もありがとな。それと———」

「キュォオオオオオオオオオ!!」


 俺は高速回転する殴打をタイミング良く足場にして更に上空へと飛び上がる。

 そして———。



「ばいばい」



 落下の速度が乗った踵落としをゴーレムの頭に食らわせた。


「———ッ———!?!?」


 俺の踵落としを食らったゴーレムは声にならない叫びを上げて、上半身が吹き飛ぶ。

 その瞬間———鼓膜が破けそうな程の破裂音がダンジョン全体に轟き、爆風と下半身が倒れたことによる身体を揺らす程の轟音が少しして響き渡った。


「うぉぉ〜〜〜〜や、やべっ、酔いそう……」

「何でレベルアップしたのに三半規管が強くなってねぇんだよ」

「わ、分からん……」


 俺は顔色を青くして口元を押さえる彰に呆れた様な目線を送りながら、一応エチケット袋を渡す。

 そんな彰の背中を心配そうにクロが摩っていた。


「きゅっ、きゅっ!」 

「あ、ありがとう……クロ先輩……うっぷ」

「ねぇ赤崎君。大丈夫なの、彼?」

「大丈夫大丈夫。コイツ偶にゲームでも酔うからな。日常茶飯事。ところで……レベルはどのくらい上がったんだ?」

「ちょっと待って…………今は112ね」


 へぇ、このダンジョンだけでもうそんなにレベルが上がったのか。

 まぁ彰もレベル1から今日だけで250くらい上がったし……ほんと凄いな。

 お、俺の3ヶ月……。


 俺が内心涙を流していると、突然地面……と言うよりダンジョン全体が揺れ始める。

 同時に彰は耐え切れずにエチケット袋にリバースしていた。


「ゲホッゲホッ……ゆ、維斗、ヘルプ。何なんだよこれ……」

「だ、大丈夫かお前?」

「お、おう……で、何が起きてんだよ?」

「ダンジョンの崩壊だ。俺もシステムに聞いてはいたけど……体験するのは初めてだから確証はないけど」


 だって俺のダンジョンはクリアしても崩壊しなかったしな。


 俺が彰の背中を摩りながら崩壊していくダンジョンを眺めていると……草薙がポツリと言った。


「……これって私達は巻き込まれないの?」

「「…………」」

「あそこに来た時と同じ穴があるわよ」

「よし、走るぞ」

「何で走るんだよぉおおおおうえっ……」

「あ、彰!?」


 俺は未だ顔色が悪く走れそうにない彰を担いで草薙と共に走り出す。

 そして……先の見えない穴へと躊躇なく飛び込んだ。


 その瞬間、全身が揺れるような感覚に襲われたかと思えばグラウンドに倒れていた。

 彰が呻きながら立ち上がるが……俺は目の前の光景に目を奪われていた、


「た、助かった……のか……いや、は?」

「……これは、どう言うことかしら……?」


 俺達は思わず目を疑った。

 そしてお互いに目を合わせて再び周りを見渡し……。


「……見間違いじゃないのな」

「きゅぅ……」

「……うそん」

「も、もう流石に動けないわよ……!」


 俺達の目の前で大量のモンスターが暴れ回っている光景に———全員が呆然と呟いた。










「———取り敢えず状況整理から始めましょうか。赤崎君、何か情報はないかしら?」


 自分の混乱を落ち着かせる様に、草薙が何度か深呼吸をしてから訊いて来た。

 ただ流石の俺でも、モンスターが暴れ回っていると言う以外は、この状況についてさっぱり理解不能だ。


 と言うことで、頼りになる奴に尋ねる。


「システム、何が起きたか分かるか?」

《周辺の情報を検索します……完了。現在B級ダンジョン———『深緑の森』のモンスター達がダンジョンボスを中心に暴走中。原因を確認……完了。何者かがダンジョンボスの縄張りに入った模様。現在は縄張りに生存者は確認出来ません》


 色々とツッコミたいことがあるが……。


「……どうやらこれの原因はダンジョンボスの暴走らしい。そして……もしかしたら俺達のせいかもしれん」

「どう言うこと? ダンジョンボスの暴走がどうして私達に関係あるのかしら?」

「??」


 訝しげに此方を見る草薙と、何も理解出来ていなさそうな彰に説明する。


「何でも今回の暴走、何者かがボスの縄張りに入ったんだとよ。少し暴れたか何かしたんだろうが……多分ソイツら、俺と草薙を探してた組織の追っ手じゃないか?」

「!?」

「ん? つまり……馬鹿な奴らがボスのお家を荒らしたからボスが怒ってんの?」


 珍しく一瞬で状況を理解したらしい彰が尋ねてきたので少し驚きながら頷く。


「あ、ああ、そう言うことだ」

「なら全部ぶっ倒せば良いんだな!」


 いつも通りの彰で安心したよ。


「まぁそれで良い。草薙、これを飲め」

「ま、またコレを飲まないといけないのかしら……?」


 俺が渡した回復剤を見て露骨に顔を歪める草薙。

 まぁ効き目はいいが、不味いのでそうなるのもしょうがない。


「ならその状態で戦うか?」

「……っ、分かったわよ……! 赤崎君、性格悪いわね……!」

「何とでも言え。折角のレベルアップチャンスをふいにするよりマシだろ」

「……確かにそうね、ごめんなさい」

「別に気にしてない」


 草薙に回復剤を渡し……俺は2人に目を向ける。


「いいか、2人とも。今回は俺はお前達に付いていてられない。まず家族を……」

《現在プレイヤー赤崎維斗の家族の無事を確認しました。ダンジョン41階層で戦闘中。ダンジョンは結界発動中。赤崎維斗はダンジョンボスを倒すことを推奨。ダンジョンボスのレベルは3000。現代の人類では討伐不可能》

「……俺がボスを倒すから、お前らは雑魚を倒してくれ」


 システム……お前マジで優秀だな。


 俺が今までで1番システムのことを頼もしく思っていると、2人が頷いた。


「まぁ俺は維斗が動くんなら別に文句はないぜ! 俺のレベルアップの足しにしてやる」

「いいわ、早く強くなりたいから」


 2人とも異論はない様だな。



「じゃあ———また後で会おう」

「おう、また後でな」

「……また、後で」



 俺はリボルバーを抜き、鬼神剣を構える彰と草薙を背に、システムが示すボスの位置へと向かった。








「———クロ、2人を頼むぞ」

「きゅっ」



 まぁ……これでいいだろう。

 頑張れよ、2人とも。


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