第18話 ヤバい奴と学園ダンジョン

 ———えー……何だここ?

 ダンジョンにこんな場所あるのか?


 確かに俺達はダンジョンの中に入った。

 ダンジョンに入る時特有の身体が歪む感じを体験したので間違いない。


 しかし———目の前には俺達の通う学校と瓜二つの光景が広がっていた。


 …………。


「……ま、何とかなるだろ」

「維斗さんや、少し軽すぎやしませんか?」

「でも動かんことには何も始まらんだろ」

「そりゃそうだけど……」


 動くのを渋る彰の首根っこを掴んで持ち上げて、グラウンドの真ん中でしゃがむ草薙に声を掛けた。


「草薙、何をしてんだ?」

「……これ、何なのかしら」


 そう言って彼女が指差したのは……地面に埋まるボタンのようなモノだった。

 草薙はボタンの上に被さった土を手で払いのけると、俺に目で『押していい?』と問い掛けて来る。

 俺も特に断る理由はないので頷く。


「いやいやいやちょっと待って」

「「何?」」

「『何?』じゃないよ! 明らかに何かの罠でしょ!? 何でわざわざ危ない橋を渡るんだよ!?」


 彰が俺に持ち上げられた状態でジタバタして逃げようとする。

 しかし……俺の肩に乗るクロが無言で角を光らせ始め———彰は一瞬で鎮まった。


「きゅっ?」

「う、嘘ですやん。俺、クロ先輩と維斗がいるなら絶対大丈夫って信じてますもん」

「安心しろ、彰。多分……このダンジョンの系体把握したから」

「ええっ!?」


 俺がそう言うと、彰だけでなく草薙までもが驚いたように此方を向いた。


「それは……本当なのかしら、赤崎君?」

「あぁ。恐らく此処は———ステップアップダンジョンだ」


 俺が断言すると———2人は首を傾げた。


「ステップアップダンジョンって何だ?」

「簡単に言えば、課せられたミッションをクリアして先に進むダンジョンだ」


 俺的に大分嫌いなダンジョン系体である。

 ミッションがある=全てのモンスターを無視できないと言うことだからだ。


 普通のダンジョンなら、雑魚モンスターを1体も倒さずボスだけ倒せばクリアになる。

 ただこのダンジョンだとそもそも規定数のモンスターを倒さないとボスさえ現れない。


「まぁレベルアップには丁度いい」

「あ、おまっ———」


 俺は躊躇なくボタンを踏んだ。








 ———結論から言って……俺の予想は当たっていた。


 ボタンを押した瞬間、グラウンドを埋め尽くす程のオークリーダー(レベル50前後)が現れた。

 因みにオークリーダーとは、オークを一回り大きくして肌をピンクから茶色にした感じだ。


 そしてミッションも直ぐに現れた。

 しかも『このグラウンド内全てのモンスターを倒せ』と簡単なミッションである。

  大体2、3000体くらいか。


 しかし———此処からが俺の知っているステップアップダンジョンとは違った。


 何と『ペナルティー』というモノが存在したのだ。

 しかもタチの悪いことに30分以内に倒さなければ『学校を避難所にしていた一部の人々の殺害』がペナルティーとして発動するらしい。

 今グラウンドの外には、50名程の人々が俺達を不安げな様子で見守っている。



 つまり、このダンジョンは———学校全体を飲み込んで発生したのだ。



 ……何でこんた面倒なダンジョンに入っちゃったんだろ、俺。

 まぁでも……ペナルティー自体の心配は全く問題なさそうだな。



「オラオラ死ねぇぇぇぇぇ!!」

「はぁぁぁぁぁ!!」

「「「「「「「「「ブモォオオオオオオオオオオ!?!?」」」」」」」」」」



 彰は草薙の援護と評してストレス発散と言わんばかりに銃を乱発。

 草薙も援護など必要ないとばかりに俺が渡した『鬼神剣・双角』と呼ばれる刀身が紅と蒼の双剣を手に、縦横無尽に舞うように剣を振るっている。

 

 鬼神剣は俺の秘蔵の武器で、その性能はレベル9999のモンスターにも通用する。

 まぁ使い手のレベルと練度が低過ぎて能力に制限が掛かってるけどな。

 今は身体能力の向上と斬撃強化くらいか。


 ただ、そんな2人の活躍で、今丁度5分が経ったのだが……既に3分の1は倒されていた。

 しかし遂に此処でブーイングが入った。


「てかおい維斗! お前も少しは戦えよ!」

「あ、バレたか」

「バレるに決まってんだろ! 見渡す限りオークばっかで気が狂うわ!」


 どうやら彰は俺がサボっているのが不満な様子だ。

 因みに草薙は『強くなってお姉さんを助けたい』という目標があるからか、黙々とオークを捌いていた。


「お前も少しは草薙を見習えよ」

「五月蝿ぇ! てか銃弾の生成が追い付かないから助けてください!!」


 そう言えば彰の銃弾は全部【錬成】で制作してるんだったな。

 それなら確かにこの量だと持たないか。


「草薙、今のレベルは?」

「……っ、ご、58よ……!」


 草薙が双剣で目の前のオークリーダーを斬り飛ばしながら疲労の見える顔で言った。

 流石に武器の底上げがあるとは言え、体力切れはどうしようもない。

 

「……草薙のレベルアップも潮時か……。分かった。俺も手伝うから2人は俺の後ろに集まってくれ」


 俺はグラウンドの隅に陣取る。

 2人は俺の言葉に素早く跳躍して、義経の舟渡りのようにオークリーダーの頭を足場にして俺の下へとやって来た。

 そして即座に俺の背後に回った。


「はぁ……はぁ……」

「お疲れさん、草薙。結構良い動きだった」

「はぁ……はぁ……あ、ありがとう……」


 草薙は激しく肩で息をしながらも、少し表情を緩めた。

 本当に良くやったな。


「おいおい……俺には何も無しか?」

「お前はレベル200超えてんだろ。土俵が違うんだよ土俵が。まぁ……銃捌きは中々のもんだな」

「へっ、何せ【銃術☆5】になったからな!」


 ほう……それは凄い。

 まぁ彰はプラント戦でエグい程撃ちまくっていたから妥当と言える。


「さて……俺もそろそろ役目を果たすとするか。実力を疑ってるヤツもいるらしいしな」

「……っ、べ、別に……」


 俺がチラッと草薙に視線を向けると、気まずそうに目を逸らした。

 その行動が図星だと証明している。


「まぁ少し見てろよ、草薙。これが———」

 

 俺は腰を落として握った拳を引く。

 今回は草薙に力を見せるためにスキルは使わないが……手は抜かない。


 そのため俺の殺気にオークリーダー達は動けなくなっているが……俺はお構い無しに本気で拳を振り抜いた。




「———お前の目指す境地だ」




 ———全てが吹き飛んだ。


 近くにいたオークリーダー達どころか、真反対にいた者も全てが跡形も無く消し飛ぶ。

 グラウンドは全面が半円状に抉れ、全体を覆うダンジョンの結界が軋むと同時にヒビ割れ、轟音を立てて崩れ落ちた。

 人々は無事だ。

 

 俺はそんな光景を目の当たりにして呆けた顔を晒す草薙に視線を向け……。


「どうだ? これで俺の実力を信じてもらえたか?」


 悪戯っぽく笑って見せると、草薙はコクコクと何度も頷いた。


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