第16話 ヤバい奴、首を突っ込んでしまう

 ———これは一体どういう状況だ……?


 気配が気になって来たものの……俺は姉妹喧嘩にしては随分と物騒な光景に、木陰から出られないでいた。


「ごほっ……私の人生は……わ、私が決めるわ……」

「その程度の力で一体何をほざいているのですか? 無理ですよ。玲奈の力ではこの世界を生きていけません」


 凍える程に冷徹な瞳を草薙に向ける謎の美人は、刀を持っていない方の手を草薙の前に差し出した。


「さぁ、この手を取って下さい。きっと貴女なら組織にも認められるはずです」

「……っ、嫌よ……! 良い加減目を覚まして……姉さんは騙されてる! あの組織はスキルを持った人間を集めて自分に反抗する者を減らそうとしているだけ! 姉さんの願いなんて絶対叶えないわよ!」


 美人の差し出した手を拒絶する様に叩いて距離を取る草薙。 

 草薙の普段のクールな姿とはかけ離れた感情的な言葉と表情に、俺は少々面食らう。


 あんな顔もするんだな、草薙の奴……と言うか『異能連合』って何?

 草薙の話を聞く限り結構ヤバめの組織みたいだけど……。


 情報過多で頭が混乱する俺だが、そんな俺を置いてけぼりにするかの如く2人の話は激化していく。


「そんなことありません。マスターは異次元の力をお持ちですから。あのお方ならば必ず私の……私達の願いを叶えてくれるはずなんです」

「それは私の願いじゃない……! 姉さん良い加減に目を覚ましてよ……!! あんな人達を信じるなんて絶対おかしい……!」


 必死になって訴え掛ける草薙だが……お姉さんの心には響いていないように見える。


「……はぁ、もう良いです。貴女はどうせ最後まで反抗するのでしょう? ならば組織の害にならぬ様———ここで処分します」


 突然感情の篭っていない平坦で抑揚のない声色と口調に変えたお姉さんが、刀をゆっくりと振りかぶり始めた。


 おいおいマジかよ。

 流石に家族は殺さない……よな?

 何か心配してそうだったし……。


 しかし今のお姉さんからは———殺気しか感じなかった。


「さようなら、私の妹」

「姉さ———」


 草薙の言葉を遮る様に、草薙の首目掛けて刀が振り下ろされ———。



「ストップ。それ以上は後悔するぞ」



 草薙の首に触れる直前に俺が2人の間に入って刀を手で止める。

 突然現れた俺に驚愕に動揺を隠せないお姉さんは直様刀を動かそうとするが、ピクリとも動かさないようだ。


「っ、う、動かない……! いっ、一体何者なのですか!?」

「通りすがりの一般人Aだ」


 俺は、感情の感じられない瞳のお姉さんから視線を外し、目を見開いて呆然と俺を眺める草薙をチラッと見て話し掛ける。


「よっ。随分とピンチだな、草薙」

「……あ、赤崎君……?」 

「ここで人が死ぬのを見るのは目覚めが悪いんで割り込ませて貰った」

「あ、ありがとう……?」


 まだ混乱しているのか、上の空で俺と会話をする草薙。

 そんな俺達をお姉さんが感情の篭らない冷徹な瞳で睨む。


「誰だか知りませんが、退いてください。私は妹を自らの手で斬らなければならないのです」

「……はぁ、こりゃダメだな。人を洗脳する辺り絶対碌でもない組織だろうし———」


 俺はお姉さんごと刀を投げ飛ばす。



「———俺は草薙に加担させてもらう」



 洗脳された様子のお姉さんから草薙を庇う様に立ち塞がった。




 

 


 

 

 ———さて、咄嗟に庇ったは良いが……どうしようか。


 俺は草薙のお姉さんに刀の切先を向けられて睨まれながら、内心冷や汗を垂らす。

 お姉さんは目を細め、殺気を向けてくる。


 いや……殺伐とし過ぎじゃないか?

 そもそも俺は『異能連合』なんて組織、さっぱり存じ上げないんだが……。


 彼女達のノリのズレを感じて困惑する俺にお姉さんが警告する。


「……私の、邪魔をするのですか? 今なら見逃して差し上げます。そこを退いてください」

「……頼むから気を強く持ってくれ。今、アンタは洗脳されてる」


 俺自身、人間が洗脳されている姿をこの目で見たことがないので何とも言えないが……モンスターの中にも別のモンスターを洗脳してけしかけるタチの悪い奴がいた。

 今のお姉さんはその時の洗脳されたモンスターに良く似ている。


 あの時は術者を殺すことで何とかしたが……それは難しそうだ。


「兎に角、アンタのためにも俺はここを退かないぞ」

「では、死んで下さい」


 言葉を言い切る前に、刀が俺の首目掛けて振るわれていた。

 しかし……全て視えている。


「っ!?」

「無駄だ。アンタじゃ俺に勝てない」


 俺は振るわれた刀を指で摘む。

 お姉さんには悪いが……彼女の強さなら闘い方を工夫すれば彰でも勝てるだろう。

 そんな彼女の攻撃など俺には全てスローモーションに見える。


「……っ、なら……」


 そう呟いたお姉さんの身体が赤いオーラに包まれると同時に地面を蹴って俺の胴体目掛けて刀を振るう。

 ふむ……どうなら動きのキレが上がって先程より少し速度が上がったようだ。

 このスキルは……俺と同じ『身体強化』と同じか。

 

「ただ……あんまり練度は高くないな」


 俺はその場から一歩も動くことなく四方八方から迫り来る刀を防ぐ。

 大体1秒に数回の速度で迫る刀は正確に人間の急所を狙って振るわれており、確実に俺を殺そうとしていた。


「お、おい、本当に俺を殺す気か?」

「貴方が玲奈を殺す邪魔をするなら……証拠隠滅のためにも躊躇なく殺します」

「やめてよ姉さんッ!! 彼は関係ないじゃない! 殺すなら私だけにして!」


 草薙が死ぬと言う恐怖にガタガタと震えながらも覚悟を決めた様子でお姉さんを睨む。

 その自己犠牲以外の何物でもない行動に俺は振り返り、反射的に言ってしまった。


「お前、バカだろ」

「な、何ですって……!?」

「自分の命を粗末にすんじゃねぇって言ったんだよ」

「っ!?」

 

 俺の言葉に草薙が目を大きく見開く。

 しかし直ぐにわなわなと身体を震わせて俺を睨んで来た。


「あ、赤崎君に一体私の何が分かるって言うのよ……!」

「何も知らないね。ただ……アンタが死ぬのはお姉さんも望んでないんじゃないのか?」


 洗脳される前は確かに草薙の身を案じる様なことを言ってたし。


 俺の言葉に唇を噛む草薙は、泣きそうな声で言う。


「なら……ならどうしたら良いのよ……」

「簡単だ。お姉さんの洗脳を解いて組織とやらを脱退させれば良い」

「そんなのどうやって……それに、貴方をこれ以上巻き込むわけには……」


 今更そんなことを言うのか。

 お人好しというか何というか……まあ、それなら———。



「草薙、お前が組織のボスとやらに負けないくらい強くなればいい。俺がお前を強くしてやる。そして———自分でお姉さんの洗脳を解くんだ」


 

 俺がそう言うと草薙は大きく目を見開いて躊躇う様子を見せる。

 しかし直ぐに顔を引き締め、覚悟の篭った瞳を俺を向けた。



「……分かったわ。赤崎君———私を強くして」



 その言葉を待っていた。


 俺はニヤリと笑みを浮かべる。


「了解だ。ならまずは……お姉さんにご退場願うとしようか」


 俺は体を捻って刀を回避すると、お姉さんが重傷を負わない程度に力を抜き……。


「またいつか会おうぜ」

「っ!? くっ———」


 お姉さんを遥か彼方へと吹き飛ばした。


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