第12話 ヤバい奴、面倒なモンスターに出くわす
———俺達が転移した先は、木々が鬱蒼と生い茂った森の中であった。
この森には常緑樹が多く生息する森林であり、真冬のこの時期にも関わらず青々とした葉を生やしている。
「———誠に申し訳ございませんでした」
そんな森の中で、彰は誠心誠意を込めた土下座していた。
しかもインターネットに乗っているお手本の様な土下座である。
「別にそんな怒ってないから気にすんな」
「……はい」
借りてきた猫の様に大人しくなる彰に俺は苦笑を浮かべ、辺りを見渡し、先程の転移門の役割を把握した。
……あれは死体を捨てるためのものか。
道理で何十万人も死んだのに街に死体がないわけだ。
胸糞悪いことしやがる、と苛立ちで俺は顔を顰める。
また、意味のないことだと分かっていながら手を合わせて黙祷を捧げた。
「維斗、取り敢えずここから離れようぜ……死体ばっかで気味悪過ぎるんだよ」
「これ見て吐かないお前のメンタルがどうなってんのかはさておき……まぁ此処はダンジョンじゃないらしいしとっとと戻るか」
俺がそう言った直後———。
「……嘘だろ……?」
彰の震える声が、歩みを進めようとしていた俺の耳朶に触れる。
何事かと目をやれば……内臓が飛び出している死体と、その死体を見て驚きの表情を浮かべた彰の姿が視界に入った。
「知り合いか?」
「……俺ん家の執事。めちゃ良い人だった」
「そうか……」
真っ白だったと思われる燕尾服の内側のシャツは血で完全に真っ赤に染まり、お腹部分が完全に貪り食われたかのようなあまりにもグロテスクな断面をした死体を眺め、彰はスッと目を逸らす。
そして、何て声を掛ければ良いのか分からずその場で立ち尽くす俺に言った。
「……お前がそんな顔すんなよ、維斗。俺は大丈夫だから行こうぜ」
「……相変わらずメンタルお化けだな、彰」
「当たり前だろ。何たって俺は日本有数の大富豪&天才の集まりである吉乃家随一の落ちこぼれであるぞ! 一体どれだけ周りにメンタル破壊されそうになって来たと思ってる!」
何故か誇らしげに胸を張る彰。
……そう言うところがメンタルお化けって言われる証左なんだよな……。
苦笑する俺に、いつのまにか虚空の一点に集中して目を凝らしていた彰が尋ねてくる。
「なぁ……維斗」
「何だ?」
「……死体が動いてんですけど」
「やっぱりお前を殴ろうかな」
俺は彰の言葉を聞いて思わずそう呟き、彰の指す方を見る。
俺の視線の先に、まるで上から糸で吊るされた人形の様に関節をガン無視した動きで立ち上がる執事だったモノが居た。
「因みに……お前、触れられてないよな?」
「当たり前だろ。あんなグロい死体に誰が触られたいと思うんだよ。てかどう言うことだよ? 何でお前はそんなに警戒してんの?」
俺はホッと安堵に胸を撫で下ろしながらも露骨に狼狽える彰に一瞬目をやる。
うーん、流石にコイツは彰には早い、か。
俺はそう判断すると、後で彰に怒られる覚悟で一瞬の内に執事だったモノの懐に入ると心臓部分目掛けて拳を振り抜く。
「———ッ———ッ!!」
執事だったモノは避けることは叶わず、奇妙なモスキート音の叫びの後で盛大な破裂音と共にこの世から消滅した……が。
……やべ、ミスった。
「……悪い、囲まれたわ」
「は? 何言っ———っ!?!?」
彰は辺りの光景に思わず息を呑む。
数十もの死体が、言葉も発さず目も死んだ時と変わらぬ状態のままでズルズルと足を引き摺りながら2人を囲んでいた。
「な、何だよこれ……!?」
「……
「はぁ!? 何だよそれ!? ヤダヤダ絶対寄生されたくねぇんだが!?」
目の前の死体を動かす生き物の姿に彰は身の危険を感じのか、全身を震わせる。
「や、ヤバい、近付いて来てるって……!」
「……因みにさ、レベルアップがあったらしたいよな?」
俺からの突然の問いに、彰が訝しげな視線を向ける。
「何だよこんな時に…………も、もしかしてレベルアップできるのか?」
「うん。てかじゃないと俺がこんな強いわけないだろ」
生身でモンスターなんか相手してられるかってんだ。
そんな俺の言葉に、愕然とした様子で彰が呟いた。
「も、盲点だった……そうだよな、ダンジョンが生まれたならレベルもないとおかしいよな! よし、維斗、俺がアイツらを倒してやるぜ!」
「やっぱそう言うと思った。ほらよ」
俺は彰に刃渡りの長い短剣を与える。
一瞬驚く彰であったが、直ぐにその短剣を握り、ニヤリと笑みを浮かべた。
「ふっふっふっ……さぁ寄生草よ……この俺の経験値になれ!」
「調子に乗んな。今のお前じゃ逆立ちしても勝てんわ」
「ええっ!? ならどうすんのよ!」
「まぁ見てろって」
俺は寄生草達に片手を翳した。
その様子を横から眺める彰が眉を潜める。
「お前さ、ホント何し……て………」
彰の言葉が、目の前の光景に言葉を失ことによって途切れてしまう。
まぁ……初めてなら驚くか。
「やれ」
俺の合図がこだまする。
その瞬間———白銀の魔力が身体から溢れ出し、意思を持ったかの様に寄生草達の身体に取り憑いてその身を縛る。
魔力を受けた寄生草に寄生された人間達はビキッとまるで全身を鎖で縛られたかの様にその場で動きを止めた。
「……何か不思議な力使ったのか?」
「ただの技術だよ。魔力を操作して身体を縛り付けたんだ」
「何それすごい」
そう言いながら、短剣を構えて既に覚悟を決めている様子の彰に、俺はニヤリと笑って言った。
「じゃあ———レベルアップを始めるか」
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現在全て一人称視点に改稿しています。
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