第8話 一方で……。(改)

「……お兄ちゃん。これって銃刀法違反になるんじゃないの?」

「……まぁ大丈夫だろ。世界があんなんなんだから今更そんなの言ってる暇ないって」


 俺は如何にも切れ味の良さそうな短剣を持つ絵梨の言葉を軽いノリでいなす。

 そして『まぁそれもそっか』と、こちらも軽いノリで直ぐに順応する絵梨。

 相変わらず順応の早いことで。


 一方で……。


「……捕まらないよな?」

「だ、大丈夫よ、きっと……」


 父さんと母さんは渡された短剣に視線を固定させて顔を真っ青にしていた。

 しかし、子供だけに危険な目に合わせるわけにはいかない、と覚悟を決めたらしく短剣を腰の革鞘に納める。


「よし、皆んな準備は良いよな? それじゃあ———2階層でレベル10を目指して頑張ろう! えいえい、おー!」

「おー」

「「お、おー……」


 こうして俺の『家族レベルアップ計画』が始まった。









 ———維斗が家族をレベルアップさせている頃、日本の国会議事堂では首脳陣が議論を白熱させていた。


「総理、早急に対応しなければ、我が国は滅んでしまいます! 是非国民の武器の携帯を許可して下さい!!」

「ダメです総理! この混乱時に武器なんか持たせれば、どんな凶悪犯罪が起こるか分かりません! ここは自衛隊や警察に武器を携帯させて派遣するべきです!!」

「そんなことよりまずは総理の身の安全が最優先です! 私のボディガードの中に『ステータス』と呼ばれる超常能力を手に入れた者がおります。彼らを連れて安全な場所に移動しましょう!」


 様々な言葉が飛び交う中、その中心である日本の総理大臣———斎藤次郎は思わず頭を抱える。


(ど、どうすればいいのだ……! 私だって1番に逃げたいが……そんなことをすれば、間違いなく国民によって私は政界から追放される……! だが武器を持たせるのも危険なことに変わりはない! しかし自衛隊や警察を動かすにも時間が……!!)


 そんな中———1人の議員が何やら無線機を使った後で叫んだ。


「そ、総理! 何者かの集団があの異形な生物を駆逐していると報告が入りました!」

「っ!?」


 次郎はその言葉を聞いた途端目を輝かせてその議員の胸ぐらを掴んでは何度も問い詰める。


「その言葉は本当か!? 見た目は!?」

「え、えっと……近未来的なバトルスーツとかいうモノを着ているらしいです……」


 その言葉に次郎は胸ぐらを掴んでいた腕を話して思わずガッツポーズをする。


(そうだった……! 我が国には全世界の裏世界を支配する秘密組織———『異能連合』の支部があるのだ! よ、よし———)


「その集団は我々の味方だ! 今は国民達に不要な外出は控えさせ、その集団が異形の生物を駆逐している間に自衛隊と警察に武器を持たせろ!!」

「「「「「「「はっ!!」」」」」」」」


 こうして総理大臣の号令と共に、世界のダンジョン化から12時間にしてようやく日本が動き始めた。












「———支部長、粗方雑魚モンスターは倒しました。そして続々とステータスに目覚めました」


 場所は変わって、ダンジョンブレイクが起こった異次元の穴の前で、黒を基調とした近未来のバトルスーツを着込んだ黒髪ツインテールのクール系美女が、無精髭を生やした中年の男に報告する。

 2人の近くにある異次元の穴———ダンジョンは既にモンスターを出し尽くして正常な状態に戻っていた。


 美女の報告を聞いた男が顎の髭を撫でる。


「おー、そうかそうか。やっぱり覚醒の条件はレベルアップだったか」

「そのようです。そして『雷人』が言うのは『世界のダンジョン化前に異能を使えた者は、己の中に秘められたスキルを無意識的に使える者だったんじゃねぇか?』とのことです」

「ま、上層部の奴らが言った通りだな。結局世界のダンジョン化以前にステータスを解放出来る奴は1人もいなかったがな。化け物倒してレベル自体は予め少しだけ上がってたらしいけどよ」


 ポリポリと頭を掻いた男がふわぁ……と大欠伸をして椅子に座ろうとすると———美女が男の頭を叩く。


「いってぇ……」

「この事態に何寝ようとしているのですか? どれだけ腐っても貴方は日本の支部長でしょう」

「俺なんかより頼りになる副支部長がいるからいいじゃないか」

「……どうやらまだ私の言いたいことが分かっていないようですね。いいでしょう、本気で叩いて差し上げます」


 そう言って再び頭を叩こうと全身に赤色のオーラを纏って手を構える美女の姿に、男が慌てて立ち上がると慌てて距離を取る。

 そしてまるで子供のように慌てふためきながら手をブンブン振る。


「ま、待て待て待て! お前の異能は肉体強化なんだから次叩かれたら俺が死ぬだろ!」

「大丈夫ですよ、貴方の異能なら」


 そう言って怪しい笑みを浮かべる美女の姿に震える男だったが……本当に、本当に運が良いことに美女の背後にオークが現れる。

 男がこれ幸いとばかりに副支部長と呼ばれた美女の後ろを指差して叫んだ。


「あ、モンスターだ!」

「……チッ、本当でしたか」

「今舌打ちしたか?」

「してません」

「いや聞こえ———」

「してません」

「あ、はい」


 男は美女の圧力にあっさりと負けた。

 何とも情け無い姿である。


「はぁ……一体何処の部隊が討ち漏らしたのか……まぁ大方あの馬鹿雷人が楽しむがあまり取り逃したのでしょう。後でしっかり処罰を与えなければいけませんね」


 オークを鋭い眼光で見据えた美女は、再び全身に赤いオーラを纏わせてバトルスーツから剣を創り出して構える。

 対するオークは、極上の女を見つけて情欲に支配されていた。

 そのせいで無謀にも、相手との力の差を考えずに立ち向かってしまった。

 

「ブモォォオオオオオオオ!!」


 オークは手に持った棍棒を振り上げて、ニヤニヤと醜い笑みを浮かべながら美女に振り下ろす。


「あーあ、これは死んだな、あの豚」


 そんな男の言葉と同時に、美女は棍棒を剣で受け止め、でっぷり太った腹に強烈な蹴りを叩き込む。


「オゴッ……!?」

「ふんっ」


 ふらふらと後ずさりながら棍棒を手から離し、蹴られた腹を押さえて苦しむオークに、ものの数歩で接近した美女は———無防備なオークの首を一刀両断。

 スパッと綺麗に首を斬られたオークは力を失い倒れる。


「……雑魚ですね」


 そう言って剣に付着した血を飛ばし、バトルスーツと一体化させる美女に、男が手を叩いて大袈裟に褒め称える。


「おお、流石我が支部の副支部長!」

「本来なら貴方が倒してもいいのですよ、支部長?」

「いや、俺は接近戦の人間じゃないから」


 だから近くの奴は君に任せるよ、と呑気に話す男の姿に美女は諦めたように大きくため息を吐いた。

 そして目を閉じて考える。


(それにしても……ジャイアントリザードを瞬殺した雷の魔法を放つ者に、私や雷人を超える殺気を放つナニカ……対処しなければならない課題が多いですね。特にジャイアントリザードを瞬殺する者は……組織最強の彼でも勝てないでしょうね。———あ、レベルアップしましたか)


 美女は自身のステータスを確認する。


—————————————

草薙くさなぎ蓮香れんか

種族【人間】

年齢【25】

Level【57】

基礎ステータス

体力【522】魔力【290】

攻撃【464】防御【406】

敏捷【464】

固定ステータス

知力【95】魅力【91】

スキル

【身体強化☆5】【気配感知☆3】

【武術☆8】

—————————————


(まだまだ、ですね……あのジャイアントリザードを倒すには恐らくまだまだ足りないのでしょう……本当にアレを倒したのは何者なのでしょうか……。組織でもアレを倒せるのは幹部レベルの人でないといけないと思いますが……)


 まぁ鉢合わせなくてラッキーでした、と一先ず考えるのをやめた蓮香は、また寝ようとしている支部長を起こすべく指を鳴らし始めた。


(そう言えば……妹は今頃何をしているのでしょうか。その内会いに行きたいですね)

 

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