第6話 ヤバい奴、家に戻る(改)

「———終わったぞー」

「早っ!? もう終わったのか!?」

「うん。だって雑魚だけだったし」


 速攻で帰って来た俺を見て、父さんが驚きに目を見開く。

 そんな父さんに、雑魚モンスターを倒しただけで此処まで驚かれるとは思っていなかったので若干気まずくなる。


 ……今更レベル10程度のゴブリンとレベル20程度のオークに手こずるわけないやん。

 これでも10年間で戦ってたんだしさ。

 まぁどうせ言ったところでまだ信じて貰えないんだろうけど……。

  

 俺がそんなことを考えていると、クロが俺の頭の上に乗って鳴く。

 

「キュッ!!」

「そんなに急いで家帰る必要あるか? もう少しゆっくりしても……」

「キュ、キュッ!!」

「え……家にモンスター集まってるって?」


 クロから告げられる自宅の危機に、思わず聞き返してしまう。 

 そんな俺の言葉を聞いた絵梨が口を開く。


「……家がヤバいの?」

「ま、まぁ……相棒が言うにはそうらしい」

「なら家は捨てるよね?」

「「「それはない」」」

「ちょっ……何で3人共被るのよ……」


 若干引き気味の絵梨に、恐ろしい団結力の俺達が口々に理由を述べ始める。


「ろ、ローンが……」

「それに大事なモノだってあるし……」

「あと、ダンジョンあるし……」

「「「はあ?」」」

「え?」 


 や、やっぱり見逃してくれないですよね。


 つい先程までダンジョンの恐ろしさを体感していたせいか……皆んなに喧嘩腰で睨まれる。

 3人の恐ろしい眼光に怯む俺へと、怒涛の質問ラッシュが始まった。


「ねぇ、我が家にいつからダンジョンあったの!?」

「えっと……10年前くらい?」

「何処にあるんだ!?」

「俺の部屋」

「お兄ちゃん……まさか入って……」

「入ったから今こんなに強いんだよね」


 ……やべぇ、せめて家に帰るまで何も言わなきゃ良かったかもしれん。

 ねぇ、どうしよ相棒……。


 俺は涙目になりながら家族の追求から逃げるようにクロに助けを求めるも……頼みの綱であるクロにまでスッと目を逸らされてしまった。

 う、裏切りやがったなアイツ……。


 俺は恨みがましい視線をクロに送る。

 そんな俺の肩をガシッと父さん達が掴む。

 

「「維斗……?」」

「えっと……」

「「———詳しく聞かせて貰うからね?」」


 その目の笑っていない恐ろしい笑みを目視した俺は———死を覚悟した。









「…………」

「き、きゅぅ……」


 あれから父さん達に根掘り葉掘りダンジョンについて聞かれた俺は、クロが話し掛けても一切反応出来なくなる程に疲労感を漂わせて帰路に付いていた。

 そんな俺の姿を見た絵梨が一言呟く。


「……使い古された雑巾みたい」

「絵梨さん? 俺、これでも頑張って貴女を護った気がするんだけど……」

「う、嘘に決まってるじゃん。ただ……あまりにも反応がないから悪口言ってみただけ」

「……なぁ、クロ……おれってそんなにヤバかった?」

 

 俺は割と真剣にクロに尋ねてみるが……何故かポンポンと肩を叩かれて慰められた。

 つまり喧嘩かな?


 指を鳴らす俺がクロにこちょこちょをしようとした時、絵梨が恥ずかしそうに頬を赤く染めて言って来た。


「お、お兄ちゃん」

「ん? どうした?」

「あ、ありがと……そ、それだけ!」


 絵梨は感謝の言葉だけ伝えると、逃げるように前を歩く両親の下へ行ってしまう。

 そして取り残された俺はというと……。


「……え、まあ、全然良いけど……」


 イマイチ状況を理解出来ていなかった。

 寧ろ気味悪く感じていた。

 

 どうしたんだアイツ……と俺が絵梨に訝しげな視線を向けた瞬間、俺の気配感知に何かが引っ掛かる。


「———止まれ、敵だ」

「「「っ!?」」」


 俺の声にピタッと動きを止める絵梨達。

 彼女達の額からは緊張で一気に汗が噴き出していた。


 ……オークが5匹か……丁度いい。 

 ここは相棒に任せてみるとしよう。


 俺は家族を護衛するように立つと、クロに告げる。


「相棒、好きにやれ」

「キュッ!」


 クロは俺の言葉に嬉しそうに鳴くと、角を輝かせてオークの上空から雷を個体数分落とす。

 一瞬の光と共に轟音が辺りに響き渡り、オーク達は雷に触れると同時に灰となって風に飛ばされた。


「「「…………」」」

「おー、流石相棒……なんだけど、折角かっこいいんだし、消し飛ばしてしまったからって泣くのはやめよう?」

「きゅぅぅ……きゅぅぅ……」


 唖然とした表情でクロを見つめる絵梨達をよりも、俺は大好物のオークを完全に消滅させたことで泣き崩れるクロを宥めることに集中する。

 そんな俺とクロの姿に、絵梨が思わず真顔でツッコんできた。


「いや、反応おかしいから。何で倒したのに悲しんでるのよ」

「そりゃあ……クロの大好物だから」

「あぁ、クロってこんなに可愛いのにお肉食べるのね……」


 ショックを受けた様子の絵梨は……。


「……もう気にしないでおこう……」


 そう言って肩を落としていた。








 

 因みに、こんな呑気な会話の間、皆んなが無防備であるにも関わらず何も襲ってこないのは……。


「ギ、ギャ……」

「ギャギャ、ギャ」

「ブモォォ……」

「ブモブモォォォ……」


 維斗とクロという圧倒的強者から放たれる重圧に怯み、恐れているからである。


 普段は生活に支障をきたさぬよう意識して力を隠している維斗だが、今回は家族がいるので完全に開けっぴろげにしていた。

 勿論、気配に敏感なある程度のレベルのモンスターやそこそこの力を手にした維斗と同じ覚醒者であれば……その威圧感に気付くだろう。


 現に———維斗達の威圧感は数十キロ離れたオークやゴブリンとは比較にならない高レベルモンスターにも届いていた。











「ヴォォ……」


 街から離れた鬱蒼と茂る森の深奥部。

 周りはダンジョンブレイクによってダンジョンより解き放たれた植物系モンスターが取り囲み、その中央部に位置する地面から露出した巨大な岩石の上で佇む、全身に植物を生やした1匹の鹿型のモンスターが鳴いた。


 そのモンスターの名は———深緑の鹿王プラントディアキング


 体長こそ3メートル程度の大きさであるものの、現時点での人類では到底敵わないような強さを誇るモンスターである。

 そんなプラントディアキングでさえ、深緑の双眸を光らせて、遠くから感じる維斗達の威圧感に警戒心を露わにしていた。



 両者が鉢合わせする日が来るのか……それはまだ誰にも分からない———。



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