第5話 ヤバい奴、駆除する(改)

「———お兄ちゃん……?」

「お、やっと起きたか。おはよう、絵梨」


 まだ意識がハッキリしていないのか、未だ朧げな瞳で俺を見上げてくる絵梨。

 しかし、直ぐに大きく目を見開いて俺から離れて口を開いた。


「お、お兄ちゃん……!?」

「おう、お兄ちゃんだぞー」

「ど、どうしてここに……!?」


 貴女を助ける為だよ。

 

 俺はそう言おうとして……やめた。

 混乱したいるみたいだし、少しそっとしておこう。


 因みに、絵梨は身内の贔屓目で見ても美人だ。

 だからなのか、突然頭を抱え始める姿さえも絵になるらしい。


 う、羨ましい……!


 もっとイケメンだったら……と絵梨に羨望の眼差しを向ける俺に、呆れた様子のクロがペシペシ頭を叩いて来る。


「キュッ、キュッ!」

「痛っ!? べ、別にイケメンに生まれたかったって羨むくらい良くない?」

「キュッ!」

「ダメなんだ……」

「ねぇ、維斗……その子はなんなの?」


 母さんが、俺と戯れるクロの姿に視線を固定させて恐る恐る尋ねる。

 俺とクロは話をやめて、お互いに目を見合わせる。


 そう言えば相棒を紹介したことなかったなぁ……何度か相棒が脱走してバレそうにはなったけどな……。

 あの時はクソ大変だったなぁ……。


 俺は、過去の相棒のやらかしを思い出して渋い顔になる。

 同時に、クロは自身の過去のやらかしを思い出したのか、そっと俺の肩から降りて離れようとした。

 しかし俺はすかさず『むんずっ』という擬音が付きそうな感じで首根っこを掴んでクロを持ち上げ、鋭い眼光を向けた、


「逃がさねぇよ、相棒?」

「……きゅぅ……」

「えっと……」

「あ、コイツはクロ。俺の相棒でめちゃくちゃ強いぞ。魔法ならお任せ!」

「キュッ!」


 俺が『ジャジャーン!』と言わんばかりにクロを掲げると……クロに視線を固定させた絵梨が突然俺の腕をガシッと掴む。


「お兄ちゃん……」

「な、何だ?」


 え、絵梨の奴……何でそんな真剣な顔してんの? 

 てか腕を掴む力強いよ……。


 俺が若干怯えていると———。



「———か、可愛い……!!」

「…………え?」



 何だって?


 目をキラキラと輝かせてクロを見つめる絵梨が言った。

 そんな絵梨の予想外の反応に、俺は困惑を極め、クロは身体を震わせて絵梨から必死に距離を取ろうとする。


 しかし、そんなクロよりも速く絵梨は既にクロの身体を抱っこしていた。


 は、速い……!? 

 レベルアップ前でこの速度だと……!?

 

 クロを強奪された俺は、驚愕に目を見開いて、何度も自分の掌とクロを抱っこして頬を擦り付ける絵梨を見比べる。

 そして可愛いもののためなら人間を超越出来るらしい妹の絵梨に、軽く恐れを抱くのだった。









「———じゃあ少し待っててくれ。とりまここら辺の奴ら倒してくるわ。クロは俺の家族を頼んだぞ」

「キュッ!」

「ほ、本当に大丈夫なのか……維斗? お前がわざわざ危ないことなんてしなくていいんだぞ? こう言うのは警察とか自衛隊に任せれば……」


 軽い準備体操を行う俺の背に、俺の身を案じる誠治の声が掛けられる。

 ただ……。


「警察とか自衛隊じゃ歯が立たないと思うぞ、多分。歯が立つならもうモンスターは街に居ないはずだしな」

「それは、そうだが……」


 実際に、既にダンジョンブレイクと呼ばれる現象が起きてから8時間程経過しているが、未だにモンスターは街で大暴れしている。

 しかし、一向に駆逐された様子は見当たらない。


「……くそッ……ごめん、維斗……」


 父さんは血が出るほどに唇を噛み、ギュッと強く拳を握っていた。

 俺はそんな父さんに、へらりと気の抜けた笑みを浮かべる。


「大丈夫だって父さん。どうせこの街にいるモンスター程度なら寝ててもやられないし。それに後で父さん達もプレイヤーになって貰うからな」

「……ああ」

「維斗、絶対に無茶しちゃだめよ?」


 母さんが心配そうに忠告して来るので、俺は小さく頷いた。


「分かってるって。んじゃ絵梨、クロから離れんなよ」

「……ちゃっちゃっと倒して戻ってきてね、お兄ちゃん」


 ……流石俺の妹、可愛いじゃん、


 クロを胸に抱いた恥ずかしそうに目を逸らしながら言う絵梨。

 俺はそんな絵梨に親指を立てて断言する。


「2分以内に戻ってくるわ。それじゃ———」


 俺は敬礼しながら軽く地面を蹴り、一瞬にして家族から離れると……【気配感知】を使用して近くのモンスターを探す。


「えっと……ゴブリン57体に……オークが32体……で終わりか? なら何でさっきジャイアントリザード居たんだ?」


 アイツら別ダンジョンのモンスターってシステムが言ってた気がするんだけど……。

 ま、取り敢えず今はどうでもいいか。


 俺は考えるのをやめ、緩んでいた意識を戦闘モードに切り替える。

 すると、殺気が漏れたのか、モンスターが此方を向いた。


「「「「「ギャギャギャ!!」」」」」

「「「ブピーッッ!!」」」


 ゴブリン5体とオーク3体か……よし。


 俺は向かってくるモンスターを見据える。 そしてまるで散歩でもするかのように軽く一歩を踏み出し———。



「———8体撃破」



 刹那の間に拳で沈めた。


 俺の拳を食らったモンスター達は跡形もなく消し飛び、血飛沫さえ上がらない。

 まるで初めからその場所に居なかったと錯覚してしまうほどに何も残っていなかった。

 

「さて、次々行くぞ———!!」


 俺は、もはや殴ったモンスターには目もくれることなく新たなモンスターをこの世から抹殺していく。


 そして———。



「ふぅ……31秒か。めっちゃ加減したとはいえ、遅ぇな……」



 2分以内という絵梨との約束を大きく上回る30秒という規格外の秒数で———俺は無事全89匹のモンスターを倒し切ったのだった。


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 何か皆んなのお陰で伸び良いので、11話まで1日2話投稿にします。


 面白い、続きが気になるなどと思って下さった方は、是非とも☆☆☆やフォロー宜しくお願いします!

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