第4話 頼れる兄(最初絵梨side)(改)

 私———赤崎あかさき絵梨えりは、控えめに言ってお兄ちゃん大好きっ子だ。

 ただ、非常に残念なことに、現在反抗期中で中々素直になれず、あまりお兄ちゃんと話せてはいないけれど。


 でも、今でもお兄ちゃんが大好きなのは変わらない。

 学校の友達には『え……何でそんなに兄貴のこと好きなの? 普通にウザくない?』と気味がられたこともある。

 確かにウザい時もあるにはあるけど……それでもお兄ちゃんが大好きだ。


 私とお兄ちゃんは歳が2歳しか離れていないけれど、何故かそれ以上に歳が離れているように感じる時が多々ある。

 何かこう……歳の割に冷静なのだ。


 例えば、真夜中のお祭りで私が家族とはぐれてしまった時は、私を1番に見つけてくれて『もう大丈夫。父さんと母さんの所に戻ろうか』と優しく声を掛けて私を安心させてくれようとしてくれた。


 また、私とお兄ちゃんで川の河川敷で遊んでいた時、良く知らない中校生のヤンキーに絡まれたことがあった。

 私はあまりの身長差とか威圧感で恐ろしくて泣くことしか出来なかったが、お兄ちゃんは一切泣くことは愚か、怖がる様子すら見せず———中校生をまるでこちらの方が上だとばかりに手玉に取っていたのだ。

 結局私もお兄ちゃんも何もされることなく家に帰ることが出来た。


 私が何事もなくここまで大きくなれたのは、勿論お父さんとお母さんのお陰でもあるが、お兄ちゃんの影響が1番大きい。


 そんな———私の大切で大好きなお兄ちゃん。



「ギャギャギャ!!」

「や、やめて……!! 絵梨だけは……」

「ウチの子に手を出そうなんざ、絶対に許さんぞ……この醜い化け物め!!」



 ———今も、家で寝てるのかなぁ……。


 でもお兄ちゃん寝るの大好きだから、きっと新年の今日も爆睡してるんだろうな。


 あぁ……もう一度会いたかったなぁ。

 昔みたいに仲良く話したかったなぁ。


 世界が色褪せ、ゆっくりと……ゆっくりと視界が移り行く。


 ああ……何で……何で諦めてるのに……諦めてるのに……何で思うんだろう……?



「助けて———お兄ちゃん……」



 こんな身勝手な願い———




「———俺の家族に何手ェ出してんだコラァァァ!!」




 あぁ……やっぱりお兄ちゃんは私のお兄ちゃんなんだぁ……。


 諦めかけていた私の目の前に———大好きなお兄ちゃんが現れた。

 今までに見たことないくらいの怒りの形相で目の前の緑色の化け物をぶん殴っている。

 そして……私の方を向くと、いつも通りの親愛の瞳で優しく私を見つめている。


「———すまん、遅くなった。でも、もう大丈夫だ」


 その言葉が、その安心感が……私の心に響いて心を落ち着かせる。

 世界が、色を取り戻す。


 ああ、本当に……本当に昔から……。

 お兄ちゃんは……私の自慢のお兄ちゃんはどうして……。



 ……こんなにも、頼りになるのかなぁ。



 私は『大丈夫か、絵梨!?』という、この世で1番頼りになるお兄ちゃんの声を聞きながら……張り詰めていた意識を手放した。









「———絵梨……」


 俺は、自身の腕の中で目を閉じて規則正しい呼吸を繰り返す妹の絵梨をぎゅっと抱き締める。


 良かった……何とか間に合った……。

 一応絵梨には物理攻撃無効のアイテムを渡してたけど……そのこと完全に忘れてたわ。


 俺は皆んなが無事だったことで、安堵から大きく溜息を吐く。

 横では、俺の父さん、誠治せいじと母さんの由美ゆみが、一瞬でこの世から消え去ったゴブリンの行方を探して辺りをキョロキョロと見回していた。


「あの緑の生き物がいないわね……」

「いや、2人とも何してんの? もうゴブリンはこの世にいないぞ?」

「……嘘だろ? も、もしかしてあの緑色の奴……維斗が倒したのか!?」

「まぁ……そうだけど」

「凄いじゃない! いつの間にそんなに強くなったの!?」


 そう興味深そうに身体をペタペタ触りながら褒める父さんと母さんは、正しく普段の俺なら速攻引き剥がしていたであろう面倒臭めんどくささだった。


 それにしても、こんな雑魚を倒した程度で驚かれるとは……。

 人生初めての経験だなぁ。

 何かこう……全身がめっちゃむず痒いんだけど!


 今までダンジョンはクロとしか攻略していなかったので、誰かに驚かれると言う経験が初めてだった。

 俺は今まで感じたことのないむず痒い幸福感と優越感に身を震わせる。


「ま、まぁこの程度なら余裕だぜ!」

「「おおー!!」」


 や、やめて2人とも……俺が調子に乗っちゃうから。

 

「ところで……ばあちゃんじいちゃんは?」


 俺は先程から一向に姿の見えない祖父母の行方を……半ば分かっていながら、それでも一縷の望みに賭けて両親に尋ねる。

 しかし……父さんが俺の望みを打ち砕くようにゆっくり首を横に振った。


「……ダメだった。家の倒壊に巻き込まれたんだ……」

「……そうか」


 俺は火事による真っ黒な煙によって曇って色褪せた空を見上げながら小さく息を吐く。

 勿論気配感知を発動させた時点で祖父母の気配がないことは知っていた。

 俺は、その事実から目を背けていた。


 ……あぁ、何か寝坊した俺が馬鹿みたいだなぁ……。

 俺にはじいちゃんとばあちゃんが望み通り一緒に死ねたことを願うしかないとか酷すぎるだろ……。


 生前祖父母が『死ぬ時は一緒に死にたい』と豪語していたのを思い出して、倒壊した祖父母の家を見つめる。

 気配は……何も感じられなかった。


「……まぁ、寧ろ2人はこの方が幸せ、か。こんな地獄を味わうくらいなら……」


 勿論俺は生きていて欲しかったけど、2人ともどれだけステータスが上がっても老化には勝てないし……。

 寧ろ90過ぎた2人の身体だと、肉体の成長に身体が持たない可能性まであるんだよな。

 そもそも2人にモンスターと戦わせたくないしな。


 そんな言い訳をする俺の頭を、肩に乗っていたクロが慰めるようにポンポンと撫でてきた。


「きゅっ、きゅっ!」

「……なぁ、相棒。突然身近な人を亡くすのって、辛いな……」

「きゅぅ」


 クロに慰められた俺はギュッと力強く拳を握り……。



 もう絶対に、これ以上は失わん……。



 そう、固く誓った。


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