第3話 ヤバい奴、家族を助けに行く(改)
「…………なぁ、相棒———俺の服どこにあるっけ!? ヤバい、全然見つからないんだけど!」
世界がダンジョン化し、数多の人間が混乱を極め、逃げ惑っている最中———俺はクローゼットの中に顔を突っ込んでは、相棒のクロに泣きついていた。
対するクロは仕方がないと言わんばかりに人間のようにため息を吐き、ピョンとベットから飛び降りると……俺が探していた場所とは真反対のクローゼットを『ポンッ』と可愛らしい前足で2、3回叩く。
「きゅっ」
「え、そこには絶対に無いはず———ありがとう、相棒!!」
「きゅっ、きゅっ!」
「分かってるよ。早く家族も助けに行かないといけないしな」
俺は急かすようにピョンピョンとジャンプするクロを宥めるように頭を撫でる。
始めこそ鬱陶しそうに前足で抵抗していたものの、直ぐに抵抗をやめてなされるがままに撫でられ始めた。
あー……相変わらずウチのクロは可愛いなぁ……よし、癒しの供給も準備も終わったし最終チェックするか。
俺は目立たないように上下普通のシャツとズボンのような見た目に変化させた戦闘服を着込み、今度は至って普通のランニングシューズを履く。
そしてつい1ヶ月前に10年の年月を掛けてクリアした、部屋のダンジョンのクリア報酬である『亜空間収納リュックサック』を背負った後で———小さく呟く。
「———【簡易ステータス展開】」
その言葉と同時に、目の前に俺とその相棒であるクロにしか見えない半透明のボードが現れた。
—————————————
Level【18,500】
Level【17,900】
—————————————
ふむ、ステータスに変化は無し、と……。
クロも前と同じか……相変わらず物凄い大層な名前だな。
てか未だにクロの名前の横にある『?』の正体を誰か教えてくれ。
俺は内心ツッコミながらは確認すると、直様ステータスを閉じて窓に手を掛ける。
同時にクロが肩に飛び乗ってきた。
「きゅっ、きゅっ!」
「おい、俺の肩に乗っておいて『さぁ早く行け!』とは何だよ。いやまぁ行くけどさ」
全く人使いが荒いんだから……。
俺は肩に乗ったクロと共に2階の窓から飛び降りた。
「———うわぁ……ホントに酷いなこりゃ」
「きゅぅ……」
家族の下に向かい始めてから30分。
オークとジャイアントリザードを倒した俺とクロは、母方の祖父母が暮らす都市部から20キロ程離れた街の倒壊具合を見て思わず漏らす。
俺達の暮らす都市部より若干マシとは言えど、電柱は至る所で破壊され、破壊された電線から電気が漏れて家に着火し、広い範囲で火事が起こっていた。
更には既に街に辿り着いたモンスター達が近隣住民や車を襲っている。
正しく地獄絵図であった。
そんな光景を見ながら……俺は呻いた。
「……悪いな。俺は神じゃない。赤の他人を助けるより家族を優先させて貰うぞ……」
きっと今の俺は苦虫を噛み潰したような表情をしてるだらろうな……。
「きゅぅ……」
「あぁ、これは本格的に不味そうだな。アイテムがあるとは言え……無事だと確信はないしな」
俺は極力モンスターに出会わないようにスキルの1つである【気配感知】を使用して即座にモンスターの位置を把握しながら走る。
今の俺なら2キロくらいなら詳細な気配を感知出来る……はず。
おそらく後少しで家族の気配も———。
俺がそう考えていた時だった。
気配感知の範囲ギリギリに、遂に祖父母の家が入る
同時に頭の中に祖父母の家にいる気配が入って来た。
「———見つけた」
俺はひび割れて足場の悪いアスファルトの地面を諸共せず、人間離れした超スピードで家族の下へ向かう。
しかし———一直線で家族の下へ向かうがあまり、邪魔するように目の前に10体ものゴブリンが現れた。
———ゴブリン。
俺のダンジョンにも現れたこのモンスターは、人間の小学生高学年程度の身長の身体を覆う緑の肌に腰に巻かれた布、手には原始的な棍棒や鉄剣が握られている———高くてもレベル10程度の雑魚モンスター。
しかし、雑魚といえど決して普通の人間が勝てる強さと言うわけではない。
格闘技世界チャンピオンやプロなら対抗出来るだろうが、少し身体を鍛えただけの素人ではとてもじゃないが歯が立たない。
俺達も昔は随分と苦労させられたよな……死にはしないけど普通に攻撃は痛かったし、
しかし———それは10年前の話。
今はというと———。
「———邪魔……するなッ!」
俺が無造作に腕を振り下ろした際に発生する風圧によって、10体ものゴブリンは一瞬にして吹き飛ばされ……倒壊した家に突き刺さったり、地面に叩き潰されたりと、もはや抵抗などする間もなく絶命する。
因みに俺が振り下ろした腕が直撃したゴブリンは、刹那の内にパワーに耐えきれず跡形もなく消滅した。
「きゅぅ……」
「おいおいそんな残念がるなよ。そもそもゴブリンはマズいから絶対食っちゃダメ!」
「きゅっきゅぅ……」
物欲しそうにゴブリンの死体を眺めていたクロに俺は注意する。
クロは物凄く不服そうだが。
それから僅か十数秒。
遂に俺とクロは家族の下に辿り着いた。
「ギャギャギャ!!」
「や、やめて……!! 絵梨だけは……」
「ウチの子に手を出そうなんざ、絶対に許さんぞ……この醜い化け物め!!」
家が倒壊し、家族が丁度ゴブリンに襲われている最中に———。
更に、俺の耳に1つの声が届く。
「助けて———お兄ちゃん……」
———俺の中の何かが爆発した。
思いっ切り地面を踏み込むと、アスファルトが30センチ以上陥没するのに目もくれず———。
「———俺の家族に何手ェ出してんだコラァァァ!!」
———一瞬にしてゴブリンの目の前に移動し、ゴブリンの顔面に拳を突き刺した。
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