第2話 ヤバい奴の起床(改)
———10年前。
「———なんだろう、これ……」
黒髪黒目のthe日本人と言った顔立ちの1人の子供———
日本のとある普通の一軒屋。
維斗は今日も、両親に用意して貰った子供部屋で1人遊んでいた。
しかし突然———彼の目の前に直径70センチ程の丸い穴が空いた。
突然のことで目を丸くする維斗だったが、色々なモノに興味を持つ多感な時期であったため……。
「えいやっ!」
何のためらいもなく、ぽっかり空いた穴に飛び込んだ。
《———世界初のβ版ダンジョンへの入場を確認しました。β版ダンジョンテストプレイヤーが決定。プレイヤー赤崎維斗の能力を測定……完了。最適化を開始……完了。これよりβ版ダンジョンをプレイヤー赤崎維斗専用ダンジョンに変化。これより世界のダンジョンを一時的に閉鎖……完了。これよりプレイヤー赤崎維斗の意識を目覚めさせます》
「……ん……」
維斗は眩しいと言う感覚で目が覚める。
目を擦りながら身体を起こせば———。
「うわぁ……すごいっ!!」
見渡す限り一面の草原に、晴れ渡った青い空が広がっていた。
維斗は直ぐに目の前に広がる広大な草原に心奪われる。
(穴に入ったのにお空がある! それに風もお日様もある! ドラ◯もんのひみつどうぐみたい!)
維斗は目を輝かせ、背の低い草や花に覆われた草原を快晴の中、楽しそうに駆け回る。
体力の有り余る子供の維斗にとってこの広い草原はまさに夢のような場所であった。
しかし途中で暑くなり、長袖の上着を脱いでは小首を傾げた。
「……何でお外は冬なのに穴の中はあったかいんだろう?」
一瞬そんなことを思う維斗であったが、クローバーを見つけて直ぐに意識が移る。
そこには、今まで見たことのない程大量のクローバーが生えていた。
「すごい、すごい……! こんなにたくさんクローバーあるなんて! あ、四つ葉のクローバーあるかな?」
維斗が、四つ葉のクローバーを見つけ、後で両親に自慢しようと奮闘していると……。
「———キュッ」
「…………うさぎさん……?」
維斗の後ろに、額に生えている3センチ程の角に青い亀裂の入った体長約30センチの黒い兎が現れた。
兎は維斗を見て小さく首を傾げる。
維斗も兎と同じように首を傾げ……あ、と何かを思い付いた様に言った。
「僕とおともだちになりたいの!?」
「……キュッ」
おいで、と維斗が腕を広げると……兎は一瞬躊躇ったのち、ゆっくりと維斗に近付く。
あまりの可愛さに維斗は兎を抱き締め、兎も一瞬身体が強張らせるが、維斗に危害を加える意志がないと分かると特に抵抗することなくそれを受け入れた。
そんな兎に、維斗が笑顔を溢れさせる。
「か、かわいいなぁ……僕は維斗だよ! きみの名前は?」
「……キュ?」
維斗が尋ねるも、兎は再び小首を傾げるだけで何も言わない。
「お名前ないの?」
「キュゥ?」
「うーん……兎さんは話せないよね……じゃあ僕が勝手に付けちゃおっとっ!」
そう言ってうんうんと唸りながらも楽しそうに兎に付ける名前を考える維斗。
そんな維斗を見ながら、不思議そうに首を傾げる兎だったが……突然立ち上がった維斗に驚いて地面に倒れる。
「———決めた! 今日からうさぎさんの名前は『ツノ助』だ!」
「…………きゅー」
「あれ? 嫌だった? たくさん考えたんだけどなぁ……」
あまりの絶望的な維斗のネーミングセンスには、兎ですら呆れ返っていた。
それにへそを曲げた維斗は、頬を膨らませて言った。
「ならもう『クロ』でいい? 真っ黒だし」
「きゅっ!」
「えー……あれだけ考えた名前より今の方が良いんだ……」
これが、維斗が初めてダンジョンに入った時の出来事であり、のちに維斗の相棒となる兎———クロとの出会いであった。
「———きゅっ!!」
「ぐほっ!? ま、毎回その起こし方だけはやめてって言ってるじゃん……! 腹痛ぇぇぇぇ……!!」
時は戻って現在。
16歳となった俺は、新年早々、相棒の角がある黒い兎———クロに腹の上でジャンプされて目を覚ます。
何年もやられているが未だに慣れない。
俺はあまりの苦しさにお腹を押さえてベッドの上で転がり回っていた。
ぐぉぉぉぉ……痛ぇ……!
てか何か懐かしい夢を見た気がしたんだけど完全に今の腹の痛みで忘れたわ……。
痛みにのたうち回っていると……俺はベッドの脇にある時計を見てピタリ止まる。
そこには、午前7時を表示したデジタル時計が置いてあった。
……え、まだ7時じゃん。
何で起こされたんだ俺?
今日は12時までは絶対起こすなって言ってたよね?
そんな意図を込めて攻める様な視線を相棒に向けてみるが……クロのただならぬ焦り具合にふと違和感を覚える。
「どうしたんだよ、相棒?」
「きゅっ、きゅっ!」
「お、おい何してんだ? 突然カーテンなんか開け……て…………ゑ?」
突然ベッドの横にあるカーテンを器用に開け放って窓を開けたクロ。
俺はクロの意味不明な行動に首を傾げながら扉を閉じようとして———見えた外の状態に思わず目を点にした。
———街の至る所から火が上がり、人々の悲鳴や車のクラクションの音が鳴り響いていた。
とんでもない大惨事に、俺は頭をぽりぽりとかいて虚空に呼び掛ける。
「……えっと……システム?」
《———7時間前、世界のダンジョン化が開始されました。プレイヤー赤崎維斗は意識が無かったため、意図的に報告が為されませんでした。現在世界の20ヵ所でダンジョンブレイクが発生しています》
「は、はぁ……」
なるほどなるほど……。
つまり———前からシステムが言ってた、世界中で俺の部屋のアレみたいな状況が始まったわけだ。
俺はベッドの設置された反対側の壁にぽっかりと開いた中の見えない穴を見て即座に現状を把握し———。
「———だ、ダルすぎる……何でよりにもよって新年早々の今日なんだよ……!?」
大きなため息を吐いたのだった。
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