第2話 久しぶりの家

「たっでぇーまーっ!」

 汗臭い男のたくましい腕に抱かれ吾輩は久しぶりに家に入った。


 前の家は一軒家で、今回はそうでもなくて階段でもないがかなり高いところに家があるようだ。


「おかえ……りな……」

 目の前に美しい女性が現れた。

 ……この荒くれのおっさんの帰ってきた家にいるこの美女は……。


「猫、拾ってきた。先にこいつ洗ったるわ」

 洗う?! ……あ、ありがたい。ちょうど痒くて臭くてな。


「……ね、猫……っ。ちょっと管理人さんに言わないと。ま、まぁ……でも確かにだいぶ汚れているわね」


 ああ、そんな美しい手でこんな汚くなった吾輩を触っても大丈夫なのか?


「お隣さんに事情を話してキャットフードもらってくるわ」

「おう、頼んだ!」


 ……キャットフード!!!


 その言葉に吾輩は迂闊にも涎が垂れてしまったぞ。


 それよりもあの美女は……!!


 と言ってるうちにおっさんに風呂場に連れて行かれるのであった。


 ああ、あの美女と風呂に入りたい。いや、吾輩は入ったことがない。


 はー、なんでおっさんの生着替えを見なくては行けないのだ。


 前の家では美容院に月に数回シャンプーをしてくれたり家でもブラッシングとか、軽くシャンプーとか……


 わわわ!!


 いきなり吾輩は暖かい濡れたタオルで包まれた。

「綺麗にしたるで!」


 おっさんは全裸。筋肉質で傷にあざだらけ。喧嘩でもしたか?


 ああ、それよりも温かい……気持ちい。優しく触れてくれるのがありがたいぞ。


 こやつは猫の扱いがわかっておる。猫を飼ってたのか?

 あ、子供がいるのかもしれん。

 だから扱いも優しいのか。見た目じゃわからん。


 おっさんは首元を触ってくる。おお、そこはさらに気持ち良い。

「首周りの毛が癖ついているから……首輪してたんか?」


 ……ああ。


「よしよし、あとは目の周りも拭いてやるからな」

 にしてもおっさん、全裸で洗ってくれてるけど……そうか。


 この風呂場やけに暖かい。暖房が風呂場にもあるのか?! 暖かい風があの通気口からきとるぞ!

 それに前の家よりも風呂場も綺麗だし。


「あなたー」

 あ、さっきの美女の声! そして引き戸が開く。美女も入ってくるのか?!


 ドキドキ


「おい、乾いたタオル用意してくれ」

「はぁい」

 なんだ、違ったか。


 でもこの美女、おっさんの裸を見てもなんとも思わないぞ。


 ……まさか。


三葉みつは、こいつ捨てられた飼い猫だぞ」

「あら……可哀想に」

 とおっさんからタオルを持った美女に吾輩は受け渡された。


 残念ながら服は着ていたが、良い匂いがする。彼女から。


「そうかー、猫ちゃん……飼い猫だったのね。だから人に触られても抵抗ないのか」

 優しく彼女もタオルで拭いてくれる。


 ああ、ずっと吾輩は人間に世話されておった。


 でも最後は捨てられたんだが……ぬぁあーっ。美女……三葉どのが吾輩をむぎゅむぎゅと拭いていく!!!!


「ふふふ、綺麗になったね」

 ああ、なんで美しい……。


「先にお部屋に行こうね。猫ちゃん」

 彼女も猫の扱いには慣れているのか? 優しく抱きしめてくれた。


「あーそいつ、スケキヨな」

 風呂場からおっさんの声が聞こえた。


「スケキヨ……まぁ、確かに白い体に目の周りが黒い。金田一耕助の映画に出てくるスケキヨそっくりね、ふふふ」

 ……やっぱり吾輩はスケキヨらしい。

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