第15話 洞窟と賊と魔物

 ―― あらすじ ――


 任務で都市の外へお出かけです


 ―――――――――


 装甲車に乗って森の中を移動し、目的地付近に到着した俺達は装備を整えると賊のいる洞窟へと移動を始める。

 賊の中には脱走兵もおり、レーダーの類を所有している可能性があり俺達の接近はすでに相手にバレているはずなのだが…特に動きは見られなかった。


「動きがありませんね…」

「故障か、逃げられないと踏んで迎撃の準備をしているか…おそらく後者かな」

「あの…レーダーをごまかすような装置とかってないんですか?」

「戦争期には研究されていた記録があった…けど、全て中途半端に終わっているようだけどね。それに技術の進歩やそういった技術が必要とされていないこともあってレーダーに対抗する術は存在しないんだ」

「そろそろ訓練生への講義は終わりにしろ。目的地の洞窟だ」


 目的地の洞窟は入り口から広く大型の輸送車が余裕をもって侵入できそうなくらいだ。

 目的地に到着した掃討部隊は…事前に洞窟入り口の周囲を囲むように展開した騎士に合図を送ると同時に、徒士が入り口の見張りを無力化した。


「内部に連絡された様子はありません」

「装備が貧弱…というよりもまともに整備されてないようだな」

「おそらくですが整備用の部品などを自作しているのでしょう…ところどころ雑な作りの部品が使われています」

「洞窟内部のスキャンが終了しました。人質は無し。賊と思わしき者達は通路上に罠が仕掛けもっとも広い部屋に陣取ったようです。賊がいる部屋の奥には逃走経路のようなものもあり通路を崩落させ塞いだ後に逃げるつもりのようです」

「その逃走経路の先はどこに繋がっているかわかるか?」

「はい、ここから南へ数十キロの森の奥地にあるようです」


 この洞窟は森の奥地に繋がっていたのか…前世で来た時には気付かなかったな。

 その後も賊について得られた情報が報告されていくものの…装備は貧弱で中型兵装もあるようだが…入り口にいた見張りの装備を見る限りまともに整備されていることはないだろうな。

 情報が出揃った辺りで指揮官による任務の変更が伝えられる。


「騎士の半数を逃走経路上に配置、魔法兵装を使い地上より逃走用の通路を塞げ。残りは変わりなく入り口より進行する」


 座標指定型の魔法兵装を使うことになったようだな。

 これは武器ではなく崩れそうな壁の補強などを行うための補助をするための装備で直接的な攻撃ができないものだが…逃走の妨害には最適だろう。

 …あぁ、これであの時に通路が見つからなかったのか。


 その後、移動した騎士によって通路が塞がれるのと同時に洞窟内部へと突入する。

 騎士の一部が移動を始めたことに気づいた賊はあわてて逃走を始めたようだが…正しく整備された騎士の兵装に機動力で敵うはずもなく通路先を塞がれて袋のネズミとなった。

 おかげで急ぐ必要もない為、慎重に罠を解除しつつ進行し安全に進行することができた。


「一応、警告をしてくれ」

「了解しました」


 賊を追い詰めた時に無駄な戦闘をしなくてすむようにと警告を出される。

 まぁ滅多に投降することなんて無いが…無い訳じゃないので一応な。


「返答ありません」

「そうか…予定通り非致死性の装備で無力化し捕縛する。だが、相手がいくら貧弱な装備だからといって油断するなよ。場合によっては殺害も許可する、被害を出さずに迅速に行え」

「了解。通達!予定通り行動開始せよ!」


 非致死性なのは賊も資源といて見られている為にできる限り生け捕りにしたいからだ。

 賊は捕まえた時に隷属の魔法の込められた装置を身体に埋め込まれ、都市で役割を振り分けられる。

 大体は騎士団の備品扱いになり都市の外で簡単な作業を手伝わされるが…騎士団員に守られてはいるものの魔物の襲撃などを受けた際に死亡することが非常に多い。

 都市に住む者であればほとんどが知っていることなのだが…定期的に現れる不思議な存在だ。


 警告に応じなかったため戦いになったのだが…一方的だった。

 相手には中型兵装を使う者もいたのだが…生身の徒士を相手に一対一であっさりと停止させられていた。

 本来であれば装甲は硬く動きも早いので生身では複数人で対応しなければいけない危険な兵器なのだが…賊の使っていた物は装甲は歪みや欠けで隙間があり、動きも鈍かったため隙間から内部機構を攻撃されて停止させられていた。


「僕達は何もしなくていいのでしょうか?」

「お前たちは今回が初任務で、しかも相手は人間だからな。見て感じてそれを経験とするのが役割みたいなものだから気にするな」

「そうそう、訓練生の初めての任務は慣れるためのものだからな。気になるならしっかり見て、次に動けるように生かせばいいんだ」

「はい、ありがとうございます!」


 トトキが俺達を守る為、近くに待機していた魔装士の先輩に質問をすると気にするなという答えが返ってくる。

 訓練の時からわかっていたがみんな優しいんだよな…厳しい訓練の中で角が取れたりしているのだろうか?

 そんなくだらないことを考えていると賊の捕縛が終わり檻に入れられ、騎士たちが兵装を使い運搬を始める。

 俺達もその後に続き洞窟から出ると入り口まで装甲車が移動してあり、騎士達により檻が後部に繋がれる。


 賊が抱え込んでいた物資の回収も終わり、あとは都市に帰るだけ…という状況になったのだが、どうにも周囲の様子がおかしい。

 周りを見ると他の騎士達も気づいていており武器に手を置き周囲を見渡すように警戒をしていたり、装備を使い周囲をチェックしていた。


「報告!大量の魔物に包囲されており、徐々に接近してきています!」

「くっ…嗅ぎ付けられたか。…総員戦闘態勢!我々は魔物の群に包囲されており逃走は困難!故に迎え撃つ!」

「「了解!」」


 これが戦争が行われなくなった理由。

 これが戦争を行った都市が消える原因。

 争いが起きると少量ながら負の力が生まれる…正確には至る所にある無色の力に負の方向性が付与されて負の力に変化する。

 その負の力を欲しているのか原因を排除しようとしているのか…理由は分らないが魔物が大量に集まる時があり…今回はそれが発生してしまったようだ。


「せめてもの救いは負傷者がいないことと、後ろが崖で入り口がここしかない洞窟だという事か…」


 全方位から襲われるよりはマシ…というだけの話だがな…。


「装甲車は賊ごと洞窟奥へ移動させろ!兵装は入り口を固めておけ!訓練生は…」

「魔物相手であれば問題ありません!俺達も参加させてください!」

「指揮官!群の規模は非常に大きく、一人でも多く戦える者が必要です!」

「…仕方あるまいか。無理はするな」

「「了解!」」


 応援の要請は送られているようだが…都市からはそれなりに距離がある上に、ここは森の中だ…到着には時間がかかるだろうな。

 洞窟の入り口を塞いで内部に籠る…のも無理だろうな…すでにこちらは認識されている為、塞いだところを破壊されて雪崩れ込んでくるだろう。


 こういった状況は前世で何度も経験済みだ。

 …まぁだからと言って修羅場なことに変わりないが…やらなきゃいけない事がまだまだ多いんだ、こんなところで死んでやるものか。

 それから少し経ち、迎え撃つ体制を整え武器を構えた俺達の前に魔物達が草木をかき分けて姿を現した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る