第14話 都市の外へ

 ―― あらすじ ――


 正規の騎士に混じって訓練することになりました


 ―――――――――


 騎士に混じっての訓練を始めてから数日経ち、少し慣れ始めた頃に唐突に知らせが来た。


「さて…先日に都市の外を巡回していた部隊が賊の痕跡を発見したようです」

「はい、報告によると場所は都市の南にある森の浅い部分。南南西方面にある崖に開いた洞窟を根城にしているそうです」


 マリエスタ隊長の一言の後、続けて補佐が詳細を報告する。

 南南西にある洞窟か…前世では今より数年後くらいに正規の騎士としてあの洞窟に魔物の掃討で行ったんだったか?

 中型の魔物が複数いたくらいだったはずだが、あの魔物たちが住み着く前は賊が利用していたのか。

 たしか賊の装備の残骸などは落ちていなかった…つまり今回のように騎士団が任務で賊を処理したのだろうな。


「というわけで危険性は低いと判断され、我々を含めた三部隊が向かうことになりました。訓練生の二人は初の任務で人間相手となってしまいましたが、騎士団ではよくあることなのです。すぐに慣れろとは言いませんが…いずれは慣れてもらうことになりますので気を引き締めておいてくださいね」


 初の任務が人間相手なのはついてないな。

 トトキは初めて魔物を狩って命を奪った時にはだいぶ気落ちした様子だった。

 人間を相手に戦って命を奪うこともあったが、その頃には魔物相手ではあるが命のやり取りにはだいぶ慣れてきていた…それでもかなり堪えていた様だったな。


「トトキ、いけそうか?」

「リフは平気?」

「俺はシミュレーターを使って訓練をしてたからな」

「そっか…。誘ってくれればよかったのに」

「ごめん…」


 嘘である。学校ではいつも一緒にいたのだ、俺が一人で訓練するタイミングは無かった。

 実際は前世で人間相手に何度も戦っただけだし、魔物に生きたまま喰われる人間も散々に見てきた。

 少し気が沈んだ様子のトトキを連れて寮の部屋に戻り、少し会話をしてから早めに寝ることにした。


 翌朝、トトキは少し持ち直したようだったので共に朝の支度を済ませてから朝の鍛錬をする為に訓練場へと向かう。

 訓練場にはすでに数人の騎士がいて、俺達が近づくと励ましの声をかけてくれた。


「少しは気分がマシになったか?」

「うん。リフに…みんなに声をかけてもらって覚悟が少しだけできた…気がする」

「全く覚悟が無いよりもいいと思うぞ?あぁ、エチケット袋は忘れないようにしないとな」

「は、吐かないよ!たぶん!」


 この様子なら…まぁ大丈夫そうだな、と思える程度には元気が戻ったようでいつものように朝の日課のメニューをこなしていった。

 朝の鍛錬を終えて部屋に戻り汗を流した後は、食堂へ向かい朝食をとる。

 数日後には任務が待っているため、トトキの状態をしっかり見てフォローしてやらないといけないな。

 今は持ち直しているが時が近くなればなるほどにプレッシャーが増していくからな。


 それから数日が経ち任務の日がやってきた。

 トトキは任務の内容を告げられ気持ちが沈んだ後に持ち直してからは、特に問題なく過ごしてきた。

 先輩騎士から声をかけられ、アドバイスを貰ったり経験話を聞かせてもらったおかげだろうな。


「時間だ。任務内容について再確認を行う!」

「私から説明いたします。今回の任務は都市の南南西にある崖にある洞窟が目的地です。この洞窟は脱走兵や追放された者たちにより形成された賊の根城となって――」


 今回の任務に参加するのは徒士と騎士、魔装士からそれぞれ一部隊の三部隊だ。

 徒士が入り口の見張りを処理し、騎士が入り口を囲み封鎖した後に徒士と魔装士が内部へと突入することになっている。

 場合によっては搭乗型の中型兵装が出てくる可能性がある為、魔装士の一部はパワードスーツの様な中型の兵装を装備しての参加となっている。


「任務の説明は以上となります」

「よし、ゲートを開けろッ!…出撃する!」


 今回の任務の司令塔となった徒士部隊の隊長が声をあげると、大型ゲートの一部…中型兵装用のゲートが重い音を響かせながら開いていく。

 出撃した俺達は外壁内部を装甲車に乗って、しばらく移動し外へと出た。

 都市の外壁は非常に厚いため、都市の外に直接通じている最も分厚い第一門をはじめ複数の門扉があるのだ。


(久々の外だな…。見た感じは前世とさほど変わらないように見える)


 周囲を見渡すと前世で見慣れた風景が目に入ると共に色々と思い出される。


(あの森では…でも、か?色々あったな。泊まり込みで魔物の群の討伐が行われたりな…)


 あの森で野営したことがあり、当時の仲間で味音痴のやつが料理当番になった時は…ひどかったな。

 あの時は味音痴だと周囲は知らなくて…出来上がった料理はひどい味で散々に言われていたが、作った本人はおいしいと言ってたな…。

 魔物の討伐がメインであったが、負の力に影響され正気を失った知り合いとの戦うこともあった…捕縛し都市へ連れ帰ることはできたが治すことはできなかったな。

 そして…奥地では俺が記憶を持ったまま戻ってくることになった原因とも言える一件の起きた場所だ。

 乗っていた輸送艇の墜落と…黒い霧のようなもの…身体を乗っ取られた俺によって仲間が…勇者が殺された場所。


(あの時のようにならない為に幼い頃から勇者と共に鍛えてきた。それに今は女神からの加護が強化されているから耐えられるはずだ…。)


 問題はないはずなのだが…考えるうちに少し不安な気持ちが出てきてしまったな。

 気を逸らす為にも進行方向へと視線を向けると、だいぶ目的地の近くまで来ていたようだった。

 もうすぐ俺達は移動用の装甲車から降りて徒歩で洞窟へと向かうことになる。

 任務に参加している騎士は訓練生がいるということで多めに配備されているので心配はないだろうが、トトキは初めてだらけの任務だから気にかけておこう。


 それから少し経ち、目的地の手前で装甲車を降りた時に違和感を感じた。

 周囲の騎士達も同様に違和感を感じたようで周囲を探っている様子だったが…すぐに違和感の原因が判明した。

 魔物の気配が多いのだ。普段であればもう少しまばらなはずだが…今はあちこちに感じる。

 とはいえ…すでに相手に接近はバレているはずなので任務を中止するわけにはいかなく、注意しつつもできるだけ素早く任務をこなすこととなった。

 脱走兵が混じっているのであれば周囲を窺える装備を持っているはずだからな、出直しとなるとすでにもぬけの殻になっている可能性が非常に高いだろう。


一抹の不安を抱えながらも任務をこなす為、俺達は騎士と共に洞窟へと向かって移動を開始するのであった。

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