第5話 実力試験

 ―― あらすじ ――


 寝落ちして終わった入学式


 ―――――――――


 実力試験が行われる日。仮で割り振られている教室へ向かう。


「まずは筆記試験…まだ入学したばかりで何も教わってないんだけどなぁ…。」

「安心しろ。筆記試験前に圧縮学習装置を使って色々と覚えさせられるから。」


 勉学の効率を大きく変えることになった圧縮学習技術…機械を使い様々な知識を一時的に脳へと押し込む技術。あくまで一時的なものなので完全に定着させるには復習しきちんと覚えこむ必要はあるのだが…。それでもあるのと無いのとでは差は歴然で時間効率が大きく上がり限られた学校生活でより多くの物事を学べるようになった。


「あれ、それなら筆記試験なんてしてもみんな同じになるんじゃ…?」

「それがそうでもなくてな。装置で覚えたことをうまく引き出せなかったりしてテストでの点数に差が出るんだ。一応は頭に入ってるから復習すればきっちり覚えられるみたいだけどな。」


 2人で技術ってすごいね!と話していると教室へ到着する。到着したのは集合時間の10分前だったがすでにほとんどの席が埋まっており、皆やる気に満ちていた。


 5分前になると教師と複数のカートを押した大人が入ってくる。カートを押しているのは服装的に騎士のようだ。この後の実技試験まで手が空いているから手伝っているのだろう…。騎士が押しているカートの上にあるのは小さな機械だ。


(圧縮学習装置って結構小さいんだよな…。しかも髪の上からでもしっかり頭に固定されるし…不思議だな…。)


 機械がそれぞれに配られるのを見届けられた後、教師の合図で一斉に装置が起動される。何度経験しても不思議なものだ。知らないことを学んだわけでもないのに自然と理解できるようなる。しかもあまり時間をかけずに。

 装置が役目を終え停止すると騎士たちにより回収され筆記試験が開始される。バレないよう周囲を確認するとスラスラと解いている者が4割、時々止まりながらも筆を進めている者が4割、2割は顔を顰めている。数人ほどは腹痛を堪えているっぽいな…。


「リフ君は筆記試験どうだった?」

「簡単だったな。トトキはどうだった?」

「僕も簡単に思ったよ。それにしても圧縮学習って不思議だね。機械を使っている時は何も感じなかったのに、テストが始まったら知らないはずの問題がわかるんだもん。」

「あくまで一時的に覚えているものだけどな。普通に勉強して覚えた事と違ってあっという間に忘れていくから気を付けないとな。」

「わかってるよ~…。あ、時間が。移動しなきゃ。」

「時間が来たら先生が来て案内してくれるからここで待ってて大丈夫だぞ?」


 次の実技試験は専用設備のあるシミュレーションルームで行われる。この部屋は仮想空間を生み出し内部で様々な事象を再現できる機会が設置されている。核の計測装置もこの部屋に置いてあり、試験前に計測を受けることになっている。計測中には本人限定で核を見ることができたりもする。親しい友人同士で核の見た目自慢なんてのもあったな…。


「核の計測か~…いい数値が出たらいいなぁ。あと面白い形とか!」

「大丈夫だろ。それに小さくてもある程度まで成長させられるらしいしな。」

(まぁ心配しなくとも覚醒前とはいえ勇者であるお前ならかなり高い数値が出るさ。)

「次!12番、トトキ・デルワイス!」


 トトキが呼ばれ計測装置へと歩いていく。一応、計測結果については公表することは無かったはずだが…前世では後に騎士団からスカウトが来て話題になった。さらに後に勇者として覚醒し騒ぎになったんだったか。

 実は勇者は過去に一度も現れたことのない、おとぎ話の中での存在だった。特別な加護を与えられ誰よりも強く、人々を守るために戦う善なる存在。まさに物語の主人公に相応しいイメージを持たれていた。それ故に前世では同じ人間ではなくおとぎ話の勇者としてのイメージで見られていたせいで結構無茶な要求をされたものだ。勇者として活動し始めてからしばらくしたらそれも落ち着いたが…。今度はしっかりと勇者も同じ人間なのだと伝え無茶振りは回避しなければな…。


「次!13番、ローリフ―――


 様子を窺っていたが騎士はトトキの計測結果を見て特に態度を変えることは無かった。


(…当時もその場では特に何事もなく進行したんだったか?)


 思い出そうとしても当時は今と違いただの子供で他のことに気を取られていたため騎士のことは記憶になかった。覚えていないことは考えても仕方ないか…。

 呼ばれていたので考えることをやめ装置の前に移動する。最後に見た時はどんな形状だったか…思い返しながら装置に触れ計測を開始する。


(中央にやたら大きい黒い核があるな…こんなものなかったぞ…!邪神の影響か!?)


 記憶になく、明らかに異様なオーラの黒い核がど真ん中に鎮座していた。よく見ると黒い核に重なるように透けている核も存在し、周囲には取り囲むようにいろいろな色の核が存在している。時間が巻き戻され乗っ取られた時の影響は消えたはずではなかったのか…。少し困惑していると計測終了の電子音が鳴る。


「計測終了だ。次はあっちで仮想空間での試験だ。がんばれよ。」


 騎士は特に気にした様子もなかった。計測された数値を見てみると前世での計測とあまり変わらす、それなりに高い程度の数値だった。あの核でこの数値ということは邪神の影響でできたであろう核は神性に関するものなのだろう…女神に確認を取りたいが…成長してからは一度もあの女神達がいる部屋に行けてないんだよな…。まぁ取り囲むようにあった色とりどりの核は女神の加護によるものだろうから黒い核に触れなければきちんと抑え込んでくれるだろう…。

 気にしてもどうしようもないため気を付けるに留めて思考を次の試験へと切り替える。次は技能試験だ。仮想空間内に故障した機械が置かれており修理の手順などは機械より指示が出される。この指示に沿って修理を行うことにより評価を付けられていく。俺もトトキも手先は器用だからな。特に問題は無かった。


 次は最後の試験である魔力試験だ。特に問題はないだろうが気を引き締めていかねば。

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