第4話 気付いたら寝てた

 ―― あらすじ ――


 入学式前のあれこれ


 ―――――――――


 少し早めに到着したためしばらくトトキと会話をして過ごし、ようやく式が始まる時間となった。


「そろそろ入学式が始まるね~。」

「といってもずっと席に座ったまま話を聞くだけなんだがな…。」


 だが、退屈な待ち時間が終わった後もまた退屈な時間が待っているのだ。いや、席に座りっぱなしなのは変わらずに私語が禁止になるため退屈度は式が始まってからのほうが断トツに高い。


「式が終わったら起こしてくれないか?」

「さすがに寝るのはやめよう?」

「どうせ、中身は無いんだから聞かなくても…。」


 俺の友人は真面目に聞くつもりであるらしい。真面目なことだ。

 そんな会話をしているとホールが暗くなり入学式の始まりが告げられる。周囲が静かになり程よい暗さや退屈さと協力して眠気を強く刺激してくるせいで眠りに落ちるまでにそこまで時間はかからなかった。


 周囲が騒がしくなり始めた事で目を覚ますと隣に座っていたトトキが俺に寄り掛かる形で寝ていた。勇者すら眠りに誘う入学式…恐ろしいものだ。

 それぞれが案内状に書かれていた教室へと移動を始めたので寝ている友人を起こして共に教室へと向かう。


「いやぁ、式が始まる前にリフ君にあんなこと言っておきながら自分も寝ちゃうとかなんか恥ずかしいね…。」

「しかも俺より先に寝てたみたいだな?」

「うっ…」


 そうなのだ。俺がウトウトし始めた頃に肩に軽い衝撃があり見てみるとスヤスヤと寝ていた。注意してきたやつが先に寝たことに少しもやっとしたが…まぁ注意する奴がいなくなったので俺も気兼ねなく寝れたからいいとしよう。

 しばらく移動し教室の中に入るとすでにいくつかのグループに分かれていたが友人作りという雰囲気ではなく元からの友人同士でグループを作っているようだった。これから試験を経て本格的なクラス分けがされるとはいえ少しドライに感じる。

 その後、担当の教師が来て今後の予定を告げていく。俺達のクラスの試験日程は今日から6日後の最終日に行われる予定らしい。その後1日休みがありもう一度この教室に集まり試験結果を受け取ったら振り分けられたクラスへの移動となる。たった1日でどう判断してるのかと思うだろうが採点は機械式、その他試験も点数などはその場で入力され後は機械が判断するので実際は1日も要らないほど短時間で結果が出るらしい。が、その場で判断できないとされる事が起きた場合の為の1日だそうだ。


「さて、それじゃあ試験まで何日かあるし特訓するか。」

「試験とか関係なくいつもやってるよね…?」

「まぁな。怠けると後で大変だからな…。一緒にやるだろ?」

「やるけどさ~。特訓ってなにするの?」

「今、考えてるのは――――」


 正直に言うと普段行っている鍛錬をそのまま続けていれば問題ないのだが試験といえば試験勉強!のノリである。まぁ細かい調整を追加して調子を整えておけばいいだろう。

 試験がある日以外は休みなので少し多めに鍛錬をし汗を流した後にのんびりと過ごす落ち着いた日々を過ごした。その中で妹と過ごす時間が今後減るので少しスキンシップの時間を多めにとった。


 あっという間に数日が過ぎ、試験の日を迎える。調子はしっかりと整っており現時点でのベストな状態と言えるだろう。朝の目覚めも悪くなく隣で寝ていた姉を起こそうとして疑問に思う…。


「なんで姉さんが同じ布団で寝てるんだ…。」

「ぁ、おはよう。今日は試験の日だけど…よく寝れた?」

「いつもと変わらずよく寝れたけど。それよりもいつ入り込んだんだ?」

「…夜?」


いや、夜なのは分かってるんだ…。聞いてみるとどうも最近、妹ばかりと絡んでいて放っておかれたように感じていたそうだ。一緒に妹と遊んでいたのに何言ってるんだと思うが…本人曰くそう感じたらしい。


「試験、がんばってね?」

「ありがとう。そろそろ出発の時間だし離してくれないかな?」

「ん、仕方ないなぁ…気を付けてね?」


 朝の支度を終え出かける時間が来るまで手をつないだりハグしたりとべったりだった姉に離れてもらい家を出ると、隣の家からトトキが同じタイミングで出てきた。そのまま合流し試験を受けるために学校へと向かう。

 隣を歩くトトキを見てみるが顔色は悪くなく、魔力の流れも乱れがないため調子は良さそうだ。


 学校に到着してからまず向かったのは以前に集まった教室である。そこで今回の実力試験の説明を受けつつ筆記試験が行われる。当然ながら俺には前世の記憶がある為、筆記試験は楽勝だ。むしろ現時点で存在しない知識を書いてしまわないか逆に気を遣うくらいだった。


 筆記試験の後は実力試験だ。実力試験は複数の項目に分かれて行われる一つは体力試験。持久力や瞬発力、柔軟性等、身体能力の計測が目的の試験だ。

 次に技術試験。これは技術クラスであれば実際に機械の修理や組み立て等を行い理解度や技術力を計測する試験だ。が、今回は入学直後の試験なので手先の器用さ等を調べるために行われる。

 最後に魔力試験。これは量はもちろんとして操作の正確性や瞬間的に放出できる量…等を調べられる。その中で魂に紐づけられた核を調べるという項目がある。核とは魔力を生み出す器官であり、すべての魂に存在するといわれている。その核と肉体の能力の組み合わせで魔力適性が決まるため重要視されている。まぁここで核が小さいと判断されても一定の水準まで安全に成長させる技術が確立されているので成長させる必要があるかどうかのチェック項目の様なものだ。肉体側に関しても普通に鍛えることができるので…特に問題は起きないだろう。問題が起こるとしたら転生した俺と勇者であるトトキだ。核そのものは本人以外が認識できないものの出力は機械で数値化されるため…明らかに普通ではない数値を見て周囲がどう反応するか…。


 この後に起こるであろう事を考えて少し憂鬱になりながら、他生徒たちにより行われている試験をぼんやりと見つめていた。

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