第3話  むき甘栗の乱

かよこが行方不明になった。

まさると共に跡形もなく消えてしまったのであるがしかし

携帯電話も財布も置きっぱだ

かよことまさる、まさるとかよこ

小次郎はかよこがいなくなった日の昼過ぎに彼女の不在に気づいた

店は昼時でまあまあ混雑していた

毎日同じような時間帯にやって来る角の本屋の爺さんと

坂の上かどっかの団地に住んでいるらしい子連れのオバはん

向かいの文房具屋の橋本


「キョキョキョキョキョキョ!!!」

文房具屋の橋本がいきなり絶叫した

そのおかげで団地妻が逃げ帰った

「うるさい!!!なに怒鳴ってんだこのフータローが!!!」

本屋が激昂したが文房具屋の橋本はシカトした


はあはあハアハアはあはあ


「きょ、今日は人妻はいないんですか・・・?」


文房具屋の橋本が呼吸を荒くして小次郎に尋ねた

この男はかよこに気があるらしい

かよこが店にいる時間を見計らってやって来る、毎日

しかも、かよこのことを「人妻」と呼ぶ


気持ちが悪いったらありゃしない


「そういやあいつ見かけねえな・・・。」


まあ、買い物かなんかだろうと気にも留めなかった


信じられないし信じたくないが

その日の深夜

再び小次郎が女房の不在を思い出したのは

深夜3時


実家に帰っていないかと思い

かよこの実家に電話をしてみると婆さんが出た


しかし婆さんは耳がものすごく遠い上補聴器をしていない

その上脳みそがツルツルなんじゃないかというくらい

憎いくらいにボケてしまっている


しかも一人暮らしだ


「あの、かよこはそっちにいませんか?」

「・・・むき甘栗???」

「・・・おばあちゃん、かよこは・・・、」

「・・・・・・・ソノシート???あんた!!!!もしかしてハッチョーナワテのこんちゃんかい????」


ハッチョーナワテのこんちゃんが何者なのか気になるところだったが

会話にならないので電話を切った

すると、ものの2秒も立たないうちに

ババアから折り返してきた


「この野郎!!人が喋ってんのに切るんじゃないっ!!!」

「おばあちゃん、もう寝たほうがい・・・」

「お前、さては昨日の植木泥棒だろっ?」


その後電話を切っては折り返して来る攻防戦が6時間続き

ババアの家にやってきた介護ヘルパーに

ババアを興奮させたことについて叱責されて

終戦を迎えた


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