第41話 洞窟(3)


 朝ご飯を食べ終わると洞窟に向かった。

 残っているポイントは1だけだから、今日のパワーアップは諦めるしかない。昨日も問題なかったのだから入り口周辺ならいけるだろう、と考えて入ったのだけど魔光石はまったく見つからなかった。

 ブチさんの話では一度見つかると、同じ場所ではしばらく出現しないらしい。


「明日はもう少し奥まで入ってみようか」

「ですが、奥は魔物も多いと聞きました。アキトさんが心配です」

「平気、平気。明日はレベルも上がるし、またスキルを獲得するよ」


 前回は2番の招き猫の先まで行っている。明日は体力系のスキルを習得して3番の招き猫の辺りまで探索してみるとしよう。



 目が覚めると雲行きが怪しかった。もう間もなく雨になるだろう。夜はもう明けていたけど、オリヴィアさんはまだテントの中だ。

 低気圧の日はなかなか起きられない人が多い。オリヴィアさんはあれで繊細なところもあるから、こんな日は辛いのかな? 

 俺は大雑把な人間なのでそういうのはあまり気にならない。起きて、さっそくステータスボードをいじりだした。


 固有ジョブ キャンパー(レベル5)

 保有ポイント 7


 個人スキル 天賦の才:毎日6ポイントをプレゼント

 キャンプの申し子:二日間キャンプをすればレベルが上がる。

 キャンプアイテムの交換


 レベルが5に到達したからだろう、毎日もらえるポイントが6になっている。地味だけど、これは嬉しい上昇だ。だって、その分だけ多く食料ガチャを引けるからね。

 問題はポイントルーレットだ。これで大きな数字を引き当てないと、思うようにスキルは習得できない。

 持久力アップ(2)、パワーアップ(3)、瞬発力アップ(4)、レンジャークラス(5)のすべてを獲得するとなると14ポイントが必要になる。

 そろそろ自分のテントや服も欲しいので20ポイントくらいはとっておきたい。

 替えの下着は持っていたので、これまで何とかやりくりできた。会社に泊まり込むことが多かったから鞄に入っていたんだよね。

 人生は何があるかわからない。こんなところでブラックな職場が役に立つとは思わなかったよ。

 なんとか洗濯をしつつやってきたけど、そろそろ限界を感じている。今日こそは身につけるものをまとめて一式手に入れたい。

 祈るような気持ちでスタートボタンとストップボタンを押した。

 結果は……34! 最高得点の36とはいかなかったけど、これだけ出ればじょうできだ。

 まずは5ポイントを消費してTシャツやパンツ、下着や靴下を手に入れた。次はそろそろプライベート空間が欲しい。

 やっぱり年がら年中外にいるというのは精神衛生上よくないものだ。いつ、どんな姿をオリヴィアさんに晒すかわかったもんじゃない。

 アルバトに見られて変な噂を立てられても困る。というわけで自分用のテントを手に入れることにした。

 小さいテントでもいいのだけど、広めのテントを手に入れてオリヴィアさんに使ってもらうとしよう。俺はオリヴィアさんのお古でいいや。

 カタログをめくっていくと、使いやすそうなのを見つけた。


 ベルテント

防水に優れ、快適な居住空間を提供するテント。直径6メートル。

必要ポイント:8


 ベルテントとはサイド部分が立ち上がってベルのような形をしたモノポールのテントだ。この形は世界中のあちこちにあり、中でもモンゴルのゲルやネイティブインディアンのティピが有名である。

 手に入れたテントは直径が6メートルある。これなら中に家具だって置けるな。ストーブの煙突を通す穴もついているから寒くなっても使えそうだ。これでオリヴィアさんも楽に着替えとかができるだろう。

 ついでだから野外用折り畳みベッドであるコットも手に入れておくか。お嬢様がいつまでも地べたに寝ているのは辛いだろう。オリヴィアさんはぜんぜん弱音を吐かないけどね。


 コット

 折り畳み式簡易ベッド。

 魔力循環調整機能付き。五時間の睡眠で八時間寝るのと同じ効果が得られる

 必要ポイント:4


 会社員時代にこんなアイテムがあったら、どんなに重宝したかわからない! それももう過去の話だ。今はのんびりとこれを使うとしよう。

 カタログを見ていたら自分も欲しくなり、これは二つ手に入れた。

 手に入れた備品をチェックしていたらオリヴィアさんが起き出してきた。


「おはようございます。今朝はなんだか気分がすぐれなくて……」

「天気が悪いからじゃない? もうすぐ雨が降りそうだよ」

「あら、ほんとに」


 空を見上げるオリヴィアさんのドリルが儚げに揺れている。俺の視線に気が付いオリヴィアさんにまたもや注意されてしまった。


「アキトさん、そのように見つめられては恥ずかしいですわ」

「ごめん……」


 叱られたけど、前よりは優しめだった。


「ところでそれはなんですの?」

「新しく大きなテントを用意したんだ。雨が降る前に組み立てるからオリヴィアさんが使ってよ」

「それはいけません。こんどこそアキトさんが使わなくては」

「俺はそっちの小さいのを使うから平気だよ」


 それでも遠慮するオリヴィアさんを宥めてベルテントを設営した。


「ずいぶんと立派なテントですわね。これなら二人でも住めそうですわ」

「えっ?」


 思わず聞き返したら、真っ赤な顔で全力否定されてしまった。


「ち、違います! アキトさんと二人でここに住むという意味ではなく、あくまでも一般論を申しただけで、ここを二人の寝室にするとか、居間にするとかいうのを考えているわけではなくですね……」

「わかった! わかったから」

「あ、あう……」


 オリヴィアさんは生真面目だなあ。


「それよりも、朝食にしよう。今日は洞窟の奥の方まで行くんだから、ちゃんと食べておかないとね。昨日のソーセージとブチさんが暮れたパンが残っているよ」

「それでは私がソーセージを焼きますわ」

「じゃあ俺はパンの用意をするよ」


 二人で手分けして朝ご飯の準備を済ませた。


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