第36話 ノッティンガム墓地の惨劇(2)
ノッティンガム墓地はさながら地獄絵図だった。幸いなことにアンデッドの群は墓地のフェンスを乗り越えず、修道院へ向かっている。これなら街が襲われることはないだろう。
もっとも、修道院の中にいる人たちにとっては幸いでもなんでもなかっただろうが。
「これより突撃陣形で修道院へ向かう!」
オリヴィアの命令一下、騎乗した七十二名は一気に墓地へと流れ込んだ。
勢いよく突撃したオリヴィアたちであったが、彼女たちの前には無数のゾンビが波のようにひしめいていた。
「なにが三百だ。こいつは千以上いるぞ」
「泣き言を漏らすな、ガルン。正面の敵はなんとかする。全員わたくしに続け! 奥義、
うろたえる部下に範を示そうと、オリヴィアは大きく槍を振るった。神聖な魔力が込められて槍が輝き、そこから生み出された破光がゾンビたちを蹴散らしていく。
「おお! さすがはオリヴィア殿だ」
彼女の一撃で部隊の士気はあがったが、オリヴィアの表情は浮かなかった。いくら槍を振るってもゾンビは次から次へと増えているのだ。
墓地に埋葬された人々が次々とゾンビ化しているのだろう。昨秋は流行り病で何千という民が死んだ。もし、そのすべてがゾンビ化したら……。おぞましい空想にオリヴィアの背中に冷たい汗が流れた。
「今は時間との戦いだ。生存者を救出してここを脱出するのだ。目的を間違えるな!」
ゾンビの群れにくさびを打ち込みつつオリヴィアは進む。
「修道院の門が見えたぞ!」
騎士ボッツェが叫んだが、オリヴィアは敵から目が離せない。
「門は? 門はどうなっている!?」
「……少し開いています。そこからゾンビがなだれ込んでいるようです」
修道院の門はゾンビの襲撃に耐えられなかったようだ。
「くっ! だがまだ諦めるのは早い。修道院の中にも立てこもれる場所はある! 女神官と子どもたちはきっと無事だ!」
オリヴィアは自らを鼓舞するように叫んで馬を進めた。
修道院の門内に突入した騎士たちは直ちに門を閉鎖した。
新たなゾンビはこれで入ってこられない。
「広場のアンデッドをすべて討ち取るのだ! オットーは防衛の指揮を頼む!」
「はっ、姫様は?」
「ここの敵を打ち払ったら内部へ入る。きっとまだ生き残りがいるはずだ」
「承知いたしました。どうぞお気をつけて」
「守りを頼む」
「姫様」
行きかけたオリヴィアの背中にオットーが声をかけたが、それは豪胆な彼らしくない憂いを含んだ声だった。
「どうしたの、オットー?」
「その……何があってもお気を強くお持ちくだされ」
「わかっています。わたくしは騎士であり聖戦士なのですから」
オリヴィアは力強く頷いてゾンビの群の中に駆け込んでいった。
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