第25話 急成長(2)


 朝ごはんが終わると、すぐにブチさんの家へ行った。


「どうした、アキト? なんだか大きな箱を持ってきたけど」

「これはクーラーボックス。保冷庫みたいなものさ」

「ほほう、中を冷たく保てるニャンね」

「へへへ、これを見てよ。じゃーん!」


 クーラーボックスを開けてアイスクリームの中身を見せたけど、ブチさんの反応は薄い。


「ニャンだ、白い塊のようだけど……」


 ふむ、この島にアイスクリームはないのか。


「ん~、ミニャン族はアイスクリームが嫌いかな? ほら、一口味見をしてみて」


 スプーンですくってブチさんに手渡した。


「ん~、これが食べ物ニャのか? どれどれ……」


 一口食べたブチさんが固まっている。熱いものが苦手なのは知っているけど、冷たいものもダメだったか?


「ブチさん?」

「………………うまいニャあああああああああっ!」


 よかった、やっぱり喜んでくれたか。俺はオリヴィアさんと視線を交わして頷き合った。


「たくさんあるから、ミニャン族のみんなに分けてあげようと思ってきたんだ」

「それはありがたいニャ、さっそくみんなを呼んでくるニャ!」


 ブチさんはいつもの俊敏さで駆けだしていった。


「喜んでもらえたようでよかったですわね」

「ああ、これから忙しくなるぞ」


 ミニャン族は全部で十八人いた。全員が自分の家からお椀とスプーンを持ってきている。


「一列に並ぶニャ。アキトとオリヴィアがアイスクリームを分けてくれるニャ!」


 俺たちはずらりと並んだミニャンたちに、手分けしてアイスクリームを盛り付けてやった。

 ぎこちない手つきながらも、オリヴィアさんは頑張ってアイスクリームの盛り付けを楽しんでいる。


「さあどうぞ、とけないうちに召し上がれ」


 笑顔がはじけているなぁ……。きっとこんなことをするのも初めてなのだろう。


「オリヴィアさん、みんなに行き渡ったようだから俺たちも食べようよ」


 高い位置までのぼった太陽が容赦なく地上に紫外線を降り注いでいた。俺たちは木陰に入ってアイスクリームを食べる。


「美味いニャ! こんなにうまいものは初めてニャ。アキト、お前を見直したニャ」


 タマさんがお代わりを要求しながら褒めてくれた。他のミニャンたちの評判も最上である。


「美味すぎるニャ。夏は毎日食べたいニャ」

「ごめんよ、たまたま手に入れて持ってきたから、同じものは作れないんだ」

「それでも、嬉しいニャ。夏バテした体に力が湧いてくるニャ」

「そうニャ、アキトはミニャンの救いの神ニャ!」

「英雄ニャ!」

「アキトの銅像を村の真ん中に建てるニャ!」


 アイスクリームくらいでそこまで?


「恥ずかしいから止めてよね。そんなことをしてくれなくても、美味しいものがたくさん手に入ったらまた持ってくるよ。それと、砂糖と牛乳と卵があればアイスクリームはつくれるからね」

「本当かニャ!?」


 ブチさんが異様に興奮している。そんなに食べたいんだね。

 ギアカタログの中にアイスクリームボールというものがあったはずだ。一見するとただのゴムボールなんだけど、内部は二重構造になっている。

 保冷剤に包まれた内部にアイスクリームの材料を入れて転がせば、遊んでいるうちにアイスクリームができてしまうというアイテムだ。

 ポイントは5も必要だけど、ミニャンたちがこんなに喜んでくれるのならプレゼントしてもいいな。それに玉遊びはミニャンたちによく似合う。


「でも、牛乳や卵がないと作れないよ」

「牛はいないけどヤギならいるニャ」


 集落から少し離れた場所に放牧地があるそうだ。


「うん、ヤギの乳でもアイスクリームはできるね」

「問題は卵ニャけど、あいつらの卵をとってくれば……」

「まさかアルバトの卵!?」


 そんなもの食べたくないぞ。


「違うニャ! いくらなんでもそんなことはしないニャ!」

「それを聞いて安心したよ。じゃあ鶏がいるんだね」

「ニワトリはいないニャ」

「じゃあ、なんの卵さ?」

「ロックだニャ」


 ロック……、嫌な予感がする。


「それはどういった鳥?」

「体長が十二メートルにもなる巨大な怪鳥ニャ。ここから十キロほど離れた岩の島に秋になると産卵に来るニャ」

「そんな鳥の卵をどうやってとってくるつもりだよ?」

「もちろん盗むニャ! 見つかったら命はにゃいニャ」

「命を懸けるほどの価値があるのか?」

「アイスクリームのためニャ! 仕方ないニャ!」


 ブチさん以外のミニャンたちも一様にウンウンと頷いている。そこまで気にいっちゃったの? ひょっとして俺、罪なことをしたか? 


 呆れて見ていると、オリヴィアが声をかけてきた。


「アキトさん、ロックを捕まえて焼き鳥にしましょう!」

「はっ?」

「ロックの肉は美味しいのですよ」

「そうなの?」

「ロックは草食ですが、穀物を奪うために人間を襲うのです。それで騎士団にいた頃に討伐したことがございますのよ。三体くらいならわたくし一人でも討伐できますわ!」


 それってすごすぎない? 

 しかし、本当にこの世界は弱肉強食なんだなぁ……。


「偉いぞ、オリヴィア! 見事ロックを討ち取ったら、オリヴィアの銅像も建てるニャン」

「それくらいのことで銅像だなんて大袈裟ですわ。ロックを狩れたら焼き鳥&アイスクリームパーティーを開きましょうね」

「いいニャ! いいニャ!」


 なんだか盛り上がっているけど大丈夫かな?


 アイスクリームのお礼にとミニャンからヤギ乳をもらった。クーラーボックスで冷やしておいて明日の朝にでも飲むとしよう。

 ところで、ミニャンたちは本当に俺とオリヴィアさんの像を建ててくれた。と言っても銅像ではなく粘土でできた胸像だったけどね。

 出来栄えは……微妙だった。俺もオリヴィアさんも猫っぽくなっていたからね。オリヴィアさんの猫耳はかわいかったけど、俺に猫ヒゲは似合わなかったな。それなりにかわいくなっていたからよしとするか。

 雨が降ったら像はぐずぐずにとけて流れてしまったけど、それくらいでちょうどいいのだろう。誇るほどの栄光じゃないのだ。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る