第26話 急成長(3)


 午後になるとオリヴィアさんはいつものように狩りへと出かけて行った。


「期待していてくださいませ」


 と言われたけど、それはどうだろう? 

 今日も聖獣に出会って終わりじゃないのかな? 

 それでもいいや、ポイントはまだ15も残っている。新しいスキルを習得したって食料ガチャを回す余裕はあるだろう。

 まずはベーシックスキルを進めたいという気持ちだが、「可食判定」も取っておきたいところである。

 ベーシックスキルの残りは「移動魔法・初歩」(10)と「次元収納」(12)だ。

 きょうじゅうに二つとも習得は無理だから、とりあえず「移動魔法・初歩」と「可食判定」かな……。

 これなら必要合計ポイントは13ですむ。本当は釣竿が欲しかったけど、それは明日以降にしよう。

 まずは「移動魔法・初歩」を習得した。こちらは半径五キロ以内であれば、ベースキャンプの祝福をした地に戻ってこられるというものだ。

 しかも移動ポイントは五つまで登録できるので、ミニャン族の集落、青の滝、狼煙を焚く砂浜などを設定しておくと便利だろう。ただし、使用は屋外のみ、同行者は一名という制限がつく。

 これがあればロックの卵を盗むのも楽になるんじゃないか? 卵を手に入れたたら、移動魔法で逃げればいいだけだからね。

 だが、ミニャンとオリヴィアさんは焼き鳥にこだわっている。ドリルレディーはあくまでもロックを狩りに行くだろう……。


 移動魔法を習得したところでスキルツリーはまた伸びた。


移動魔法・初級(5)→ 移動魔法・中級(10)→ 移動魔法・上級(15)→ 移動魔法・特級(20)→ 移動魔法EX(80)


 等級が上がるたびに距離が延び、登録ポイントが増える仕様になっている。初級になれば屋外制限が外れ、同行できる人数も増えるのか。これはこれで便利そうだ。

 きっと洞窟探検などに応用できるだろう。危険なときは逃げられるというのが心強い。

 それに移動魔法を究めれば島の外だって行けそうだ。別の国をまたいで移動なんてことも可能かもしれないぞ。

 夢は広がるばかりである。


 次は「可食判定」を習得した。これさえあれば食料事情の改善が大いに期待できる。釣った魚だって安心して食べられるのだ。

 これまでも釣りのチャンスはあったけど、フグみたいに毒があると困るから、うかつにできなかったんだよね。


 スキルを二つ習得して残りのポイントは2になってしまった。釣竿を諦めなきゃいけないけど、明日以降の楽しみにとっておこう。

 それに「可食判定」はなにも魚に限ったことじゃない。あらゆる動植物に対して食べられるかどうかがわかるのだ。さっそく使ってみたくなったので、ナイフだけを持って出かけることにした。


 人間が食べられるものは意外と多い。たとえば虫。昔の人はけっこう虫を食べていたらしい。地域によっては今でもイナゴを佃煮にしたり、蜂の子(幼虫)を食べたりするそうだ。きっと美味しいから廃れることなく文化として残っているのだろう。

 プライベートブランドを扱う大手雑貨店でも、コオロギを使ったスナックやチョコレートなんかが売られていたりする。良質なたんぱく質が得られるそうだ。

 俺は進んで食べたいとは思わないけど、いざとなれば贅沢は言っていられない。なんだって食べてやる。

 こうやって自然を観察していると、食べられる虫というのはけっこうたくさん存在している。ただ、美味しいかと言われれば微妙だし、やはり虫を食べるのには抵抗があるというのが本音だ。


 浜辺までやって来るとアルバトが三羽いた。俺の方を馬鹿にした目つきで見ながら声をかけてくる。


「ザーコ、なにをやっているんだ? フナムシでも食べる気か?」


 フナムシを食べてもお腹を壊したりはしないみたいだけど、かなり不味いらしい。とてもじゃないけど食べる気にはならない。


「そんなわけないだろう。貝とかカニを取りに来たんだよ」

「へっ、ここら辺の貝やカニは毒を持っているぞ。せいぜい気をつけな、ザーコ」


 たぶん嘘だと思うけど、そうやって俺を怖がらせようという魂胆だろう。つくづくアルバトは性格が悪い。


「なにが食べられて、なにが食べられないかはスキルでわかるから大きなお世話だよ」

「ケッ、ザーコ!」


 アルバトは悔しそうに大きなくちばしを開いた。


「あれ……、君たち……」

「な、なんだよ、ザーコ……」


 じっと見つめるとアルバトたちはたじろいだ。「可食判定」を使うとき、俺の目は緑色に輝くので恐怖を覚えたのだろう。


「君たちの肉は美味しくないみたいだけど、卵は美味なようだねぇ……」


 なるべくねちっこい声を作って出してやった。


「く、食う気か! お、俺たちは聖獣だぞ、ザーコ!」


 うん、ビビってる、ビビってる。


「アハハ、冗談だよ。食べるわけないさ」

「クソ、うすらボケ人間が! ザーコ、ザーコ!」


 アルバトは西の空へと飛んで行ってしまった。

 散々バカにされてきたから一矢報いた感じだな。あいつら、人のことは平気でおちょくるのに、自分がおちょくられるとキレるんだなあ。そういうところは人間と一緒か……。


 海は今日も雄大だった。波も穏やかで、ぺったりとした水面が静かに隆起と沈降を繰り返している。きらめく波間に小魚たちが跳ねているのが見えた。きっと大きな魚に追われているのだろう。

 俺は絶景を楽しみながら、貝やカニを拾って砂浜を歩いた。

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