第22話 アシカン(3)


 ブチさんの家を訪ねると、ちょうどポーチのところでタマさんとくつろいでいるところだった。


「おお、アキト、よく来たニャ」

「ん、魚を持っているのか?」


 食いしん坊のタマさんは目ざとく魚を発見する。


「たくさんもらったからお裾分けに来たんだよ」

「ピチピチの魚ニャ。美味そうニャ!」


 俺は魚を手に入れた経緯をミニャンたちに説明した。


「それはアシカン族だニャ」


 アシカン族もまたこの島に集う聖獣の一種とのことだ。


「ふーん、ホタテの貝殻をかぶっていたから普通のアシカじゃないとは思ったけど、やっぱり聖獣だったんだね」

「ホタテの貝殻か。だとしたらそいつは半人前のアシカンだニャ」

「どういうこと?」

「アシカンはなによりも帽子を大事にする種族ニャ。いかに素敵な帽子をかぶるかがアシカン族にとっては非常に大切ニャんだニャ。だけど、若い半人前は帽子を手に入れる機会が少ないから貝殻なんかで代用するニャンね」


 聖獣にもいろいろあるんだな。


「アシカンって気難しいの? 親切に魚をくれたけど、あんまり交流を望んでいるって感じじゃなかったんだ」


 俺がそう言うとタマさんは小さく笑った。


「アシカンは矛盾と葛藤を抱えた種族ニャ」


 矛盾と葛藤? なんだか難しい言葉がならんだぞ。


「どういうこと?」

「アシカンは恥ずかしがり屋だけど情の厚い奴が多いニャン。ただ、仲良くなりたいけど話すのが苦手だったり、火が怖いけど焼き魚が大好きだったりするニャ」


 なるほど、葛藤を抱えていそうだなあ……。


「肩がなさそうな体型に見えて肩こりに悩まされているのがほとんどらしいニャ。可哀そうだから、アキトも優しくするニャンよ」

「わ、わかった」


 タマさんとブチさんにアジを一匹ずつ渡してベースキャンプに戻った。



 ベースキャンプに帰るとすぐ魚を焼くことにした。昼食にはまだ時間があるけど、気温が高いので腐敗が心配だったのだ。

 ポイントがたまったらクーラーボックスも必要だな。保冷剤と合わせて手に入れれば食品も長持ちするだろう。

 魔法で魚の神経締めと血抜きはしてあるけど、捌くためにはナイフが要る。残りポイントは1しかないけど、今夜は食料ガチャを引く必要はなさそうだ。安物でいいのでナイフを手に入れてしまおう。


 料理用包丁

三徳包丁(百五十六ミリ)ステンレス製。

必要ポイント:1


 1ポイントの包丁ということで期待はしていなかったけど、切れ味は悪くなかった。比較的大きな薪をまな板にして俺は魚をさばいていく。

 ここでも「キャンプ飯」と「下処理のプロ」の力がいかんなく発揮され、簡単に料理の準備ができた。


「アジは鱗を落として塩焼きだな。スズキはおろしてスープにしておくか……」


 魚のお礼にブチさんたちから玉ねぎをもらったので、スズキと一緒にスープにした。

 味付けは塩のみだけど、おきで焼いたスズキが香ばしく、濃厚な出汁が出ている。アジも脂がのっていてとても美味しそうだ。

 そういえばアシカンは焼き魚が好きってタマさんが言ってた。

 お礼にアジの塩焼きをプレゼントしたら喜んでくれるかな? 

 ひょっとしたらさっきのアシカンが磯で見つかるかもしれないから、もう一度いってみよう。


 先ほどの場所へ戻って来ると、岩の上で昼寝をしているアシカンを見つけた。あのホタテ貝はさっきのアシカンに間違いない。


「やあ、また会ったね」


 声をかけるとアシカンはビクリと体を震わせて海へ逃げようとした。


「待って、焼き魚を持ってきたんだ!」


 背中を向けたままアシカンの動きが止まった。そして首だけを回して俺を見る。


「焼き魚?」

「そう、さっきのお礼に焼いてきたんだよ。アジの塩焼きは嫌い?」

「べ、別に……」


 別にと言って顔を背けながらも尻尾は機嫌がよさそうにペタンペタンと岩を叩いている。よく見ると尾びれの他に足もあった。きっと二足歩行も可能なのだろう。


「よかったらこれを食べてよ」


 塩焼きの入ったお皿を岩の上に置いた。


「う、うん……」

「俺はアキト。君は?」

「トビー……」


 トビーはアジに手を付けようとしない。俺がいると食べづらいかな?


「アジは食べてもらってもいいけど、お皿は返してね。まだまだ俺にとっては貴重なものだからさ。その辺に置いといてくれれば明日とりにくるよ。じゃあね」

「ああ……」


 けっきょくトビーは視線を合わせてくれなかったけど、アジの塩焼きを要らないとは言わなかった。

 きっと難しい性格をしているのだろう。それでも構わないと俺は思う。だってトビーは優しさを行動で示してくれたから。

 所詮何を言っても行動が伴わなければ意味はない。トビーは困っている俺のために魚を獲ってきてくれた。それだけでじゅうぶんだ。おれもトビーの恩に報いることができるようにしようと思った。

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