第20話 アシカン(1)
周囲の物音で目が覚めた。オリヴィアさんはとっくに身支度ができていて、ケトルを火にかけている最中だ。
「おはようございます、アキトさん。もうすぐお湯が沸きますよ。お茶代わりにお飲みになって」
今朝も笑顔とドリルがまぶしい。身支度を整え、勧められた白湯を飲みながら俺はポイントの振り方について考えた。
昨日は節約して4残したので累積ポイントは今朝の時点で9に増えている。まずは当初の予定通りベーシックスキルを伸ばしていくとしよう。
当面の目標は「免疫力向上」である。やっぱり体が資本だから、早い段階でベーシックスキルのツリーを進めておかなければならない。
『キャンプ飯』の次は「キャンプ道具の応用」だ。
これを獲得すれば斧、山刀、ハンマーのいずれかを上手に使えるようになるのだ。どのアイテムを得意にするかはスキル獲得時に選ばなければならないけど、どれがいちばん便利だろうか?
斧は薪割りの必須アイテムだし、山刀は藪を切り開くときに便利だ。ハンマーはペグを打ち込むときくらいしか思いつかないから要らないか……。
斧と山刀で悩んだ俺はオリヴィアさんに助言を求めた。
「そうですわねぇ……、剣は私が使えますので、アキトさんは戦斧をお究めあそばしたらいかがかしら?」
「剣と戦斧じゃなくて、山刀と斧ね。でも、お嬢の言うことにも一理あるな」
次の船が来るまで俺たちはここで協力しなければならないのだ。互いを補うという意味でも斧が使えるようになった方がいいだろう。
「わかった、スキルは斧を選択するよ」
ポイントを4消費して「キャンプ道具の応用」を獲得した。と、同時に「キャンプ道具の応用」からスキルツリーが伸びていく。
バトルアックスの基礎(2)→ パワーショット(3)→ アックスファイター(5)
今回のスキルツリーは初めての戦闘系だ。
「バトルアックスの基礎」は斧を使った戦闘の型などの基本動作を覚えられる。これで弱い魔物くらいなら撃退できるだろうか? わざわざ試したいとは思わないけどね。
また「パワーショット」は魔力を用いた強力な一撃が繰り出せるようになるようだ。
体や武器に魔力を流して使う技だな。ドリル令嬢が使っている身体強化魔法や武器強化なんかに近い感じだろう。
最後に「アックスファイター」だけど、これを習得すれば一人前の斧戦士になれる。一人前がどの程度かはわからないけど、いまのところ必要ないかな?
ただ、何かのきっかけで洞窟に入らなければならない事態が勃発するかもしれない。必要があれば習得してもいいだろう。
残っているポイントは5なので、6必要な「免疫力向上」の今日中の獲得は望めない。でも、明日はレベルが上がるし、その影響でポイントガチャがひける。
とりあえずは安心していいだろう。今日を無事に過ごすことを心掛けて頑張るとしよう。
バナナだけでは足りないので、朝食用に食料ガチャをひいたら、なんと生のジャガイモが出てきた。
こぶし大のものが十個もあったのは嬉しかったけど、これは調理しなければならない。
食料ガチャってすぐに食べられるものだけじゃなくて、こんなふうな食材もでてくるのか。
昨晩のことですっかり料理が好きになったオリヴィアさんが調理してみたいと言ってきた。
「調理と言っても洗って茹でるくらいですよ?」
「洗って、茹でる! どちらも未経験です!」
土のついたジャガイモが綺麗になるだけでオリヴィアさんは感動していた。
ジャガイモは水から茹でるとホックリと、お湯から茹でるとネットリとした食感になるそうだ。今日は水から茹でてみようか。
「大きいと火の通りが遅いから切ってから茹でようね。斬手刀で四つに切って」
「お任せあれ。ジャガイモを切るのも初めてですわね」
オリヴィアさんは嬉々として素手でジャガイモを両断していた。
わずかに残っていた塩をふり、昨日もらったバターを落とせば、ジャガイモは立派な一品になった。
ただ、不満がないわけじゃない。
「バナナとジャガイモでお腹いっぱいになったけど、やっぱり肉や魚が食べたいよね」
「ええ、今日こそは獲物を捕らえたいと考えています」
二度あることは三度あるという。今日も追跡したら聖獣だったなんてことにならないかな?
いつものように狩りへ出かけるオリヴィアさんを見送った。先に水浴びをしてから狩りに行くと言っていたので、俺も時間差で滝へ行くとしよう。
出かける前にステータスボードの確認だ。使えるポイントは4残っている。「キャンプ道具の応用」を獲得したのだから斧が欲しいけど、先にナイフかな?
でも、せっかくだから獲得したスキルを試してみたい。
カタログをパラパラとフリックしていたらいいアイテムが見つかった。
アックス
薪割り、木割り、戦闘までこなす汎用性の高い斧。
グラスファイバー製の柄は865ミリ、頭部の重量2.2キロ。
刃先が食い込みやすい羽根つき型。
消費ポイント:3
衝動買いみたいな感じで、つい手に入れてしまった。
アックスは全体的に黒く、青の挿し色が入っていてカッコいい。道具としては安い部類に入るので耐久性に疑問が残るけど、気に入らなかったら新しいものを手に入れるとしよう。
さっそく使うと、気持ちいいほどすっぱりと薪が二つに割れた。スキルのおかげで筋肉の使い方が手に取るようにわかるのだ。
これなら焚火の材料も簡単に作れそうだ。スキル補正のおかげで俺自身のパワーも上がっている。今ならネズミの魔物くらいであれば撃退できるかもしれない、そう思った。
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