第15話 島での生活(2)
わくわくした気分で目が覚めた。それはそうだ、俺は21もポイントを所有しているのだから!
オリヴィアさんはまだ寝ているけど仕方がないか。昨晩はなかなか寝付けなかったようだ。音を立てないようにランタンのスイッチをオフにした。
さて、有効にスキルポイントを使っていくとしますか! とりあえずということで「キャンプ飯」のスキルを取得した。3ポイントも消費したけど、これで料理の知識と技術が手に入ると考えれば安いものだ。
「キャンプ飯」を取得するとツリーがこんな感じで伸びた。
下処理のプロ(2)→ 可食判定(3)→ 発酵魔法(4)→ 野生のシェフ(7)
「下処理のプロ」は動物や魚類の解体などの知識と技術が身に着くスキルだ。普段の料理の包丁さばきにも影響を与えるらしい。
今後、オリヴィアさんが獲物を獲ってきたときには必ず役に立つスキルだと言える。
「可食判定」は目の前の物質が食べられるかどうかを判定するスキルのようで、今回現れたスキルの中でいちばん身につけたいものだった。
海で貝や海藻を拾っても、食べられるかどうか今はわからないからね。これさえあれば、食用かどうか、どう調理すれば毒が抜けるかなどまでわかるようだ。
また「発酵魔法」は微生物を活性化させたり、増やしたりできる特殊魔法とのことだ。これがあれば短時間で熟成、発酵させることができるぞ。パンを作ったり、お酒を造ったりにも便利だろう。
「野生のシェフ」はこの世のものとは思えないほど美味しい料理を作り出すことができるようになるみたいだ。まあ、そこまで高望みはしていないから、とりあえずは保留でいいかな。
スキルを獲得したので残りポイントは16である。さて、次はどうしよう? スキルツリーを進めるのもいいけど、キャンプのベースをしっかりとさせたいからなぁ……。まずはタープとテントかな。
オリヴィアさんのプライベートを守るためにもテントは必要だろう。シングル用なら4ポイントで交換が可能だ。
それからタープ。タープとは日差しや雨風を避けるための布状の屋根だ。テントだけだと雨漏りが心配だけど、タープがあればその心配はぐっと軽減される。それに日差しの強い日はタープの下でご飯などを食べたりもできるのだ。何かいいものはないかな?
ヘキサタープ
初めてでも扱いやすいタープ。
ポール二本、ガイライン、ペグが付属。
魔力を流すと布地が淡く発光します(三段階調整)。
必要ポイント5。
カタログで調べるとこんなのが見つかった。暗闇が怖いオリヴィアさんでもこれがあれば安心なんじゃないかな。テントと合わせて9ポイントか……。テントはもっといいものと交換した方がいいかもしれないけど、とりあえずはこれでいいだろう。
あれこれとしているうちにオリヴィアさんが起き出してきた。
「お、おはようございます……」
ちょっとやつれた顔を赤く染めてオリヴィアさんは目を伏せている。
「おはよう。体調はどう?」
「ええ……。その……昨晩はお見苦しい姿を見せてしまいました。どうぞお許しください!」
オリヴィアさん的にはあり得ないほど恥ずかしいことなのだろう。くちびるを噛みしめる姿は悲壮感まで漂っている。
抱き着かれて嬉しかったことは内緒にしておこう。
俺は努めて明るい声で話題を替えた。
「そんなことよりこれを見てよ。テントとタープを用意したんだ」
「テントと……タープ?」
テントは知っていてもタープのことはよくわからないようだ。俺はオリヴィアさんにアイテムの説明をした。
「これとランタンさえあれば夜も暗くなることはないよ」
「でもよろしいのですか、テントを私が使っても?」
「自分用もそのうち用意するから平気さ。とりあえずこのブルーシートを簡易テントにするしね」
気温は夜でも暖かい。雨に濡れなければ寒いということはないし、「ベースキャンプの祝福」があるから虫に悩まされることもないのだ。
焦ることはない。今はブルーシートで満足して、先にスキルを獲得していこう。
「とにかく朝ご飯を食べよう。いま食料ガチャを引くからさ」
前回と同じように出てきたクリーム色の箱を開けると、今朝はインスタントスープが一箱入っていた。俺も知っているメーカーのちょっと高級なクラムチャウダーである。
「これは何でしょうか? 箱にはスープの絵が書いてありますが……」
異世界人は粉末状のスープを知らないか。
「これはお湯に溶かすとスープになるんだよ。でも困ったな」
スープを飲むにはお湯を沸かさなくてはならない。行平鍋はあるけど、お皿やカップはまだ持っていないのだ。いい機会だから適当なものを見繕うか……。
カタログでよさそうなものを見つけたから、これを手に入れてしまおう。
アウトドアクッカーセット
収納袋付きで二~三人対応。鍋、蓋、フライパン、ケトル、お碗×3、スポンジ、
フライ返し、おたま、ナイフ・スプーン、フォーク各3本のセット
必要ポイント3
本当はバーナーも欲しいけど、食料ガチャを引いた時点で残っているポイントは6になってしまった。焚き火にケトルをかけると煤で真っ黒になってしまうけど我慢して使う方がいいだろう。用心に越したことはない。
21ポイントもあったから余裕とか思っていたけど、使いだすとあっという間だな……。そういえば
しかも使いだすと長所だけじゃなく欠点もわかってきて、同じ種類でも新しいのが欲しくなるんだよなぁ。
「さて、あたらしいケトルでお湯を沸かしてスープを作ろう!」
「は、はい。でも、本当にスープができるのですか?」
オリヴィアさんは粉末スープという存在がまだ信じられないようだ。
「大丈夫だって。とにかくやってみようよ」
ケトルの熱伝導率は高いらしく、二人分のお湯はすぐに沸いた。ケトルの底は煤で汚れてしまったけどね。新品のお椀に粉末を入れてお湯を注いだ。
「スプーンでゆっくりよく混ぜるんだよ」
きちんと混ぜないととろみが出ないのだ。底の方に塊が残ると味だって薄くなってしまう。
「まあ、どんどんスープらしくなってきましたわ! いい匂い……」
オリヴィアさんの顔がほころんでいる。ポイントは一気になくなってしまったけど、こんな笑顔を見られるのなら使ってよかった。
「それくらいでいいかな。さあ、飲んでみてよ」
「それでは遠慮なく……」
緊張した様子でオリヴィアさんがスープをすくっている。よく伸びた背筋にスプーンの上げ下ろし、所作の一つ一つがお上品だよなぁ……。こういうところを見るとお嬢様であるということがよくわかる。
「思っていたよりずっと美味しいですわ! 本当にクラムチャウダーの味がするなんて……」
そりゃあ、知らなければビックリするよね。
でもスープなんて序の口で、世の中にはカツ丼や牛丼のドライフードだってあるのだ。俺も食べたことはないけどね。食料ガチャで引き当てることができるかな?
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