第14話 島での生活(1)
晩ご飯は焙り肉だなんて言っていたけど、オリヴィアさんの狩りは失敗してしまったそうだ。
「大きな鹿の足跡を見つけて追跡しましたの」
「ふんふん、それで?」
「夕方前に池のほとりで水を飲む鹿の姿を見つけましたわ。すぐさま石を握って投げつけようと思ったのですが、なんとその鹿が水上を歩きましたの」
「水の上を歩いた!?」
「しかも、よく見れば人間とも猿ともつかない顔で、わたくしに微笑みかけるんですのよ」
それ神様的なやつ!
狩ったら祟りを引き起こす系だね。
「つまり聖獣だったってこと?」
「間違いありませんわ。いくら見た目が鹿でも、聖獣を殺めることはできませんので……」
それで時間を無駄にしてしまったというわけか。ドリルまでしょんぼりさせて、令嬢はしょげている。
「相手が聖獣じゃ仕方ないよ。そう気落ちしないで、夕飯にはマンゴーを食べよう」
「はい……」
十二個もらったマンゴーを五個ずつ食べた。残りの二個は明日の朝食用だ。
ブチさんにとってもらったマンゴーはナイフがなくても皮がむけるくらいよく熟れていた。
「美味しい! こんなに美味しいマンゴーは初めてだよ。樹の上で完熟させるからかな?」
「私も初めて食べましたが、濃厚な香りとさっぱりとした甘みがたまりませんわ」
よほどおいしかったのだろう、ドリルの巻が戻っている。
ただ、いくら美味しくてもマンゴーだけじゃちょっと物足りなかった。やっぱり、肉や魚などのたんぱく質がほしいんだよね。
明日になったら食料ガチャで美味しいものを出すとして、今夜は早めに寝ることにした。
「それじゃあ、眠る準備をしよう。」
「たき火はそのままにしておいてくださいね」
さきほどオリヴィアさんが枝を大量に投入したので、火はごうごうと燃えている。
「ちょっと勢いがありすぎない? もう少し火力を落とした方がいいと思うけど」
「魔物が出てきたときなど、火があった方がいいですから……」
燃え上がる火炎のせいで暑いくらいだけど、魔物避けになるのなら、と疑問に思うこともなくそのまま寝た。
夜になって突然雨が降り出した。スコールのように激しい雨だ。
「すごいな、こんな大雨は初めてだ」
肌にあたる部分が痛いくらい激しいぞ。土砂降りの雨に焚き火はシューシュー音を立てて消えてしまった。月も星も雲に隠れているから辺りは真っ暗である。
このまま濡れていたら風邪をひいてしまうかもしれないな。この近所に雨をしのげる手ごろな場所はない。あるのは魔物が跋扈する恐ろしい洞窟だけだ。
幸いポイントは1残っているので役に立つものと交換しよう。
「ちょっと待ってね。いまブルーシートというものを出すから。これで雨を凌ぐくらいは……うえっ!?」
暗闇の中でいきなりオリヴィアさんが抱き着いてきた。まさか、いきなり愛の告白!?
一瞬だけ勘違いしたけど、違うのはすぐわかった。オリヴィアさんはブルブルと震えていたのだ。
痛いくらいに俺の腕をつかみながら歯の根をカチカチ言わせている。まさか、悪性の風邪をひいてしまったのか?
「オリヴィアさん、具合が悪いの?」
「わ、わたくし、暗いところが……」
怯えている? 無敵のドリルが闇を恐れて震えているというのか? でも、この怯え方は尋常じゃないぞ。過去になにかあったのだろうか?
俺の腕をつかむオリヴィアさんの手に、そっと自分の手を重ねた。
「落ち着いてね。とりあえず雨をしのごう。大丈夫、そばにいるからね」
腕を締め付ける力がいくぶん弱まったのでステータスボードを呼び出し、ブルーシートを手に入れた。
拾っておいた枝を砂地に刺して、その上にブルーシートを広げれば簡易のモノポールテンの完成だ。シートの端に岩を置いて風に飛ばされないようにしておく。
「ふう、これでよしと……」
タオルでびしょびしょになった体を拭いて一息入れた。オリヴィアさんは震えたままで髪を拭こうともしない。
「そばにいるからね。こわくないよ」
「…………」
遠慮がちだけど、やっぱり体をくっつけてくるな。そうとう暗いところが怖いようだ。婚約者のニッサル王子とやらには悪いけど、緊急事態だからね。今はこのままにしておこう。
ブルーシートを張ったので、とりあえず雨の直撃を受けることだけはなくなった。やはり予備のポイントを残しておいて正解だったな。今後もできる限り使い切らないようにしておこう。安全マージンって大切だと思う。
一時間くらいバタバタと雨がブルーシートを叩く音だけが響いていた。濡れた服が体温を奪って寒いくらいだ。
オリヴィアさんは相変わらず怯えたままで、体を固くして震えている。何とかしてあげたいと考えていたら、急に魔力が満ちるのを感じた。
固有ジョブ キャンパー(レベル2)
保有ポイント 5
個人スキル 天賦の才:毎日5ポイントをプレゼント
キャンプの申し子:二日間キャンプをすればレベルが上がる。
キャンプアイテムの交換
*レベルアップしました。スキルポイントルーレットが回せます。
ステータスボードを確認するとレベルが上がっていた。そうか、日付が変わったんだな。俺は二日間キャンプをすればレベルが上がるのだ。おかげで保有ポイントが5に増えているぞ。
あれ、ちょっと待てよ。もらえるポイントは4じゃなかったっけ? レベルが上がったからもらえるポイントが増えたってことか!
お、これはなんだ? 文字が点滅しているけど……スキルポイントルーレット?
ステータスボードを操作すると、円形のルーレットが現れた。ルーレットには0~36までの数字が振られている。スタートボタンとストップボタンで得られるポイント数が決まる仕組みのようだ。
0ポイントというのは怖いけど、ルーレットには夢がある。大きな数字を引き当てたら高級食材がもらえる食料ガチャ・ゴールドも回せるぞ。美味しそうなものが出たらブチさんにマンゴーのお礼をプレゼントできるかもしれない。
さっそくスタートボタンを押すとルーレットが回転しだした。
(36、36、36、36……)
頭の中でリズムを刻んでタイミングを計る。
(36、36,36,ここっ!)
引き当てた数字は……18だった。36ポイントとからずれてしまったけど、なかなかの高得点だ。保有ポイントはトータルで23。これならいろいろなギアを用意できそうである。
「オリヴィアさん、もう大丈夫だよ。いま明るくしてあげるからね」
ランタン
最高1500ルーメンの明るさ。最大連続点灯時間二十六時間。
日光でパワーを自動充填。
必要ポイント2
ランタンが光るとオリヴィアさんはゆっくりと俺から離れ、泣きそうな顔で頭を下げた。
「はしたない真似をいたしました……。どうぞお許しください」
その顔はやつれて痛々しいくらいだ。
「気にしなくていいよ。でも意外だったな」
「なにがでしょうか?」
「無敵だと思っていたオリヴィアさんが暗闇に弱いだなんて」
「……理由があるのです」
ボソリと呟いてからオリヴィアさんは背中を向けてしまった。理由というのは話したくないようだ。そこに踏み込めるほど俺たちはまだ親しくない。
雨の音がピタリとやんだ。降るときも突然だったけど、止むときもあっという間だ。
「少し眠ろうよ。ランタンは朝までついているから」
「ええ……」
オリヴィアさんには悪いけど、俺はもう眠さの限界だった。これ以上目を開けているのは辛すぎる。たくさん手に入れたポイントだけど、使い方は明日考えるとしよう。
その場で横になると目をつぶった。
「アキトさん……」
「ん?」
「ありがとう、あなたがいてくれてよかった」
うん、それでも俺たちの距離はまた少し縮まったのかもしれない。ただ、それが俺にとって幸福なことかどうかは判断できなかった。
だって、オリヴィアさんはニッサル王子に嫁ぐ人だ。そして俺はそれがかなうように手伝うと決めたのだから……。
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