第13話 ミニャン(5)
ベースキャンプにマンゴーを置いてから、今度は海辺にやってきた。引き続き食料を探すためだ。
岩場に小さなカニがいるとタマさんが言っていた。カニくらいなら俺でも捕まえられるだろう。
それから、ここでは美味しいマテン貝が取れるそうだ。聞いた感じでは日本の潮干狩りで獲れるマテ貝によく似ているようだ。
砂浜の穴に塩を入れると細長い貝がピュッって頭を出すらしい。でも、塩は持っていないからなあ……。
1ポイントで二キロ入りと交換できるんだけど、なるべくポイントは使いたくない。綺麗な海が目の前に広がっているんだから、海水で塩を作ればいいか。
オリヴィアさんが獲物をとってきても塩は必要になる。肉をあぶっただけじゃ美味しくない。塩味は大切だ。
それに貝やカニを茹でる鍋も必要だ。だったら鍋を手に入れて、海水を沸かして塩を作ることにしよう。
カタログで確かめると1ポイントでも交換可能な鍋があった。アルミ製の
海水の塩分濃度って三パーセントくらいだったよな? たしか理科でそう習った記憶があるぞ。ということは鍋いっぱいに海水を蒸発させれば、およそ六十グラムの塩が取れるわけだ。
さっそく手に入れた鍋に海水を満たした。朝に焚いた海岸のかがり火はまだ燃えていたので、石を積んで簡単なカマドを作り、海水の入った鍋をかける。ん、少し火が弱いな。
「ゲホゲホッ!」
火力を強くしようと思って息を吹きかけたら煙で咽てしまった。ああ、火吹き棒が欲しい。伸縮自在の火吹き棒があれば、焚き火はもっとおもしろくなるだろうに。1ポイントで交換できるんだけどなぁ……。
「ザーコ、ザーコ!」
遠くの方でアルバトが鳴いている。煙に咽ている俺をあざ笑っているようだ。みじめな気持ちになりかけたけど俺は思い直した。
負けるもんか!
ステータスによれば俺はキャンプの申し子で、二日キャンプをすればレベルが上がるのだ。そう、つまり明日になれば自動的にレベルが2になる。
オリヴィアさんはレベルが上がるときにスキルポイントも貰えると言っていた。明日になれば通常の4ポイントに加えて、さらにポイントが得られるはずだ。そうなったらスキル『キャンプ飯』を習得して、さらに美味しい朝ご飯を食べらるじゃないか。悲観することは何もない。前向きにいくぞ!
海水が蒸発するにはかなりの時間が必要だった。新しいたきぎを取りに森へ何往復もしたくらいである。
やがて海水の中の食塩が結晶化して、白くドロッとしたものが鍋の底に現れた。手近な棒でかき混ぜながらさらに煮詰めていく。
不純物とかあるんだろうけど今は我慢だ。完全に水けをなくそうとすれば焦げてしまいそうだったので、適当なところでタオルの上にしっとりとした塩を開けた。
まだ湿っているけど日差しは強い。このまま天日で乾燥させれば、そのうちいい感じになるだろう。
「しょっぺっ!」
出来上がった塩を舐めてみたけど美味しかった。全部で六十グラムもなさそうだ。理屈通りにはいかないのだろう。
塩を作るのは大変だったから、ポイントに余裕があるなら製品と交換する方がいいだろう。この塩は今夜のあぶり肉に振って、余ったら潮干狩りに使うとしよう。
オリヴィア 3
猫ですわ! いえ、正確にはミニャン族という聖獣とのことでした。口に出しては言えませんでしたが、コロコロしていてかわいいのでございます。本当は抱きしめたかったのですが、そんなことをしては失礼ですわね。自重いたしました。
ミニャンたちに教えていただいた滝で水浴びをしました。生まれて初めて太陽の下で裸になりましたわ。なんて解放的なのでしょう……。体を縛っていた鎖がほどけて地上に落ちたかのような心持になりましたもの。
はじめは誰かが(もっと言えばアキトさんが)覗きに来ないかとビクビクしていましたが、そのうちにそんなことは気にならなくなってしまいました。それくらい滝での水浴びは気持ちよかったのです。
裸で泳ぐなんて、屋敷に居たら一生経験できなかったでしょうね。肌を伝う水流がますますわたくしを開放的にしていきます。
誰もいないのを確認して、裸で大きくて足を延ばしてしまいましたわ。はしたないことなのですが、衝動を抑えることができませんでした。
わたくしはいま、これまででは想像もつかなかったような生活をしています。でも、それが案外わたくしには向いているような気がするのです。このままここで暮らすのも悪くない、なんて考えまで頭をよぎります。
わかっています。そんなことは許されません。わたくしはハッフルパイモン家の長女です。ニッサル王子に嫁ぐことだって、わたくし自身が決めたこと。今さら取り消せば家に迷惑が掛かります。
次の船を待ってこのマーベル島を出ていくつもりです。でもそれまではもう少しだけ、この島でいろいろな体験をしたいのです。それさえも本来は許されないことなのでしょうか?
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