第11話 ミニャン(3)


 タマさんが教えてくれた方向に進み、ごつごつした岩場を越えると、やがて巨大な岩が見えてきた。


「どうやらあそこが青の滝のようですわね」

「うん、水音が大きくなってきた」


 期待に胸がふくらみ、知らず知らずのうちに足が速くなっていく。こういう自然を探検すというのもいい経験だ。向こうの世界では仕事が忙しすぎて、それどころじゃなかったもんな。


 そこは美しい場所だった。巨大な岩からはチョロチョロと水が幾筋もしみだして、シャワーのように流れ落ちている。小さな淵に溜まった水は青く澄み、水底の白い砂が見えていた。


「とりあえず身体と髪を洗いたいなあ」


 そうつぶやいたら、ドリルが大きく跳ね上がった。


「ここで水浴びをなさるんですの!?」

「そのつもりだけど?」

「た、太陽の下で裸に……。なんて新鮮な……」


 戸惑っているようだけど、お嬢はどうするのだろう?


「水浴びをされるのならお先にどうぞ」

「わ、私!? それは……その……」


 お嬢のドリルが恥じらうように揺れている。


「抵抗はあると思うけど、こんな状況だよ。清潔にしといた方が病気にもかかりにくいと思うんだ」

「アキトさんのおっしゃることもわかるのですが……」


 さすがに外で裸になるのは無理かな?


「あの……、アキトさんのことは信じておりますが念のために……」


 ああ、そういうことか。


「覗いたりしないよ。オリヴィアさんはニッサル王子に嫁ぐ身なんだろう?」


 みなまで言うな。


「もし裸を見られたら、舌を噛ませて自害させますわよ」


 噛むのは俺かい!? それはもう自害じゃなくて他殺だぞ。


「見ないってば。そんなに心配?」

「だって……、お母さまが殿方はそういうものだと……」


 やれやれ、それは男の一面でしかないぞ。俺は覗きなんて卑劣な真似はしないのだ(ラッキースケベは除外する)。俺はオリヴィアさんが持っている棒を指さした。


「君の剣に誓うよ。もし俺がオリヴィアさんの裸を覗いたら、その剣で目を潰されても後悔しません」

「そこまでおっしゃってくださるのなら信じましょう」


 俺だって目ん玉をハイパーオーラ突きされたくないもん。


「ちょっと待ってね、いいものをあげるから」


 ポイントは3残っていたので、1ポイントアイテムのタオルセットと交換した。


 タオルセット

 フェイスタオル×2、歯ブラシ×2、髭剃り×2

 消費ポイント:1


 二人分のセットなのでお得だった。これは感覚的なものだけど、1ポイントアイテムは千円くらいまでの品物、2ポイントアイテムは千円~三千円くらい。同様に、3ポイントは三千円~五千円、4ポイントだと五千円~一万円、5ポイントだと一万円~二万円くらいって感じだ。


「これを使って」


 タオルセットを受け取りながらドリルお嬢は目を見開いて驚いている。


「キャンパーというのはどんなアイテムでも手に入れることができるのですか?」

「そんなことはないよ。キャンプに関係あるグッズだけなんだ」


 まあ、かなり広範囲ではあるけどね。


「ありがたく頂戴いたしますわ」

「俺は岩場の下で見張りをしているから、終わったら声をかけてね」


 オリヴィアさんと別れて岩の下へ戻った。


 木陰で岩に腰かけていると、お嬢様の唄声が聞こえてきた。気分良く水浴びをしているようだ。今頃、裸にドリルなんだろうなぁ……。イケナイ妄想が脳裏をよぎるが俺はその場を動かない。理性はちゃんと働いていた。


 小一時間ほど経ってスッキリした顔のお嬢に声をかけられた。


「お待たせいたしました。どうぞ水場をお使いください」


 水浴びのおかげでお嬢の肌は透明感を増し、輝くばかりに美しい。俺は直視するのが恥ずかしくて、なんとなく視線を逸らしてしまった。


「アキトさんが水浴びをしている間、私は狩りをしてまいりますわ」


 生気を取り戻したようにお嬢が意気込んでいる。


「狩猟?」

「アキトさんにばかり頼ってばかりでは申し訳ありませんわ。体力がなくなる前に勝負に出ることにいたしました。晩餐のメインディッシュは焙り肉ですわ!」


 それは俺にとっても歓迎すべきことだ。


「そちらはオリヴィアさんに任せるよ。自分はたきぎを拾いながら帰るから、ベースキャンプで合流しよう」

「お任せあれ!」


 力強くドリルを揺らしながらオリヴィアさんは去っていった。

 彼女がいなくなったところで服を脱いだのだが、そこで気がついた。

 魔物が出たらどうしよう……。

 これまでは聖戦士が近くにいたからよかったけど、今は俺一人で、しかも素っ裸……。ただ、魔物の生息数は多くないようで、今日はまだ一度も見かけていない。

タマさんも洞窟の外に魔物は少ないと言っていた。とは言っても何か戦闘系のスキルを身につけた方がいいよな。せめて武器だけでも手に入れておくか?

 冷たい淵につかりながらステータスボードのアイテム一覧を眺める。使えそうなのは2ポイントアイテムのブッシュクラフト用ナイフだけど、これでは刀身が短すぎてデビルラット相手でも遅れを取りそうだ。でも、棒にくくりつければ槍として使えるかな?

 もう少し長めの武器となると、薪割り用の斧とか山刀マチェットなんていうのもある。だけどこれらは5ポイントアイテムだ。今の俺にそんな余裕はない。残っているスキルポイントは2だけだもんな。

 ドリルお嬢が獲物を捕らえてくれればいいけど、ダメなら今夜も食料ガチャをまわさなければならない。タマさんがマンゴーの生えている場所を教えてくれたから、それでなんとかなるだろうか?

 ポイントの使い方は保留にして、体と下着を洗った。俺はこうしてゴシゴシやっているけど、オリヴィアさんはどうしたのだろうか? あのお嬢様にそんな知識はないだろう。かといって、代わりにしてあげるわけにもいかないからなあ……。

 ポイントが増えれば替えの服を進呈することもできるけど、そんな余裕はまだない。今は洗濯の仕方を教えてあげるしかないかな? フェイスタオルを使って講習すればいいだろう。さっぱりした後はマンゴー採集へ向かった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る