第8話 スキルとアイテム(4)
やがて日が暮れて、辺りは真っ暗になってしまった。気温も下がってきたけど寒いと感じるほどじゃない。むしろ暑くなくてホッとしているくらいだ。でも困ったことも起きている。月が新月で予想以上に真っ暗なのだ。
焚き火ってそれほど明るいものじゃないんだね。ベースキャンプの周囲は暗闇に包まれている。
「うはっ! また火の粉が飛びましたわ。エイッ、エイッ!」
ビクビクしている俺とは対照的に、お嬢様は初めての焚き火が嬉しくてしょうがないようだ。さっきから火をいじくりまわし、どんどん、どんどん大きくしている。枝は山ほど拾ってあるので尽きることはないとは思うけど……。
それにしてもお腹が空いたな。けっきょく今日は水しか飲んでいない。ポイントが復活したら食料ガチャをまわしてみるか。
それと早い段階で『免疫力向上』を習得してしまいたい。今日は一日中歩き回ったけど住人を見つけることはできなかった。まだ未確定だけど、ここが無人島であるという公算は大きくなった。当然ながら医者なんていやしないだろう。
ということは、ちょっとしたケガや風邪などが原因で死んでしまうことだって考えられる。生存率を上げるには『免疫力向上』は必須のスキルなのだ。
そういう意味では歯ブラシだって手に入れないとな。こんなところに歯医者はいないだろうし。だいたい歯を磨かないでいるのは気持ちが悪い。
でも『免疫力向上』(6)を習得するには、その前に『キャンプ飯』(3)と『キャンプ道具の応用』(4)を先におぼえなきゃならない。つまり最低でも13ポイントは必要になるんだな。道のりはまだまだ遠そうだ。
「キャー! 煙でございますわ。目をやられましたわ!」
俺があれこれと心配しているのにお嬢様は無邪気なものだ。半ば呆れながら観ていたら、不意にオリヴィアさんが不審そうに俺を見つめ返してきた。手には煙を上げる棒が固く握りしめられている。
「どうしたの?」
「アキトさんは紳士でいらっしゃいますが、いちおう念のために……。私はニッサル王子へ嫁ぐ身。何かあればお友だちとは言え容赦なくハイパーオーラ
「はっ?」
「緊急事態ですので今夜は近くで休みますが……」
「ああ、そういうことか。やましいことなんてぜんぜん考えてないよ。信じほしいな」
ほんの少しだけしか……。
かわいいなとか、スタイルがいいなぁとか思うくらいはいいよね?
「ごめんなさい。お友だちを疑うなんて私はなんてひどい人間なのでしょう」
「いやいや、そんな気にしないで」
謝りたいのは俺の方だ。ちょっとだけだけどエッチな目で見たこともある。
「でも安心いたしましたわ。やはりアキトさんは立派な方ですわ」
微笑むドリル令嬢はかわいかったけど、寝込みを襲うような卑怯な真似はできない。
そもそも、やったとしても返り討ちだろうしね。ハイパーオーラ斬とやらで真っ二つだろう。
そうかぁ、オリヴィアさんは嫁入りの途中だったんだよなぁ……。強くて、優しくて、おもしろくて、彼女になってくれたら、楽しそうなのになぁ……。
まあ、縁がなかったということだな。彼女が島を脱出できるよう、俺もなるべく協力するとしよう。
それから俺自身の問題もあるな。元いた世界に帰るかどうかだ。通ってきた洞窟を抜ければ帰れる気はする。
するけどなぁ……、いまひとつ帰る気が起こらない!
苦労して地獄へ帰ることもないだろう。ここでオリヴィアさんを助けながらキャンプして、今後のことはゆっくり決めるとしよう。
目の前には幾億もの星がきらめく夜空が広がっている。この光景を飽きるにはもう少し時間がかかりそうだ。空腹を紛らわすためにチビチビと水を飲みながら、眠気が訪れるのを静かに待った。
オリヴィア 2
喉が渇いて死にそうになっていたらアキトさんが水をだしてくださいました。水魔法とは違い、スキルポイントを消費することによって様々なグッズを召喚できるそうです。
単なる雅なジョブかと思っておりましたが、キャンパーの力というのは侮れません。
本日も人の集落は見つけられず、アキトさんと夜を明かすことになりました。
初めての野宿でございます!
火を起こして焚き火をいたしました。自分で火をつけたのは初めての経験です。こんなに楽しいものだったのですね。
私はあの事件以来、暗闇がすっかり苦手になってしまいました。でも、焚き火のおかげで今夜は恐怖に襲われずにすみそうです。アキトさんには感謝しかございません。本当に良い方とお友だちになりましたわ。
少し心配しましたが、アキトさんは紳士でした。おかげでニッサル殿下に対して疚しい気持ちにならずに済みそうです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます