第7話 スキルとアイテム(3)
白い石柱のあるところまで戻ってきた俺たちは石を使って炉を作り、その中に拾ってきた枝を置いた。
「どうやって火をつけましょうか? あいにく聖戦士のスキルに火炎魔法はございませんの」
「それなら任せてよ」
俺はポイントを1消費して百円ライターと交換した。これで残りは2ポイントになってしまったけど、暗闇の中でのキャンプは怖すぎる。今さっき魔物をこの目で確認したばかりだ。
コントロールパネルでライター入手ボタンを押すと、目の前の砂地にオレンジ色の百円ライターが現れた。コンビニなどで売っているものとほとんど同じだ。ただし、こちらもマジックアイテムなのでガスの補充は要らない。つくづくチートである。
「それは何でございますか?」
オリヴィアさんが興味津々といった具合に手元のライターを覗き込んでいる。こうしてみると、かなり好奇心が強いようだ。
「これはライターといって火を点ける道具なんだ」
シュボッ!
「まあっ! マジックアイテムでしたのね」
うん、それほど間違っていないから、それでいいや。
「それでは焚き火の準備をしよう。オリヴィアさん、先ほどの
「お安い御用ですわ。うりゃりゃりゃりゃりゃあっ!」
鉛筆削りよりも早く枝が削りだされていく。出来上がった焚きつけは鰹節みたいだ。これならナイフを手に入れる必要はまだないな……。
「次にこちらの枝を半分に切ってください」
「お任せあれ。ヌオオオオオオッですわあぁ!」
掛け声がお嬢様と猛々しさのハイブリッドでございますな。オリヴィアさんは手を鉈のように使い、次々と燃えやすい枝を作っていった。
すべての準備を整うと、緊張しながら枯草に火を点けた。小さな焔が燃え上がり、続いて細い小枝に火が移る。小さな火は中くらいの枝を温め、やがて大きく育っていった。
「やりましたわ、アキトさん! 私たち、焚き火を完成させましたわ!」
「ええ、こんなにうまくいくとは思いませんでしたよ!」
事前に動画を何本も見ておいてよかったぜ。おかげで失敗することなく火をつけることができた。実をいうと俺もこの手で焚き火をするのは初めてだったのだ。
興奮のあまり二人で手を握り合ってしまったが、オリヴィアさんはすぐにパッと身を引いた。
「い、いけませんわ! 私はニッサル殿下へ嫁ぐ身……」
「ごめんっ! 感動してつい……」
「いえ、私も悪いのです……」
気まずい沈黙の中で夕日が海を染めていく。
「と、とりあえず座ろうよ……」
「そうですわね……」
あ~、びっくりした。でも、女の子の手を握ったくらいで動揺してしまうなんて、俺も年甲斐がないというものだ。もう少し落ち着いた態度で接しないとな。気持ちを切り替えるために、ステータスボードを確認することにした。
交換アイテムとスキルツリーを眺めながら、ポイントの使い方を考えた。
東? の空は暗くなり、今や日は落ちつつある。
今日は水しか飲んでいないので腹が減って仕方がない。そういえば朝から何も食べていなかったな。
ここはひとつ食料ガチャとやらを試してみるべきか?
食料ガチャはポイントを1消費すればランダムで食品が一つ手に入るという便利スキルだ。残りポイントは2あるので、オリヴィアさんの分を入れても二回引けるので安心だ。
だけど、安易に食べ物を手に入れるだけでよいのだろうか?
今夜生き延びることを優先させるなら、先に『ベースキャンプの祝福』を習得した方がいい気もする。
『ベースキャンプの祝福』は防御シールドを展開するスキルだ。カバー範囲は半径四メートルほどで、登録者のみ出入りが自由となる。
強力なシールドではないようだが、あるとないとでは安心の度合いが違うだろう。
少なくとも、いきなり魔物に寝首を掻かれる心配はなくなる。無敵のドリルお嬢がそばにいるとしても、初撃を防げなければ意味はない。それに蚊や蛇に襲われないというのもポイントが高い。
空腹はひどいけど耐えられないほどじゃなかったので、ポイントを2消費して『ベースキャンプの祝福』を覚えた。
スキル取得と同時にツリーの枝が伸びていく。『ベースキャンプの祝福』の先は、
マジックシールド小(3)→ マジックシールド大(4)→ マジックウォール(6)→ ダブルマジックシールド(12)
となっている。これを極めて行けば防御は完璧になりそうだ。
「オリヴィアさん、ここに魔物避けのシールドを張るよ。今晩はその中で寝よう」
「まあ、キャンパーと言うのは多才ですのね。お水を出すだけではなく、そんなこともできますの?」
「あまり強力なシールドではないけど、足止めくらいにはなるはずだから」
期待値は上げ過ぎないのが人生を上手く渡るコツだ。少し謙遜してみせてから『ベースキャンプの祝福』を使った。
両手を大地につき念じると目の前に細い杭が生えてきた。杭には旗がかかっている。
『ここをキャンプ地と定める!』
誰に宣言しているのかよくわからないが、この杭から半径四メートルに淡く光る円陣が現れている。俺とオリヴィアさん以外は気軽に跨げないようになっているのだ。
「どれくらいの強度があるかは自分でもわかりませんが……」
「そうですわね。先ほどのデビルラットの体当たりなら何発かは防いでくれるでしょう」
シールドを確認したオリヴィアさんが保証してくれたので安心することができた。
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