第3話 虚無の襲撃

「おーい、春人。起きろー」


その声を聞いて、俺は目を覚ました。

そこは、先ほど王様にあった部屋だった。しかし、先ほどまでとは違う点がある。

手が結ばれていない。


「ん?これ、なにごと?」


俺が困惑していると


「あ、よかった起きたわ」


霊夜が言った。


「なぁ、これ何が起こってるんだ?」


「春人があの爆発男ぶっ飛ばして気失ったところまでは覚えてるか?」


「ああ、これでもかというくらいはっきりと」


俺がなんかすげぇ能力使えるようになったんだ。忘れるわけない。


「あの後騎士にここまで連れてこられたんだ」


「うん、起こったことは分かったけど起こってるわけがわからない」


「みんなそうだ」


さっきまでめっちゃ警戒していた奴らが急に緩くなった。誰だって不信感を持つ。


すると王様が部屋に入ってきて、玉座に座った。


「どうやら、お目覚めのようですね」


王様は言った。しかし、さっきのような威厳は感じられず、ただ優しい声だった。なんか、気味悪いな…


「先ほどは申し訳なかった。我々も急なことで混乱してしまってた。私が代表して謝らせてもらう」


王様は頭を下げた。王様が頭を下げるって結構激レアなんだろうな~


「そして、あなたたちの今後についてだが、それ専門の人を呼んでおいたから、その人に聞くように。案内してやれ」


「はっ」


王様に命令され、騎士の一人が俺たちを別室まで案内した。


「なんか、あいつ胡散臭いな」


騎士が部屋から出たとき、忍田が言った。


「あいつって、王様のことか?」


池田が聞いた。


「ああ、俺の予想あいつ黒幕だ」


「考えすぎだ。中二病爆発させんな」


「あ?誰が中二病だ」


どうやら忍田の地雷を踏んでしまったようだ。池田、お前ほんとろくなことしないな。


「ま、まぁ、二人とも落ち着いて。そういえば、私たちいきなりいなくなっちゃったけど、先生たち心配してないかな?」


牧原さんがうまい具合にその場を丸く収めてくれた。でも確かに、先生目線急に教室ごと生徒が消えたってことになるからな。心配してるだろう。

俺が先生に連絡を取ろうとスマホを出したとき。


「あ、スマホは意味ないよ」


薄木がパソコンを操作させながら言った。


「この辺、インターネットにつながらないんだよ。さっきから頑張って探してるんだけど…」


そういえば薄木、コンピューターにはめっぽう強いんだった。


「ああ、そういえばお前、俺が紐取った時からずっとパソコンいじってたよな」


「え?ずっと?」


忍田の発言に、俺は驚いた。移動中、何をしてるのかはわからなかったが、薄木の顔は見た。確かに一緒に移動していた。つまりこいつ、歩きながらパソコンをいじるとかいう普通に難易度高いことを平然とやっていたことになる。いや、そんなことよりも…


「それって、俺が死にかけてる時もか?」


「いや、その時にはあいつ迷子でどっか行ってたぞ?」


…は?


「そういえばあいついなかったな」


「ていうかあの時迷子なり勝手に別行動したりで半分もいなかったからね」


もう、だめだこのクラス…


その後きた人に、この国のルールを教わったり、住民票を作ったりした。俺たちはしばらくはあの教室で暮らすこととなり、それぞれ職なりなんなり見つけてから自立するという形になりそうだ。


「それにしても、何とかなりそうでよかったな」


教室に帰る途中、俺は霊夜に言った。


「ああ。でも、まだ職も何とか得ないといけないし、それにどうしてここに来たのか、どうしたら戻れるのかも考えないといけない。これから大変だぞ」


「まぁ、そうか」


そんなことを話しているうちに、教室までついた。日はすっかり落ちており真っ暗である。


がらがらがら


誰かが扉を開けた。みんなで中に入る。教室の時計は八時を指していた。


「八時か。腹減ったな」


「そうだな…あ!」


霊夜がいきなり大きな声を出した。


「ん?どした?」


「何事だ?」


みんなが霊夜に聞いた。


「俺たち、何食べればいいんだ?」


「あ」


「やべ」


「忘れてた」


「それに、この教室に二十人が横になれるスペース机とか考えるとなさそうだけど、俺たちどう寝る?」


「てか、俺たち布団無いから地べたに寝ることになる」


「あと、さすがに男女わけないとまずくね?」


ああ、問題点が多すぎる…


結局俺らは晩飯なし、机といすで無理やり仕切りを作り、何人かは壁に寄りかかりながら寝ることで何とか対応した。


午前二時頃


俺はふいに目が覚めた。いつもだったら寝ている時間なんだけどな。


カタカタカタ…


外からタイピングの音が聞こえてきた。周りを見ると、ひとり分のスペースが不自然に空いていた。パソコンをこんな時間までいじる奴なんて、俺の知る限り一人しかいない。

俺は、みんなを起こさないようにゆっくりと扉を開け、外に出た。


「あ、暁君。まだ起きてたの?」


外には予想道理、薄木がいた。


「まぁ、ちょっと目覚めちゃってな。薄木はどうしたんだ?」


「僕はここら一体の電波を調べてるんだ」


「電波?」


「うん、ちょっとこれ見て」


俺は、薄木のパソコンの画面を見た。そこには、心電図のようなグラフが二つ、映っていた。


「上のは藤桜高校付近の電波。そして、下はここの電波。よく見たらわかるけど、電波の流れが逆になってるでしょ?」


確かに、中心となってる線から、学校付近で上がってるところは同じ分だけここで下がっていて、その逆も同じだ。


「完全に逆っていうのは珍しいから、電波のほかにもいろいろと調べてみたんだよ」


「いろいろって?」


「多分言ってもわからないと思う」


「あ、はい」


多分、専門的なことが多いんだろうな…


「その結果、ここと学校は存在する次元が違うみたいなんだ」


「え?つまり…」


「わかりやすく言うとパラレルワールド。いや、ここは地球や宇宙との相違点も多いからパラレルじゃなくて、異世界のほうが近いかな?」


マジか。俺たち、とんでもねぇ目にあったんだな…


「じゃあ、なんで俺たちそんなところに来ちゃったんだ?」


「さすがにそこまでは…」


「ぐあぁぁぁぁぁぁ」


いきなり教室の上から誰かの悲鳴が聞こえた。


「え?何今の?」


「わからねぇけど、とりあえず行くぞ」


「え?でもどうやって?」


反逆時間リベリオンタイム


「俺なら薄木抱えてでもひとっとびで行ける」


「あ、そうか。お願い」


「あいよ!」


俺は薄木を抱えて屋根上。いや、校舎上?いや違うな…教室上まで飛んだ。そこにいたのは…


「ぐはぁぁぁぁぁ、右手が、右手がぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」


中二病をこれでもかというレベルで発病している忍田だった。


「あ、大丈夫だね」


「だな。一人で降りれるか?」


「うん。降りるのは大丈夫」


「ちょとまてーい!」


俺たちが下に降りようとするのを忍田が止めた。


「ちょ、マジな方で右手がうずくんだよ助けてくれ」


「いや、それただの中二病やん」


「いや、これは俺の封印されし右腕が…」


ああ、中二病にしては忍田ましだと思ってたけど、全然そんなことなかったわ…


「とりあえず、降りたらそのうずいてる右手何とかしてやるから降りよ?ここ危ないし…」


「まぁ、それもそうか」


そうして下に降りようとしたとき。


ザシュザシュザシュ


教室の中から、何かを切る音がした。いや、何を切った音かはわかる。

人を切る音だ。実際に聞いたことがあるわけではないが、直観的にそう思った。


「なぁ、今の音って…」


二人も状況が理解できたようだ。


「…いくぞ」


「わかった」


三人で下に降りて、扉の前まで行った。


「じゃあ、開けるぞ」


「うん、頼んだよ」


俺は一気に力強く扉を開けた。そして、そこには衝撃の光景が広がっていた。


みんなが、血を流して倒れていた。

血は地面だけでなく、壁に。さらには天井にまで飛び散っていた。

俺は、寝ているだけでまだ生きていると自分に言い聞かせようとした。でも、無理だった。この血の量だ。例外なく死んでいる。

そして、崩れた仕切り代わりの机の山に、ひとりの男が座っていた。

フードを深くかぶっているため顔は見えないが、俺らとそこまで年齢は変わらないように見える。


「ああそうか。まだ切らないといけないんだった」


男がそう呟いた。そして、手に持っていた刀を抜いた。


くる…


俺は、身構えた。


虚無ノ陣


きた!


反逆時間リベリオンタイム


俺は奴が攻撃してくるところにカウンターを入れようとした。しかし


ザシュザシュザシュ


「がはっ」


気づいた時には、目の前から奴は消えていた。そして、俺の体に、一つの大きな切り傷ができていた。その威力はすさまじく、俺は血を吐いた。


見えなかった。反逆時間リベリオンタイムを使ってなかったら死んでいた。


俺は、奴がいると思って後ろを向いた。しかし、そこには奴はいなかった。代わりにいたのは


「薄木!忍田!大丈夫か⁉」


切られて大量に血を出し、倒れている薄木と忍田だった。

明らかに出血は致死量を超えている。今からじゃ助からない。他のみんなも、今は息があるが、助からない。一体どうすれば…


その時だった


一人の体から青い炎が出てきた。二人、三人とそれは増えていき、全員が青い炎を出していた。


「青い炎…まさか!」


俺が爆発男と戦った時、この能力に目覚めたときの炎と同じだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る