08


     *


「な、なんですか」

 ワタシを取り巻いているのはK高の女子たち三人組。コンビニ裏の空き地に連れ込まれてしまった。

「服のボタン外して乳出しな。写真とるだけだし」ひょろりと背の高い子がスマホをいじりながら言う。

「いやです。帰ります」通り抜けようとしても、他の二人に腕をつかまれ押し戻される。

「オメエの乳、サラすだけだよ」

「良かったね、AVからオファーくるかも」

「腹さえへこんだら」

 けらけら笑い合う。

「ワタシ、アナタたちに何かしました?」涙が溢れてきた。

 横手にあるコンビニの駐車場から、バイクに跨ったK高の男子がニヤニヤ見ている。

「ほれ、さっさと脱ぎな」ワタシのコートに手が伸びたとき、その声がした。

「何やってんだ」

 流美ちゃんが三人組の後ろに立っていた。

「か、金子さん、ちわっす!」スマホを手にした子の背がピンと伸びる。

 ちわっす!

 ちわっす!

 あと二人も姿勢を正して流美ちゃんに向き合った。

「その子になんか用か」

「いや、あの、その、コイツが金子さんのカレシに手ぇ出したって。だからケジメを」

 パンッ、と音がした。頬を張られて手からスマホが飛んだ。

「だからどうした。その子はアタシの幼なじみ。大事なダチだ」

 ひえ、という声が洩れた。

「指一本でも触れてみろ、ただじゃおかない」

 落としたスマホを拾い、三人組はまたたく間に消え失せた。

 すごい。流美ちゃんがこれほど大物とは知らなかった…… ワタシはすっかり固まっていた。

 駐車場では、K高の男子がバイクを押し身をかがめて逃げる。カッコ悪い。

 流美ちゃんは見逃さなかった。「坂石ぃ。つまらんマネするなあ。男さげたな」

 そして、ワタシと流美ちゃんだけがその場に残った。

 流美ちゃんはまぶしそうにワタシを見る。すぐに背を向けた。

「雪ちゃんは麻緒のこと好きなのか」

「うん。どっちかっていえば好き。全然意識してなかったけど」

「両想いだな。それはいい」

「流美ちゃんはどうなの? 麻緒くんのこと」

「アタシなんかどうでもいいさ。雪ちゃんのことダチって言ったけど、忘れてくれ。アタシの勝手な思い込みだ。不良が友だちじゃ、迷惑がかかる」

 ワタシは大きな声で返していた。「違う。流美ちゃんのせいじゃない。流美ちゃんは友だちだよ。ワタシの大事な友だち。ダチって言ってくれて、とっても嬉しかった」

 歩き去る流美ちゃんの肩が、ちょっと震えたように見えた。

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