06
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流美ちゃんはツッパっているけど、ホントはやさしくておとなしい子なんだ。それはワタシだけが知っている。
流美ちゃんが変わったのは小学校の中学年、新しいお
お
流美ちゃんが拳法を習ったのはそのせいだ。
事情を知った道場のお姉さんが、タダで教えてくれたそうだ。ケンカ拳法だって言ってた。
稽古に明け暮れて、中三の頃にはお義父さんに負けなくなった。そうやってお母さんを
町の不良と懇意になって自分の家を溜り場にしたのは、お義父さんを追い出すためだ。籍の入っていないお義父さんは、居づらくなって家を出た。以来、二度と戻って来ないように、流美ちゃんはずっと悪ぶっている。
高校へ入ると、流美ちゃんはワタシと口をきかなくなった。こわもてキャラを通すためだ。そうワタシは思っている。
同じ中学から来たのは数人だけだから、流美ちゃんとワタシが友だちだったなんて、ほとんどの人が知らない――
あ。
友だちだった、と思う自分に気づいた。
過去形になったことが悲しい……
机の上にノートが開いてある。スタンドの光に白く照らされた紙面には、縦横斜めに一つの名前がひしめいている。
麻緒 光治
この名前をいくつ書いたろう。
麻緒くん。
学年トップをワタシと争う人。
いたずら好きでちょっとダークだけど、カンジのいい男子だとは思っていた。
それが、こんなふうになるなんて。
今日の屋上のこと。あの告白はホントなんだ。
ワタシは予想外のことに動転した……
何にでも積極的な流美ちゃんが一緒にコーヒー飲んだところで、カップルが成立しているとはかぎらない。
麻緒くん、屋上で流美ちゃんの友だちに笑われたかな。ワタシが相手だったから。ワタシ、ああいうシーンじゃ絵にならない。ヒロインになんかなれない。
マフラー預けてきちゃった。どうでもいいけど……
卓上ミラーをのぞく。もう何度目かわからない。
前髪を分けたり、右へやったり左へやったり、ひっつめたり、あかんべえをしたり。これほど鏡と対話したことはない。
この顔のどこに彼は惹かれたのだろう。その答を探している。
唇を突き出して、キスの表情をつくってみた。
鏡の中から、寄り目気味のひょっとこが見返す。
なるほど、キスは目を閉じてするものだ。
二階の窓の外、部屋の明りに浮いた小さな闇に、雪がうるさいくらい舞っていた。
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