05

 もしかして、アネゴとのカップルは既成事実化されてる?

 ──光治ってさ、オクテだし優柔不断なタイプだし。しっかりモノのカノジョが合うんじゃない。

 頬杖ついて上目づかいで、アネゴはのたまったっけ。

 そんなアネゴを、ボクはデレっと見ていた。キレイな女子とコーヒー飲むのは悪い気分じゃない。自慢したい思いだってある。だが、そのデレ顔は多数に目撃されていた。

 この込み入った事情を400字以内で要約できるほど国語力はない。文芸部に入っていればよかった。

「ワタシ、幼稚園から流美ちゃんと一緒なの。友だちなの。ややこしい事やめてよね」

 アマユキとアネゴが幼なじみ…… 知らなかった。仲良くしてるところなんて見たことない。

 ……ボクはダンジョンに落ち込んだのだろうか。

 そのダンジョンはさらなる混迷のステージへ突き進む――

 ぞろぞろ。

 軍団がドアから出てきた。アネゴの取り巻き連中だ。

 タバコか? 冬場はカラオケボックスとちがうんかい。

「なんじゃこりゃー」

「おお、赤いマフラー、プレゼント」

「えー、ウワキ現場に遭遇!」

 なんでウワキだよ……曇り空に感じたイヤな予感はド的中した。

 屋上は一気に誤解のルツボと化す。

 雪ちゃんはといえば、顔を赤くして涙を浮かべている。

 収拾不能。

 くるり背を向け、ヤカラの間を小走りに、彼女は階段室へ消えてしまった。

 赤いマフラーが首に残った。取り返す気もないほど動転したのだ。

 ボクも仕方なく、ニヤニヤ笑いの間を抜ける。脱力状態で階段を降りた。

「金子さんよりアマユキって、信じらんない」

「麻緒ってマザコンかな」

「お母さんのおっぱいが欲しいんじゃね」

 揶揄の言葉が背中を打つ。それでも、マフラーからは柔らかな匂いが立ち昇った。

 ボクは思っている。雪ちゃんはきっと、いいお母さんになるだろう、と。

 彼女は子供を大切にする。そんな彼女がボクは好きなのだ。

 下校時、道端で男の子が泣いていたことがある。

 前を歩いていた雪ちゃんは近寄り、しゃがんで話を聞いた。そして手をつなぎ、路地へ入っていった。

 翌日、何があったか訊くと、落としたレアもののキャラカードを一緒に探してあげたそうだ。

 バス一つ逃した甲斐があって、公園の滑り台でカードは見つかった。お礼にアメ玉をもらったと雪ちゃんは笑った。

 ――ワタシ、子供が泣くの見るとツラくなるの。

 あの笑顔だ。あの笑顔にボクは魅了されたのだ。

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