04


     *


 あいにくの曇り空だ。昼頃までお陽さまが出て、校庭の雪を輝かせていたのに。

 暗い雲が、どんより頭上に覆いかぶさる。なんだかイヤな雰囲気だ。

 深呼吸して気持を切り替えた。吐く息が白い。

 運動靴のラバーを雪に沈ませ、ボクは屋上出口のフェンス前に居る。

 階段室のドアは開けたままだ。

 すこし待つと、ドアから雪ちゃんの丸い顔がのぞいた。

 紺の制服ブレザーにグレーのコートをはおり、赤いマフラーを巻いている。

 ボクを見つけ、ニッと微笑み駆け寄ってきた。

 直感する。この子は、愛の告白だなんて、これっぽっちも思っちゃいない。

 それがボクを動揺させる。

「こんな寒いトコじゃなくてもいいのに」

「いや、ここ、誰も居なくていいから」

「文芸部のことでしょ。男子はやっぱ恥ずかしいのかな。入部OKなの?」

 茫然――

 夏休み明け、彼女が所属する文芸部へ勧誘されたことがある。部員確保のノルマで、誰でもいいから、ってカンジで。「考えとく」という便利な言葉で、あの件は宙ぶらりんのままだ――

 ボクとの接点を懸命に探したのだ。たしかに接点は、それしかない。

 男子高生が友人を使って女子高生を呼び出す。その意味がわかってない。辰則が言っていた。だ、と。

 雪ちゃんはマフラーをほどくと、すばやくボクの首にかけた。「風邪ひいちゃうよ。あす部会だけど、さっそく出る?」

「えっと、違うんだ。ボクは、キミが、その──」

「うん?」首を傾げる。

「好きだ。天藤あまとうサンが、好きです」

 雪ちゃんはフリーズした。入力情報の処理に、たぶん青いクルクルが頭の中で廻ってる。

 唇が尖った。丸いホッペはさらに膨らむ。

「からかわないでくれる」目は怒っていた。

「からかってなんか……」想定外の返答に、用意した対応パターンが無効になる。

「金子 流美さんとつき合ってるんでしょ。どういうつもり?」

「アネゴ? いや、金子とつき合ってなんかいないよ。誰が言ったんだよ、そんなこと」

「マクドとかミスドとかでデートしてるって、みんな言ってるし」

 今度はボクがフリーズする番だ。

 そう。たしかにアネゴと同じテーブルでコーヒーを飲んだ。ドーナツ食った。それは事実だ。けど、一緒に入店したわけじゃない。辰則とか他のヤツと居たテーブルへアネゴがやって来て、空いてるゥ? とか言ってボクの隣に座った。で、アネゴの取り巻きがヘンな理由つけて、そもそもの同伴者を離れたテーブルへ拉致したのだ。

 背筋がスッと寒くなる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る