03


     *


「アマユキ」

「はい」本から顔を上げると政木くんが居た。

 この人って昼休みに図書室へ来ることがあるんだ。

 なれなれしく横の椅子に座ってくる。

 裏表紙を上に、読んでいた本を閉じた。タイトルは見られたくない。

 本の選択は読者の傾向を示す。って、この人、タイトルなんか興味なさそうだけど。

 ぐるりと周りを気にしてから、いきなりニキビ顔を寄せてきた。

 思わず退く。「な、なに」

「オレじゃねえよ」

「はあ?」

「光治がな、アマユキにハナシがあるって」音量を下げて言う。

「コージ?」

「光治。麻緒あさお 光治こうじ

「ああ、麻緒くん。何のハナシ?」

 政木くんはコントみたいにコケた。「それ言ったら伝令にならんだろ。本人に聞いてくれ。今日の放課後、時間とれるか?」

「うーん。30分くらいなら」

「それでいいだろ。放課後、B棟の屋上で光治が待ってるから」椅子を鳴らして立ち上がる。

 言うのがそれだけなら、座らなくてもいいのに。

 二三歩行きかけ、上を向いてため息をつく。また戻ってきた。「、この件は極秘だ。他人ひとに言うなよ」

「どーして?」

「ほらぁ」政木くんは泣き顔をつくる。「ぜんっぜん、わかってない。本いっぱい読んでんだろ。高二だろ。わかれよ。とにかく、黙って、放課後、屋上」

 図書室を出る政木クンを見送りながら、キーボードを押し続けたみたいに、

ワタシの頭に?が並んだ。

 成績優秀な麻緒クンとスポーツ万能な政木クン。仲のいいコンビはいつもフザけ合っている。変なイタズラをして先生に怒られてる。そのコンビと、たぶん目立たない存在であろうワタシに、同じクラスという以外の関連はない。はずだ。

 いったい何だろ?

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